そして、俺の悲劇は終わることを知らない。それ、なぜ糸谷くんが持っているのですか?
第66話 伊世早美優と買い物へ②
ゴールデンウィーク初日。
俺は、いつもより少しラフな格好で、大きな門をくぐった。
伊世早家のお嬢様を連れ出すわけだが、行き先は、近くのショッピングモールである。
休日の公共施設は一般人が多くいるため、できるだけ、伊世早美優とバレたくない。
パパラッチとかが面倒だから。
そのため、俺も公務の服装で、端から見て使用人と分かる格好は避けなければならない。
来る途中、駅の公衆トイレで確認した。
俺は、カーキのテーパードパンツにネイビーのサマーニットを合わせた、紳士的で誠実な印象を受けるセットアップスタイルを映す鏡に満足した。
足元はスニーカーで、いかにも20代半ばのお兄さんって感じだ。
うん。
我ながらイケてる。
「鳩谷さん!お待たせしました。」
伊世早美優は、そう言って、玄関口に現れた。
ギンガムチェックで、春っぽい服装は、男の食欲をそそる。
いつもの綺麗なストレート髪は、緩く巻かれており、カンカン帽とよく似合う。
「では、行って参ります。」
俺達は、メイドさんたちに挨拶をして、屋敷を後にした。
道中、彼女は会話を弾ませる。
「鳩谷さんと二人で...。
今日は楽しみにですね?」
「ええ。」
「今日、プレゼントを一緒に選んでもらうわけですが、鳩谷さんにも何か...。」
彼女は、さっきから何かしらを話すが、尻すぼみな口調のせいか、あまり語尾が聞き取れない。
ブブ
さっきから、スマホが俺の腰を振動させるが、今は無視だ。
ショッピングモールにつくと、GWということで人混みを覚悟していたが杞憂に終わった。
連休初日で良かった。
おそらく、中日なら帰省客やらでもっとごった返しているのだろう。
俺達は、誕プレを吟味するため、色々な店を転々とする。
「王道は、やはりこのようなコップ、日用品でしょうか。」
「はい。その辺りが無難かと思われます。」
そーいえば、自分の事ばかり考えて、誰のプレゼントか聞いてないな。
おそらく、俺のクラスメイトだよな?
一応、聞いてみる。
「ふふ。
友達から内緒にするように.......、と、約束致しましたので.............。」
彼女は、人差し指を立てた。
彼女の口から友達と言う言葉を聞いて、つい親心が覗く。
成長したな。
てか、友達って、仕田原理子とか桜だよな?
誕プレって言ってたから、桜じゃない。
桜の誕生日は、12月だし。いくら何でも早すぎだろ。
だとしたら、仕田原理子か。
彼女のプレゼントとなると、思い付くのは、ヘアバンドとかだが.............。
髪が長い人に定番なプレゼント。
きっと、過去にも飽きるほど貰っているのだろう。
俺は一応、真剣に彼女が喜びそうな物を考える。
しかし、伊世早美優はどこか落ち着きを失っている。
さっきから俺の方を振り返っては、笑ったり、ブンブンと頭を振ったりしている。
はて、俺の顔に何かついてるのだろうか.............。
「わぁ!
鳩谷さん!鳩谷さん!
見てください!クマのぬいぐるみが歩いています!!」
少し興奮した声で通路の向こう側を指差す。
「ええ。
せっかくですし、握手をしに行かれてはどうですか?」
「そうですね!!」
鳩谷さんも一緒にどうですか?
そう聞かれたが、大の大人が着ぐるみの前でキャッキャ出来ない、というか、しない。
彼女は少し残念そうにしたが、ではいってきますと、ショッピングモールのマスコットキャラクターに近づく。
モコモコ、ふわっふわの毛並みで、テディーベアのような感じだ。
俺は、そのモコモコに埋もれ喜ぶ伊世早美優を遠目で確認しつつ、ポケットに忍ばせてあるインカムの通信ボタンをオンにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます