第60話 っく!ヨシヨシタイムは、神からの贈り物じゃ無いのか?

「えっと...。」

男女、二人っきり。

異性、しかも、同じ年代が、閉ざされた空間に閉じ込められる。

これほど、気まずいものはない。





多分、彼女もしかりだ。




「えっと、良かった...。

で、でも、まだ、体調が万全じゃないよね?




だ、だったら、私、も、もう、帰ろっかなー。」






だが、彼女の挙動は、明らかにおかしかった。

矢々葉絃千バージョンの俺には、いつも、明るくて気さくな感じで話してくれる。


なのに、何だ?

この、表情。

彼女の得意技、上目遣いは発揮する場を無くしている。

俺と、目を合わせようとしない。





スカートの裾をキュッと握り、扉の方に目をやる。


俺、何かしたっけ?





一応、謝る?




「えっと...。

多分、いや、結構、迷惑かけたっぽい?

ごめん。


モデルなのに、体調管理怠るって、本当に恥ずかしいよな。

ごめん。」






俺は、両手を合わせ、謝罪のポーズから、彼女の様子をそっと窺う。





「う、ううん。

誰だって、体調崩す時は、あるよ...。」


目線を反らせながら、返事をしてくる。

どこか、元気が無い。



彼女は、さらに顔を下げる。

「...。っつ...。」



小さく、肩を震わせる。


ん?




「び、ビックリしたんだからね!

揺すっても、動かないし...。

もう、会えなくなっちゃうのかと思って...。」



どうやら、泣いているようだ。

随分、心配してくれていたらしい。


ごめんな。桜。





彼女は、躊躇うことなく、俺に抱きついてくる。

「う、ふぇぇぇん。」



よしよし。





俺は、妹との貴重な、ヨシヨシタイムを逃すまいと、彼女の背中に両手を回した。



「っつ...。びっくりしたんだよ?」



うん。ごめんな。

俺は、彼女の滑らかな体を撫でる。


残念ながら、今日は、ポニテだからか、俺の体を誘惑する香りは、少し薄めだ。





か、可愛い。

多分、俺、自制が効かなくなったら、強く抱きしめすぎて、彼女をどうにかしちゃいそうだ。






そんな、薄汚い事を考えている俺。

その思考回路を狂わせる一言を彼女が放った。





「っつ、お兄ちゃんが、風邪を引いた原因は、多分、私なんだよね?

あの時、助けてくれてありがとう。



でも、もう、あんなに無茶してほしくないな。」






へ!?

ん?

はーーー?




今、何て言った?





俺は、彼女の背中を撫でる手が固まった。


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