第61話 私のお兄ちゃんなんだよね?



へ?!




いや、聞き間違いかもしれない。




「ごめん。今、何て言った?」



俺は、手を回している彼女に尋ねる。



幸い、彼女が俺の首回りに抱きついているため、お互い、顔は反対を向いている。



だから、聞き取りづらいのも確かだ。






俺は、背中から彼女が何て言うのか、耳をすます。




「私のお兄ちゃんなんだよね?」

そう言うと、彼女は、ムギューっとしてくれた。





お、お兄ちゃん。

ど、どこからそのワードが?!





「お母さんから聞いたんだよ?」



理解不能。




彼女は、俺の体に回していた手をほどき、ベッドの上に座る。


そして、こう言ったのだ。




「えへへ。


初めまして、お兄ちゃん。


桜だよ?」







この後、俺は、ここまでの経緯を知った。




俺は、あれから4日間、寝込んでいたらしい。

4日か。


消灯台に、俺の赤のスマホがぽつんと置いてある。

結構な数の通知。



ただ、その通知のほとんどが、あるアイコンで埋まっていた。




はぁ。





母。ごめんね。

母。バレちゃった。

母。風邪、治った?

母。許して~。

母。怒ってる?

母。桜、よろしく。

母。本当にごめん。

母。一応、こうちゃんには伝えたよん。

母。後は、二人で上手くやってね。





事の発端は、俺が倒れた後。

すごい高熱だった俺は、スタッフさんの車で、病院に運ばれたらしい。



その時、井勢谷桜も付き添ってくれていた。



運ばれた病院で、医者から、即入院させて、治療をしたい。と言われ、保護者のサインやら、同意書を求められた。

だが、俺の家族事情を知るものは居ない。

井勢谷麻莉が、ぽいっと連れてきたモデルってだけ。


当たり前だ。足がつかないように、きっちりと、隠蔽工作済みだからな。




だから、俺を運んでくれたスタッフさんは、病院に彼女を残し、俺の家族情報を探すため、一旦、所属事務所に戻った。






取り敢えず、代理人の形で、桜がサインを引き受けてくれたらしい。




俺が、処置室につれていかれる時、俺の荷物を、桜が預かってくれていた。




「いとせ君。ごめんね。」

そう言いながら、彼女は俺のリュックの中を探った。


いつもは、人の持ち物を勝手に漁るなんて真似はしない。

だが、緊急事態だ。

早く、俺の親が分かれば、もっと、手厚い治療を受けられると思ってのことだった。





リュックを開けると、内ポケットから、スマホが出てきた。

画面をつけると、パスワードを要求された。

4桁のパスワード。



一回、入力して、間違っていたら、諦めよう。そして、スタッフさんが、連絡先を見つけるまで待とう、そう思って、今思い付く、4桁の数字を打ち込んだ。




0507

俺の誕生日を...。






まぁ。当然、開く。




で、彼女は、電話帳をタップ。

母と書かれた番号に電話をする。





で、あの、おてんば母は、呑気に電話に出たのだった。





「もしもし!!

絃千くんのお母さんですか?!!」





「あら?

とや?

あなたから、電話なんて珍しい!

お母さん、今日の番組収録、頑張っちゃう!!」



そう。

ここからは、シナリオ通りだと思う。






「...?」

どこか、聞き覚えのある声だなぁ。

番組収録って、...いとせ君のお母さんも、芸能関係者なんだ...。

もしかしたら、知ってる人かな?




でも、とやって言ってたよね?

じゃ、矢々葉絃千は、芸名かな?


本名と違う名前を名乗るのは、芸能界では、あるあるだよね。



「あの!矢々葉絃千くんのお母さんですか?」

一応、確認の意味を込めて、尋ねる。




「もう!

とや~。

今さら、何言ってるの~。

私の、井勢谷麻莉のDNA、バッチリ入ってるでしょ~。」




電話口の女性は、こう言ったのだ。



「え?お母さん?」








はぁ。

マジで、頭痛い。

俺は、頭を抱え込む。


あのおてんば母さん。




男か、女か、声で分かるだろ?

母さんの耳は、餃子ですか?


しかも、かけてるの、娘だからな。





しかも、何もされてない時に、俺から、母さんに電話したこと無いだろ?

変だな?って、少しは疑え。




そして、察しろ~ーーーー!!!





「え?桜?」

ここで、やっと、実の娘だと気付いた。


遅いわ!





で、ここから、話は、トントン拍子に進む。





で、こうなった訳だ。

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