第59話 現実だ。

「そーいえば...。桜たちは?あれから、いったいどうなった?」


俺は尋ねる。





「...。自分で汚したケツは、自分で拭えってさ。」

ドンマイ、大将。





ん?

いったい、どういう意味だ?




「...。そこんとこ、詳しく教えてもらえたり...?」


俺は、おずおずと彼女の顔色を伺う。

「彼女から聞けばいいわ。」



まだ、熱も高いんだから寝てなさい。

じゃ、ね。





鳴神は、そう一言呟くと、荷物をまとめ、玄関に向かった。





お、おい。

...。

俺の声は、彼女の耳に届いていないのか、バタンと、扉の閉まる音がした。




「じゃ。多分、俺達は、居ないほうが、話がややこしくならないと思う。

大将、ファイト。」

優も、ひらひらと手を振り、去っていった。







俺は、独り置き去り。


彼女って誰?

何が?

ややこしい?

何の話?



色々と、辻褄の合わない話だ。

俺は、さっきの話の意味を考えながらも、再び襲ってくる睡魔に抗うことが出来なかった。






チュンチュン、チュン、チュン。


瞼の上から、眩しいくらいの日光が注ぐ。





「う。」

外が明るい。

青い空。

あれ?

俺ん家、こんなに天井、白かったっけ...。

点滴台?





「......くん!!」

「......くん!!」


いつかの、覚えのある光景を目にする。

デジャブ?





そこには、俺を覗き込む、井勢谷桜の姿があった。

いつものゆるふわなミディアムヘアを珍しく、後で結っている。

そのポニテ姿に、少し大人しめな、服装。





ああ。

髪をくくると、こんなにも印象が変わるのか。

可愛い。

可愛いぞ、妹よ。





「よかった。

目が覚めたんだね。」






お医者さん、呼んでくるね。

そう言って、彼女は消えた。





お医者さん?何を言ってるんだ。

ここは、俺の部屋...。

じゃない!

病室?




あれ?さっきまで、鳴神達が...。




あれ?

ヤバい。

これ、デジャブってる?

怖い。怖い。怖い。






俺は、今が、夢なのか、現実なのか、分からなくて、必死に今の現状の把握に努める。




多分、俺が風船だったら、パンって弾けて、中を舞う感じ。


一応、ベタだが、頬をつねってみる。

痛い。

あれ?

痛かったら、現実なんだっけ?


こんな感じに、動揺していると、扉をノックする音が響く。



そして、井勢谷桜と一緒に、白衣姿の人間が入ってきた。



俺は、その人の顔をマジマジと見つめる。





「なんじゃ?

わしをそんなに見つめても、脱け殻じゃ。

何も、出やせんぞ。」

嗄れ声のおじいさん先生はそう言った。




良かった。

うん。

男だ。




うん。

夢じゃない。





俺は、自分を落ち着かせることが出来た。

にしても、だったら、さっきまでの、リアルすぎる夢は何だったんだ?






俺は、顔には出さない程度に、内心すごくビビっている自分を感じる。






「お前さん。若いからって、ムリをするんじゃない。

両親から授かった、大切な贈り物じゃ。

命は、限りがあるんじゃ。」



ああ。

普通の親なら、感謝出来たけどな...。





どれどれ。

初老の医者は、診察を始めた。

「うむ。

熱もだいぶ、下がっておる。

とりあえず、もう大丈夫じゃろう。

後、2、3日で退院じゃ。」


そう言って、おじいさん先生は出ていった。







「えっと...。」

どうやら、ここは個室のようで...。

俺は、井勢谷桜と二人っきりという、かなりレアな、とても気まずい、ビッグイベントに直面することとなった。

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