第48話 新入生レクリエーション1日目⑤ 風呂

夕食は食べた。


あとは、風呂に入って、寝るだけだな。

俺は、部屋の隅で、白いケースに入っているスマホをいじっていた。


部屋は、グループ別になっていて、同室に青山智明と佐々木樹が居る。






「糸谷ー。一緒に風呂入りに行こーぜ。でっけーらしいぞ。」

「いい。部屋に備え付けのシャワーですますから。」

なぜか、近寄ってくる青山智明を冷たくあしらう。



「そないつれないこと言わんといて下さいよ。一緒のグループじゃないですか。」

佐々木樹もやってきた。



「そうだぞ。そんな根暗かましてると、友達出来ねーぞ。」

このテンションはなんなんだ。



昼間のレクリエーション中、この2人とは、全くと言っていいほど、言葉を交わしていない。

なのに、俺のプライベートスペースにズカズカと入ってくる感じ。



「うるさい。.............。僕のことは構わず、お風呂入って。」





「何々?何か、俺達と風呂に入れない事情があるのか?」


「分かりました。実は、全身にエッチな刺青彫ったんとちゃいます?」

「.............。違う。」


「おやおや。えらい、返事が弱気になりましたなー。」

「分かった!実は、お前!ち○こ無いのか?」




「は?」



「男じゃないとか.............。」

「それは困りましたね。僕は、クラスメイトです。糸谷くん無実を証明せなあきまへん。」




2人は、顔を見合わせると、にやっと笑った。

悪い顔だ。

こいつら、絶対にしょうもない事を企んでいる。





「おわ。ちょ、ちょ、止めろって!!!」



俺は、2人に拘束されながら、大浴場に連れ込まれた。




「ほら、男なんだから、裸で語らないとな。脱げ脱げ。」

「はぁ。」


俺は、仕方なく風呂に入る。



どうやら、この時間帯は空いているようだ。

他のクラスと鉢合わせしないなら、まだ、ましか.............。



「うぉ。お前、メガネ取ったら、けっこういけてるじゃん。

前髪上げて、コンタクトにすれば?」


「余計なお世話をどうも。」


「んー。この顔どこかで.............。」


ほら、こうなるから嫌だったんだ。


適当に、こいつらの相手をして、風呂を出よう。


「糸谷くん。何かスポーツやってはるんですか?」

「いや。」

「それにしては、結構引き締まった体してはりますねー。」



「糸谷ー。ここの風呂マジでかいぞ!!」


見ろ!クロールだ!!

バシャバシャと、いい年してはしゃいでいる。



「.............。」




彼らを無視して、体を洗い、風呂につかる。


「で、糸谷、お前、あの3人の中で誰が好きなんだ?」

「は?」


「今日ずっと、あいつらのこと見てただろ?」

ニヨニヨと、こちらを見てくる。



「僕も気になりましたわ。

ゲームじたいは、楽しんではる様子無いのに、彼女さんたちを見て、少し微笑むというか.............。」



「な!」



「おうおう。話せよ。俺達、友達だろ?」

「ほんまです。」



あのなー。

男が、恋ばなに食いついてどうする.............。




「話はそれだけ?

なら、もう上がるよ。」



俺は、2人を置いて先に部屋に戻った。









「糸谷くん。えらいのぼせた顔してはりましたね。」

「そんなに風呂入ってたか?」









ドサッ。

はぁ。

無理。

だから、集団行動が嫌いなんだ。

誰かに合わせて行動するとか、ストレスの塊だ。





ブブブ。

非通知設定のメール。



俺は、その送り主の顔を思い浮かべながら、すぐに、完全削除のボタンを押した。






あの悲劇まで、あと、3日。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る