第49話 新入生レクリエーション3日目 危機

「糸谷くーん。こっち、こっち。」

「メガネくん。遅いぞ!」

彼女たちは、俺の方を向きながら、大きく手を振っている。



「糸谷さん。皆さん、呼んでいますよ。」


そして、少し前を歩く、伊世早美優も、俺を急かす。





「.............。ああ。」



このメンバーで、レクリエーションを初めて今日で3日目。

なぜか、俺は、輪の中の中心に埋もれそうになっていた。



俺は、自分の好感度を下げることに、意識を集中させていた。

わざと、聞いてない振り。

そっけない態度。

人に興味の無い目つき。



俺は、こんな奴がそばに居たら、絶対に、相手にしたくないほどの、根暗を演じていたのだが、俺も、良くわからないことに、俺の態度を気にすること無く、彼女たちは接する。



そして、男子もまた、しかりだ。

「糸谷ー。」

「糸谷くん。」

うるさいほどにちょっかいを出してくる。



なんだ?

この、全てを掌握出来ていない感じは。




レクリエーションは順調に進み、コインも、青山智明の推理力のお陰で、他のクラスより多く集まってきていた。

サッカーバカだけじゃ無いらしい。






「おい。いたぞ。c組だ。」

「あいつら、コイン一杯あるからって、余裕ぶっこいてやがる。」

「俺達のクラスが優勝しなくちゃいけないんだ!」





?

木の陰に、3人。人影が見える。

見た感じ、ただの生徒のようだ。

どうやら、俺達のゲームの妨害を企んでいるようだ。



はぁ。

そんなにムキになるほど、このゲームに意味があるのか?

くだらない。




だが、彼女たちに何かあってはいけない。

特に、妹たちには.............。





俺は、そう思い、遠くで俺を呼ぶ、彼女たちと急いで距離をつめた。




「もー。遅いぞ。メガネくん。」

「ああ。」



仕田原理子は、よくある、腰に手をあてて、俺を待っていた。






もう少しで、今日のゲーム終了の放送がなる。

はぁ。

長かったこのゲームも、大詰めだ。

明日は、ゲーム集計結果を発表するだけで、実質、今日が、この宝探しゲームは終了だ。




俺達は、最後のコインを探すため、川沿いを歩いていた。




ゴール地点を先に見てきます。

ちょっと、休憩しとけ。

と、待ちきれない、青山智明と佐々木樹は先に行った。





妹たちは、川縁から魚を見つけて喜んでいる。


俺は、木に寄りかかりながら、川の方を見る。



そんな彼女たちにを見ていると、仕田原理子が近寄ってきた。


「今日は、楽しい?」



彼女は、口を開けば、俺にこう尋ねてくる。

「.............。まあ。」



「んー。

やっぱりさ、誰か1人でも楽しんで無い人がいたら、その人がどうやったら楽しんでくれるのか、色々、試したくなっちゃうよね?」



「.............。」

そう言うものなのか?



「別に、自分たちだけが楽しかったらいいだろ?」



「そういうわけにもいかないよ。だって.............。」


彼女が何か言いかけた時、井勢谷桜の体が傾くのが分かった。

少し離れたところで、伊世早美優は目を見開き、動けなくなっている。




「桜!!!」

俺の体は、脳が理解するよりも早く動いた。




井勢谷桜の体は、川に投げ出されている。

このままだと、落ちてしまう。

いくら、日差しが暖かいと言っても、まだ4月半ばだ。

川の水は冷たいに決まっている。

風邪を引くかもしれない。

確か、このレクリエーションが終わったあと、また、仕事が入っているはずだ。



高校生、初めての行事だから、と、何とかスケジュールを空けれた、貴重な時間なんだ。

だからこそ、妹がこんな形で川に落ちることはあってはならない。

兄として、許せない。

彼女の頑張りを傍で見てきたのは、俺なのだから。

こんなにも、可愛い妹を突き飛ばす奴は許せない。


さっき、森で見かけたときに、あいつら、しばいておけば良かった。

そうすれば、井勢谷桜が突き落とされることはなかった。





「さくらーーーーーー!!!」


俺は、回りの目を気にすることを忘れ、彼女に手を伸ばした。


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