第47話 新入生レクリエーション1日目④

「俺たちのコースは、森の中にあるコインを探せばいいんだろ?」

青山智明は、張りきりながら言った。



「そうみたい。」




「じゃ、バラバラで探そうぜ。その方が、効率がいいだろ。」




「いや、青山くん、単独で動くのはあまり、良いとは、言えへんみたいですよ?」

「ん?何でだ?」


「ほら、これ。

先ほど、コースが決まったときに、先生が渡してくれはったカードです。

どうやら、順番に謎を解けば、コインの在りかが、どんどん分かるって感じやそうです。

ここは、皆さんで固まって、行動しはるのが、ベストやないでしょうか。」


佐々木樹は、謎が書かれたカードを見せながら言った。




「うーん。

そうだねー。

闇雲にコインを探したとしても、こんな広い森のなかじゃ、一年かけても、見つからないね。

それに、ゲーム中は、携帯端末は没収されてるし、一度、グループからはぐれると、もし後で合流したいとき、大変かも。

私は、こう言う、謎解きみたいなの苦手だし、余計に皆と一緒がいいな。」


にゃは。戦力不足で申し訳ない。と、仕田原理子は笑った。




「ええ。クラスの結束力が求められると、会長もおっしゃっていましたし.............。

私も、一緒に行動するのが最善策だと思います。」




「ちぇ。分かったよ。この6人で、まとまって探そうぜ。」




「ふふ。皆、やる気満々だね。私も頑張らなくっちゃ。」

井勢谷桜も、そう笑う。






「じゃ、まず、最初の暗号は.............。」

こんな感じで、謎解き宝探しゲームみたいな、俺たちのレクリエーション、初日が始まった。





彼らは、なぜ、こんなにも、レクリエーションを楽しめるのか。

たいした景品も無いというのに、その活気はどこから湧いてくるのだろう。





やっぱり、こんな行事、来なければ良かった。

俺が外に出るとろくなことが無い。

面倒なことに巻き込まれるのは、嫌なんだ。



そもそも、俺が、この高校に入った理由だって.............。




何となく、このグループの中で、俺だけ、モチベーションというか、気持ちが高ぶらない。

どうにか、平然を装っているが、今すぐにでも、帰りたい。

俺は、そう思いながら、皆の後をただ、ついていった。




「お、この暗号、簡単だ。最後に、『かんぬきより』って書いてあるだろ?だから、この文は、『か』と『ん』を抜いて読めば良いんだ。」



「なるほどねー。青山、やるじゃん。」


「俺の兄ちゃんが、こう言うの好きでさ、よく、脱出ゲームとか一緒に参加させられてたんだ。」

だから、これくらいは、任せとけ。




「じゃーあ。『か』と『ん』を抜いて読むと.............。」



「『もりのいりぐちまつのきのした』.............。」



「『森の中を入り口、松の木の下』ってことやないですか?」



「あった!この辺に、松の木はこれしかねーし。じゃ、この辺に.............。」




「あ、あった!あったよー!」

仕田原理子は、木の根もとにしゃがみ、指差す。



「金のコインが入ってる!

あと、次の謎解きカードも!」






まぁ、所詮、レクリエーションだ。

あまり、手の混んでいない謎解きが用意されている。




皆、結構、順調にコインを探し出している。






「皆さん、お疲れ様です。

1日目レクリエーション終了の時間になりました。

各グループの皆さんは、各コース担当の先生に今日の成果を集計してもらい、宿舎の方に戻って下さい。」




森全てをカバーするように、大音量で放送が流れる。





「えー。もう終わりかよ。」

「いいじゃん。結構、コイン集まったしね。」

「ええ。明日もあるのだから、無理をする必要もないでしょう。」

「へぁー。森中歩いて、ヘトヘトですわ。これが、まだあと、3日も続くと思うと.............。」


「何言ってんだ、後半、結構楽しんでただろ?」

「ほんまですかー?」


楽しそうに、会話をしている。






「メガネくん。退屈そうな顔をしてる?」

「え。」


後をついて歩いていた俺に、前を歩いていた仕田原理子ペースを落として、近付いてくる。



「今日、ずっと、そんな顔してたでしょ?」


「別に。」

ただ、このレクリエーションに参加する必要性を感じていないだけだ。




「そんな顔をしてると、楽しいことも逃げちゃうんだぞ!」

うりゃー。


仕田原理子は、俺の顔を引っ張ってくる。


「ひぁ、ひゃめろよ。」

俺は、彼女に抵抗する。




「じゃ、そんな顔しない。

このレクリエーション、メガネくんにとって、何が不満なのかわからないけど、それでも、私達と一緒に居るときは、笑っててもらいたいな。」


そう、前を見ながら言う彼女の横顔は、すごく眩しかった。




「おーい。仕田原!糸谷!

ゆっくりしてると、おいてくぞー!!」



「ごめん、ごめん。ほら、行こ!明日は、絶対に、メガネくんを楽しませて見せるから!」



そういって、彼女は、俺の手を引っ張り、皆の中に連れていった。


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