第24話 伊世早美優のお礼

俺は、目の前の光景に絶句する。

フォーマルやセミフォーマルのドレス、スカート、ズボン。

皆、思い思いの格好で、最大のおめかしをしたのだろう。

この雰囲気と場には、初々しさと、純粋な楽が混在していた。





「あ!桜ちゃん!」



「井勢谷さん!遅いよ~!」



「もうみんなとっくに始めちゃってるよ。」


「お。

伊世早さん。このシャンパン開けていいか?」


「マジ、うめー。今日来て良かったー。」





そして、その空間にいるのは、第二高校、俺のクラスの同級生たちだった。



訳が分からず、目を泳がせている俺に、伊世早は、両手の指を絡ませながら、言ったのだった。



「鳩谷さん。

いつも、お世話になっています。

今日は、鳩谷さんに楽しんで貰いたくて、私からささやかなプレゼントです。

本当は、私と鳩谷さんの2人でやろうと思っていたのですが、それだと、盛り上がりに欠けるかと思いまして、急遽、予定を変更いたしたんです。」



そんなことを言われる。記憶に思い当たる節がない。


「お嬢様にお礼を言われることなど、何も致しておりませんが.......?」



「いいえ。

私は、日頃から、鳩谷さんの、世間の見方、考え方を聞き、大変ためになっていると感じております。

高校進学も、鳩谷さんの言葉があったからこそ。

今の私があるのも、鳩谷さんのお陰だと、恥ずかしながら、思っております。」




そーいやー、そんなこともあった。

ただ、あれは、自分の本性と素性を隠して、いかに、うまく生きていくのか。

ただただ、息苦しい思いをして、肩身の狭い思いで、俺が我慢する意味もない気がするから、その辺は、バランスを取りながら、密かに、楽しいライフを送りたい。

って言う感じの、俺の願望を大分オブラートに包んで、世間話の1コマに添えただけだったように思うが.......。



返答に、困っている俺を置いて、彼女は、勢いついでに、話を続ける。



「ですので、長年の感謝を込めて、丁度、高校入学と言う節目に、お礼を伝えたかったのです。」




「喜んでい頂けますか?」

それとも、やっぱり、私が....か、からだで..........。


彼女は、なにかモジモジしながら、呟く。




「で、せっかくなら、クラスの親睦も深められたらいいねってことになったんだよね。」

隣で、俺たちのやり取りを見ていた、井勢谷桜は言った。




「そうそう。」

「皆、思い思いの場所で、別々に交流するんなら、いっそのことまとめて、そういった場所を作ろうって。そしたら、伊世早さんが、部屋なら余ってますよ。って。」



伊世早さんありがとう。

そう言いながら、近付いてきたのは、鳴神美琴と仕田原理子だった。

どうやら、もうクラスの中心人物に接近出来たらしい。




というか、伊世早美優は、自分をただの高校生として、接してくれとか言ってたよな?もう既に、高校生の出来るレベル越えてる気がするが.......?


屋敷の大広間借りて、親睦会って、どっかの貴族のパーティーかよ。

そう突っ込みたいが、多分、彼女のなかでは、ただ、クラスメイトを家に呼んだだけってことになってるんだろうな。



「ですから、今日は、鳩谷さんも、使用人ではなく、お客さんとして、くつろいで行って下さいね。」



そうは言っても、クラスの親睦会に、使用人が混ざれと?

今、どう見ても、クラスの親睦会がメインだろ。

どうゆっくりさせたかったんだ?

うーん。よく分からんぞ?





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