第16話 鳩谷正也(はとやせいや)

目的地までの道のりを、井勢谷桜と並んで歩く。




「................。」

気まずい。




俺は、ふと、近くに止まっていた車の窓ガラスに目をやる。




きっちりと整えられた、真っ黒な前髪。

上から下まで真っ黒い燕尾服、そこから見えるネクタイもまた黒かった。

手には、白の手袋をはめている。





そこにいるのは、高校生である根暗なボッチ系、糸谷早瀬の姿では無く、

また、明るい髪色の元気系、売れっ子モデル、矢々葉絃千の姿でもなかった。




そう、これがもう、一つの俺の顔、鳩谷正也(はとやせいや)である。




なぜ、わざわざ、燕尾服を着て、伊世早本家の豪邸に向かっているのか。


まあ、それは、着けば分かる。




ひとまず、井勢谷桜が、俺であることに気づいていないから、善しとしよう。







「お客様。」

彼女の方を向く。





「こちらが、正門になります。ようこそ。伊世早グループへ。」








そう言って、俺は胸ポケットから、ICカードを取り出し、セキュリティを解除してから、

馬鹿デカイ門の扉を開いたのであった。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る