第17話 もう一人の俺。

「今日は、来てくださって、ありがとう。」

「あ!伊世早さん。」

玄関で、井勢谷桜を出迎えたのは、あの社長令嬢、伊世早美優であった。







「鳩谷さんと、ご一緒だったんですね。」


「あ、お名前、鳩谷さんって、言うんですね!道を案内してくれてありがとうございます。」





「いえ。この家に仕える者として、当然のことでございます。」

俺は、目を伏せ、胸に手をあてながら、紳士に応える。




「仕える?」

彼女には、いまいち、ピンと来てないようだ。





「ええ。

鳩谷さんは、お父様の秘書兼、私の専属家庭教師なの。」



そんな、井勢谷桜に、伊世早美優は、そう恭しく、言った。



「うわー!本物の執事さんなんだ。」

「ええ。とても優秀な方で、お父様もよく、お褒めになっています。」




「すごい方だったんですね。若そうなのに。」

てっきり、同級生くらいの、お金持ちさんかと思ってました。



と、井勢谷桜は、慌てていた。



いや。お前の勘は当たっているよ。

出来れば、そう言って、この仕事から逃げ出したかった。













この俺、鳩谷正也が誕生したのは、俺が、矢々葉絃千を名乗るもっと前。


父に連れられ、デカイこの家にやってきたのは、小学4年の頃だと思う。


「我が息子よ。お前は、俺に似て、普通の小学生より身長がデカイ。

それっぽくしたら、7・8歳は老けられる。」

そういった。






俺は、小さい頃、母と田舎の一軒家に住んでいた。

今、思えば、俺の育ての母親は、金で雇われただけのメイドだったんだろう。





父は、仕事があるとかで、たまにフラッっと帰ってくるだけだった。

その時、手土産に、といって数学と国語と社会などの問題冊子を持って帰ってきた。




子供ながらに、たまにしか居ない父が、俺にと持って帰ってくるものは何でも嬉しかった。

だから、確率や、統計、作文、社会情勢の調べ学習なんでもやった。

誰か、誉めてほしい。


素直で、人を疑うことを知らない、良い子供だったんだ。



今、思うと、あれは世界経済での、株価の流れの予測と、会社の事務作業だとおもう。




「勉強だけは、大事だから、しっかりやれ。」

父は、俺の顔を見るたび、こう言う。


まあ、ちまちました勉強も、嫌いではなかった。

小学校でも、活発に走り回る方じゃなかったし.......。

そう言う性格が災いして、人並みの小学生よりは、多分、かなり賢かったんだとおもう。





その時、丁度、糞親父の父親が、急死したらしい。


糞親父は、大グループの、息子として、出世の余裕をぶっこいていた。

次期社長としての、勉強もそこそこに、いい年して、まだ青春を謳歌してたって話だ。

だから、いきなり、社長の代わりなんて、出来るわけ無い。

そこで、困りに困った末、田舎に隠していた、息子を頼ったのであった。




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