第12話 デートコーデ企画①

矢々葉絃千、モデル.............。

 だから、俺はここにいる。

井勢谷麻莉の本物の子供、井勢谷桜とともに。



「次に、今日お世話になる女優の井勢谷桜さんでーす。よろしくお願いしまーす。」


 桜の名前が呼ばれた。

「井勢谷桜です。よろしくお願いします。」

 彼女は、優しく微笑みながら、お辞儀をする。






「次に、前にピンチヒッターでお世話になって、そこからどんどん売れっ子になっていく、モデルの矢々葉絃千(ややはいとせ)くんでーす。よろしくお願いしまーす。」




「矢々葉絃千です。今日は、よろしくお願いします。」

 そして、俺は、紹介されるがままに、頭を下げた。






「じゃあ、今日の企画は、デートコーデです。

 桜さん、絃千くんが、カップルで、色々ポージングをして、服を紹介していこうと思います。

 そこで、ですね...。」





 スタッフが、色々手順を説明していく。





 横には、井勢谷桜が座っている。

仕事だからか、あの、教室でのたどたどしさが感じられない。一生懸命、説明にうなずいている。

 マスコットみたいで可愛い。



 撮影と撮影の合間、


「絃千くんと撮影出来て、嬉しいな。」

 ぽわぽわした笑顔を向けてくる。


 井勢谷桜も、俺の正体は知らない。

 つまり、矢々葉絃千に笑顔を向けてくるのだ。

 正直、心苦しいことも無くは無いが、それでも、表だってこんなことが、出来る身分でないので、女の子の笑顔を拝めるとこは、あの人に、感謝かも知れないな。








「はーい。一旦、休憩入りまーす!」

 監督の合図で、スタッフが一斉に肩の力を抜く。




 俺は、近くのパイプ椅子に腰かけた。




「いとせくん?

 あのね。聞いて欲しいことがあるんだ。」




 頬を赤らめながら、井勢谷桜が、こちらにやってきた。


 そして、背後に回る。


「あ、動いちゃダメ。いとせくんは、前を向いてて。」



 そう言うと、何かが俺の首筋に何かが当たる。

 そして、俺の左耳が生暖かくなった。



 彼女の口から漏れる吐息。

 彼女の、静かな息づかいが、何よりも近くで聞こえる。



 これ以上は、精神安定剤が...。


 そう思ったとき、『ありがとう』小さく囁く声が聞こえた。


 驚いて、後ろを振り向く。

 彼女は、白い肌を、夕焼け色に染め、その顔を手で隠すようにしながら、この前の、お礼だよ。と、言った。




 俺は、ビックリして言葉が見つからなかった。




 えへへ。とまだ、半分赤い顔をしながら、彼女は、俺のとなりに座った。


「絃千くんに、アドバイス貰ったお陰。

 私、高校に進学することにしたんだよ?

 今日は、午前中、入学式だったんだ!」



 嬉しそうに、話す。



「よかったじゃん。

 入学式か~。お前の制服姿、見てみたいな。」



 もう、知ってるけどな。



「本当?だったら、今度、持ってくるね?

 絃千くんは、高校って通って無いんだったよね。」



「ああ。通信制に通うことも考えたけど、まあ、自分のしたいこと自由にしたいなって。」

 悪いな。そう言う設定になっている。




「そっか~。絃千くんの、制服姿、見てみたかったな。」

「仕事では、何回も着てるけど?」

 まあ、俺と、認識してないだけで、井勢谷桜は、俺の制服姿、見たと思うけどな。



「違うの。仕事で、じゃなくて...、私...だけ...。」


「ん?」

 最後の方が、良く聞き取れなかった。


「ち、違うの。何でもない。

 あ、撮影、再開するみたい!

 メイク直さなくちゃ。

 先、スタンバイするね。」



 何か、最後の方慌てていた気がする。ま、気のせいか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る