第8話 現場着

 ツイストパーマがかかった黄色っぽい枇杷茶髪。

 紺色のジャケットからのぞく、オレンジのパーカーを着た男が、電車に乗っていた。

勿論、マスクをしてだ。


それなのに。

「ねぇ。ヤバくない?」

「カッコいいー。」


「え、あの人じゃない?」

「ほら、この前、雑誌に載ってた...。モデルの....。」

 先に乗っていた、女性たちがざわつく。




 そんな、電車内の会話がなにも聞こえていないかのように、次の停車駅で彼は、降りようとする。



 そして、振り向きざまに、彼女にウインクで答えた。

 シー。

 口元には、人差し指を添えて、だ。



 彼が、電車を降りた直後、女性たちが発狂したのは言うまでもなかった。





■■■■■


「すいませーん。遅れました。」

 そう言って、分厚い扉を開ける。



「良いって。良いって。久しぶりだな!

 最近、忙しそうにしてんだろ。」

 調子はどうだ?と首からカメラを下げ無精髭を生やした、がたいの良い中年の男性が近づいてきた。




「ぼちぼちです。」

 顔を引きつらせ、そう答えると、



「謙遜し過ぎは良くねぇな。

最近、色んな雑誌で良く見かけるよ。

バラエティの新番組のレギュラー決まったんだろ?

ゴールデンタイムのレギュラーはデカいぞ?




あと、この前の学園ドラマも観たわ。

桜ちゃんの彼氏役。演技も上手いじゃんか。」

 と、話を終わらせてくれない。




「でも、さすが麻莉ちゃん。

 良い子を発掘したなぁ。


 あの時、急遽モデルの差し替えが必要になったんだ。

 君は、カメラ写りも良いし、明るいし。



 そいやぁ、雰囲気も若い頃の麻莉ちゃんにどこか雰囲気似てるしなー。」


 ガハハ。こりゃ、将来が楽しみだ。と、背中をバシバシ叩かれた。痛い。




「はは。」

 ちゃんと、笑えているのか心配だ。





「今日の相手の麻莉ちゃんの娘も、もう来てるぞ。

何か、お前に早く会いたいって。

向こうで先にカメラテストしてるわ。」と指を指した。



 その方向には、透明感のある白いオフショルに、膝が見えるくらいの、ミディスカート姿の女性がカメラの前に立っていた。

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