第6話 入学初日が終了

 その後は、何事もなく自己紹介は終わっていった。

 今日、新入生は午前中だけだ。

 昼までには終わる。



「はーい!

 それでは!高校生初日、お疲れさまでしたー!!

 このメンバーで1年間過ごして行きます!

 先生も皆さんと過ごす日々が楽しみです!


 土日ゆっくりして、また月曜日に会いましょう!」

 それではー!とあるはずもない、尻尾を振りながら望月先生は教室を出ていった。




「よっしゃー!なぁ、仲良くしようぜ。」

「LINE交換して良い?」

「SNSなんかやってる?」

「部活、何にするか決めたか?」

「入学記念にプリ撮り行こー!」



 先生が教室を出ていくと、教室中が騒がしくなった。


 友達作り。

 これからの学校生活を左右する大事なイベントだ。

 そして、高校生活を華やかにするのか、3年間をどぶに捨てるのかの方向性が固まってくる。


 出遅れた奴は、お先真っ暗確定の超シンプルゲーム。



 皆、良き高校生デビューを目指して、したたかに動く。

 まずは、色々な人と関わって、自分にあった人か、一緒にいても疲れないか、どうかを線引きしていく。そして、誰に従い、誰を見下すのか、自分のクラスでの立ち位置を決定する。



 社会人、大人になると、人間関係が複雑で、周囲の目を気にしなくてはならないから、大変だ。

 と、中高年の人は言うけれど、それは自分の青春時代をただの忘れてしまっているだけだと思う。



 なにも、格差社会は会社だけの話じゃない。

 むしろ、学生が一番、置かれている状況は最悪かもしれないと俺は思う。



 大人は、会社が自分に向いていなかったら、会社を止めて、新しい職を探せば良い。

 むしろ、嫌々働いて、体を壊すくらいなら、パッと止めたほうがいいに決まってる。



 だが、学校はどうだ?

 会社は、自分で選んで行く。だから、当たり外れを吟味する時間はいくらかあるし、自分が満足する生活が送れれば、それで十分だと思う。

 けど、学校は、親の金で進学する奴らが大半だ。

 つまり、バックには親が居るのだ。

 汗水垂らして貯めた金を子供に使わせるんだ。


『あのさ、やっぱり学校止める。』とか、どの面下げて言えるんだ。

 いいや、少なくとも、俺は出来ない。



 そんなことを考えながら、俺は、誰にも話しかけられることなく、教室の出口へ歩いていった。


 俺の席は、ドアとは反対側。後ろから二番目の窓側の席。

 だから、出口へ歩く間に、何人かの人にすれ違わなければならない。

 俺は、誰とも目を合わせないように、床を見ながら、前髪で前が隠れることにホッとしながら歩いていく。






 人の話を盗み聞きするのは、小さい頃から得意だ。

 そのお陰か、ドアまで歩いていく途中に色々聞こえてきた。




「井勢谷さん!これから皆でカラオケしに行こうと思うんだけど行かない?」

 なんとなく、既に、リーダー的存在を確立してそうな女に声をかけられていた。


 名前は、仕田原理子しだはらりこって言ってた気がする。

 青色の長い髪を後ろで高めに結んでいる彼女は、その髪を左右にユサユサしながら井勢谷桜に近く。


 押しが強そう、というか、気が強そうだ。

 きっと、ああゆう女子には絶対服従しとかないと後で睨まれる。




 彼女はどうするのだろう。





「ごめんなさい。せっかく誘ってもらったのに。

 午後から用事があるんだ。ごめんね。」


 彼女は、申し訳なさそうに両手を合わせた。

 上目遣いで顔色を窺ってくる容姿は、男なら思うものがありそうだ。





「そっか。用事ってお仕事?あ、これも聞かない方がいいんだっけ。」


「ううん。そんなに気を使ってもらわなくて大丈夫だよ。雑誌の撮影があるんだ。」

「そっかー。じゃ、また、誘うねー。井勢谷さん!」



「さ、桜でいいよ。良かったら桜って呼んで欲しいな。」


「分かったー!さくら!よろしくー!」



 思っていたより、気さくな感じだった。

 会話がぽんぽんと弾んでいく。

 仕田原理子、これは、良い意味でクラスの中心人物だな。






「伊世早さん。隣の席同士、仲良くして下さい!」

「ふふふ。私も丁度、同じことをお願いしようとしていた所なの。よろしくね。」

「ふゃい!」

 こっちはこっちで、仲良くやれているみたいだ。



 そう思い、俺は教室を後にした。

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