第4話 入学式と伊世早美優
「じゃあ、次の人!お願いします!」
井勢谷桜の自己紹介が終わり、クラスの空気も落ち着いたところで、望月先生は桜の後の人に声をかけた。
「はい。」
教室に凛と透き通った声が響いた。
俺は、その真後ろの席な訳だ。
だから、彼女の姿はとても良く目に入ってくる。
黒くて長い髪。彼女から漂ってくる雰囲気は普通の高校生とは思えなかった。
とても落ち着いている。
丁寧な所作。
自己紹介慣れしているなと思った。
「皆さん、こんにちは。私は、
「伊世早だって!」
「珍しい名字だな。」
「おいおい。それだけかよ。珍しい名字ってことは、ヤバいんだって。」
「俺、テレビで見たことあるぞ。何かの記者会見で横に女が2人居て...。」
「この前の会見、テレビ中継してたけど、あの後ろに控えてた秘書?使用人っぽい人、見た?」
「見た見た!マジ格好よ。」
けほ。
我慢しきれず、咳払いをしてしまった。
「でも、伊世早って、あの伊世早だよな~。」
「もしかするかもよ。」
「ヤバいよ。将来、安泰かもしれない。」
教室が折角、静かになってきていたのに、彼女の発言、と言うか、自己紹介でまた振り出しに戻った気がする。
だが、彼女は、騒がしい空気のなかでも、話すことは止めなかった。
まるで、自分の主張に、皆が群がるのに慣れているかのように。
「名字の通り、この学園の創設者であり、伊世早グループを牛耳る
私も、先ほど紹介された、井勢谷さんのように、高校に進学するか、父のもとで研鑽を積むか悩みました。
ですが、ある方の助言から、私もこの学園に進学する事を決めました。
ですので、私も、普通の女子高校生として、勉学に遊びに、励んでいきたいと思っております。
どうか、よろしくお願いいたします。」
さすが、社長令嬢。
遊びは別に励まなくとも、普通にしていれば、勝手に遊んでいるものなのだが、考え方が違うようだ。
伊世早美優はそう言うと、最後にと、こう、付け加えた。
「それと、私に媚を売っても将来は保証できませんのでご安心を。」
彼女は、最後のウインクも忘れなかった。
「はぅ。」
「俺、今日が命日になりそう。」
「お嬢様~。」
この最後の一撃で軽く3人は死んだ。
おいおい。
女優の娘に、大手グループの社長令嬢が同じクラスって、ある意味すごい。
うん。すごいな。
それで、次が俺か。それもまた、すごいな。
皆の興味なさそうな視線が痛い。
できるだけ、手短に終わらそう。
そう思い、彼女が座ったのを見て、俺は、椅子から立ち上がった。
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