第2話 入学式の日の朝
時は、4月。今年は暖冬だったこともあり、桜がもう散りそうだ。
入学式に葉桜は似合わないな。
今日は、伊世早グループが設立した学園系列の入学式である。
伊世早グループとは、昔は指定暴力団として国の監視下に置かれていたが、ある日を境に暴力沙汰から足を洗い、今や日本の先陣を切る有名な貿易会社にのしあがった、あの伊世早である。
資産の伸びも上々で、昨年の収益は当然黒字で、日本の膨れ上がった借金を5倍も肩代わり出来そうなほどだった。
そのお陰か、貿易会社設立当時から進めてきた、学園計画は、頓挫すること無く、第一学園、第二学園と次々、分校を増やしていき、今や、全国に6ヶ所の学園を保有するような巨大学園グループにもなっていた。
「うへぇー、デカい学校。ホームページで見たより、本物は迫力あるなー。」
俺は、再度見渡して呟いた。
そこに、正門に真新しい
現在の時刻は午前6時。
入学式は4時間後だ。よほどな事がない限り、こんなに早く学校に来る奴は居ないと思う。
そして、俺の居る方に近付いて来る。
俺は、校門からは死角になっていて、かつ、こちらからは校門の様子がバッチリ見えるプレハブ小屋の裏に居た。
最近まで、耐震工事をしていた名残だろう。
工具が幾つか置いてある。
立ち入り禁止の札も見えた。
だから、この場所はそうそう、人が立ち入らないはずだ。
しかし、彼女は足を止めること無く、こちらに向かってきた。
「何、そんなところでコソコソしてるの?」
そして、スマホをいじる振りをしていた俺の顔を覗き込んできた。
ミディアムヘアに明るめな茶色の髪が俺の手にかかる。
くすぐったい。
フワッと、ヘアローションの柑橘系の香りが鼻を抜けた。
「な、なにかな?突然。」
とっさの出来事に、声が少し上ずってしまった。
急いで後ずさる。
「前髪長くして、眼鏡着ければ、バレないと思った?はは、それベタな変装方法だから。」
ギクリ。
彼女は全てを見透かしたかのように、笑った。
「えーと、人違い?
あ、えーと、ほら!今日は入学式だから、新入生かな?
じゃあ、ほら、僕はこの通り在学生なんだ。
困っているのなら、良ければ案内するよ?」
俺は、笑顔で、新入生が正門のすぐの受付で貰う入学祝のコサージュが無いことを胸ポケットを見せ証明した。
「何で?
このままシラを切るつもりかな?
君も新入生だよね?
ほら、鞄に入学のしおりが入ってる。
しかも、在校生ならなおさら、今日、午前中から学校に来る人は新入生と生徒会役員の一部の在学生のみ。
でも、あなたの名札には、生徒会役員を示すバッジがついていない。
つまり、ただの在学生なのか、新入生なのかの二択になる。
で、在学生だったら午後から登校することになっているはず。
じゃない?
君は私に嘘をつこうとうとしてる?
それとも何かな?
そっか。
これから、入学式で、君の本名をさらしても良いのかな?
伊世早とや君?」
段々、彼女の顔が険しくなってくる。
限界だ。
両手を挙げて投降する。
俺は、さっきまでの営業スマイル仮面を剥がした。
「降参するよ。俺だ。」
眼鏡をはずし、前髪をどけて見せる。
「やっぱり。」
彼女はニッと笑う。
「あと、ここでは
だから、お前も俺の本名ばらすんじゃねーぞ。」
「分かった。
まあ、私も弱みを握られてるからね。
そんなにホイホイ個人情報ばらしたりしないよ。」
「おーけー。それならよかった。」
それを確認すると、俺は元の髪型に戻し、眼鏡をかけた。
「糸谷早瀬ね。
またアナグラムなんだ。もうそろそろ、使えるネタ尽きるんじゃない?」
お前が、それ言うなし。と、あえて心のなかで突っ込む。
「それと、私は、いつも通り、良い子ちゃんモードでいくからそこんとこよろしく。」
「はいはい。」
「じゃ、その内、
彼女はそういうと、去っていった。
彼女の事だから、きっと一旦帰って、着替えてくるのだろう。忙しい奴だな。
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