ドンキーホーテ
ストロングマンがデッドストロングに引き込まれて1週間。
怪獣が現れる頻度は相も変わらず。
11人の〈ジライヤ〉のメンバー達に正義の巨人を心配する余裕などなかった。
帰宅後、英二はパレドロンとの交信が来たので、氷でキンキンに冷やしたレモン味の炭酸水をコップに注ぎ味わいながら行っていた。
『デッドストロングは1人では確実に負ける。でも力を合わせて戦えば倒せるはずだよ』
(今の状態が仲が良いと思うか? 俺は思わない。ただ任務をバラバラに行っているのにも関わらず協力はさすがに無理があるだろう)
隊長の方針で怪獣出現時に出撃するのはストロングマンに成れる人間とそれをサポートする人間が1人ずつ。
つまり他のタッグとは協力しようがない。
パートナー側は元々隊員として働いているため関係性はできているだろう。
しかし肝心なストロングマン側はまったく話を口にしない。
結局赤の他人が短時間で仲間になるのは難しいのだ。
(向井さんはトラウマで戦うことができない。高市さんは団重さんが亡くなってから会う機会が減った。こんな状態で今後共に戦うことに俺は不安がある)
炭酸水を口に含み、渋い表情を浮かべながらデバイスをいじり始める。
観ているのはネットニュースでのストロングマンの反応だ。
やはりキリサキがダークストロングマンを倒せなかったこと、そしてヒョウケツの涙を流す姿が酷評されている。
それを他人事だと思った時点で仲間だと感じていないのを理解した。
(そろそろ俺は寝るけどお前はどうする?)
時間は夜の11時を切ったところ。
十気が来るのが朝の8時半ぐらいなので、早く睡眠を取らなければあれこれ言われるのは目に見えていた。
炭酸水を飲み終え、キッチンの水道場でコップを洗う。
『僕はもう少し起きてるよ。明日も頑張ってね』
(あぁ、必ずストロングマンを見つけ出す。そして救ってみせる)
液体石鹸を洗い流し、英二は拭き物でコップを拭くのだった。
朝、十気は〈ガンマ1号・改〉に乗り込み英二を迎えに行く。
最初は任務のためとは言え、彼との生活はとてもじゃないが良い物ではなかった。
しかし今は違う。
戦いを重ねる度、勇気と自信が暗かった英二を変えた。
それはストロングマンと協力し、怪獣や真獣を倒すことで正義の巨人との信頼を得たいと言う願望により責任感が強くなった。
逆に彼女はパートナーとして振り向いてほしいと言う嫉妬感に狩られる。
「私はただ乱打さんをサポートすればいい。なのになんででしょうね。ストロングマンのおかげで成長している彼の姿が恨めしくなるのは………」
寂しさを感じながらマンションに向かっていると、突然デッドストロングが次元の裂け目を開き現れた。
「お前にはストロングマンと同じく人質に成ってもらう」
イゲルド人は〈ガンマ1号・改〉を体に取り込み、高笑いを上げながらアパートの方へ次元の裂け目を開いた。
「仲間を救いに現れろ。ストロングマン!」
その叫び声に英二は気が付くと窓を開け飛び降りながらクロスに変身、姿勢を低くし立ち向かう。
「おい! ストロングマンをどこへやった!」
「フフフ。お前は何も分かっていない。救出する順番を頭に入れていないのか?」
右人差し指を頭のこめかみに1回、2回、3回〈脳がないのか?〉と言うような挑発を仕掛ける。
「人を煽るのも大概にしろ!」
頭にきたクロスは右手にエネルギーを溜め、光弾を放とうとする。
『待つんだ君』
そこにパレドロンがテレパシーを送り、攻撃を停止させる。
(なんだ! 俺はこいつを倒さなきゃいけないんだ!)
『落ち着いて。これはイゲルド人の罠だ。彼は君のパートナーを戦闘機ごと体に取り込んでいる。もし必殺技を撃てば、分かるね?』
十気の死亡が確定する。
そのことがビジョンとして見えた瞬間、戦意が完全に失われる。
「どうした? 私を倒すんじゃないのか?」
挑発を繰り返すデッドストロングに対し、思惑を知ってしまったクロスはパートナーを救う手立てを模索する。
(どうする? どうすればいい? 霧神さんを助ける方法を見つけないと)
考えを巡らせていると、イゲルド人はため息を吐く。
「来ないなら、こちらから行くぞぉ!」
右手を強靭なナックルに変化させ、竜の如く伸ばしながら高速でクロスに向かって行く。
ハッとした英二は手からビームソードを展開し相手の腕を切り裂く。
だがすぐ様再生し、ムチの如く振り下ろす。
このままではアパートが破壊されてしまう。
そうはさせじと攻撃を両手で受け止め、力強く投げ飛ばす。
「霧神さん。あなたは俺の大切な人だ。だから、だからこそ絶対に助け出す!」
「ようやく気づいたようだな。優先すべき救う対象を」
「人質を取ってるお前が言えたことかよ!」
戦意を取り戻したクロスは左手で拳を作り、怒りを表現する。
そしてパートナーを救うため、デッドストロングに立ち向かう。
しかしそれは勇気の突撃ではない。
無謀な敗北のへのカウントダウンだった。
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