トラウマから生まれる敗戦

ここは〈ジライヤ〉の病室。

大牙はベッドで激痛と悪夢にうなされていた。


目が覚める度、悪の巨人達への恐怖が蘇る。


「情けないです。戦いに参加できていない自分が」


切なそうに笑みを浮かべながら震える手を見つめ、独り言を口にする。

腕時計を確認すると、朝の5時35分を針が指していた。


痛みに耐えベッドからゆっくり降りると、ロッカー室に足を運ぶ。

そこにはシャワーを浴びた後の元斗が制服に着替えていた。


「向井さん!? もう大丈夫なんですか!?」


慌てた様子で大声を上げる彼に対して、マジックショーで演じ慣れた微笑みを見せる。


「私はこれでも頑丈なんですよ。それより今の現状を教えてください」


質問に対してホッとした顔をする元斗は順に説明する。

ダークストロングマンと言われる真獣が〈ジライヤ〉に恨みを持つ人間やストロングマンになった者達に関連する人間に取り付き暴れていること。

かつて悪の巨人だった柴がストロングマンとして援護してくれていること。

そして残り1人のダークストロングマンが見つかっていないこと。

それを聞いた大牙は恐怖しているのを隠し、「なるほど」と手を顎に添えた。


「分かりました。とにかくダークストロングマンを発見次第倒さなければいけないのですね」


「そうです。向井さんは飲み込みが早く助かります」


本当は怖い。

だがやるしかない。

手が震えないよう気を使いつつ、彼は隊員服に着替え戦いに臨むのだった。



一方その頃、イゲルド人は最後のピースであるダークストロングマンを今か今かと待っていた。


「あと少しだ。あと少しでストロングマン達を破滅デリートできる。デッドストロングの完成は近い」


巨人全滅真獣デッドストロング。

それはダークストロングマン5体を合成し誕生する正義の巨人を倒すために戦う最凶最悪の巨人。

それを完成させるためにひたすら待っている。

現在の真獣の力では勝てないと判断、売買で予算を稼ぐことに重点を置いている。


すると次元の裂け目が開かれ、ビフォーグⅡが歩み寄って来た。


「ご主人様」


「どうしたビフォーグⅡ。なにか依頼でも来たのか?」


「いえ。6人目のダークストロングマンが進化に成功したそうです」


彼女の発言に心の中で興奮を止めつつ、街の監視カメラをハッキングしその姿を確認する。


「なるほど。やはり地球人の恨みはちっぽけでも、増幅すれば悪魔を生み出せるレベルに跳ね上がるか」


怒りの咆哮を上げ、悪の巨人は〈ジライヤ〉本部に向かって行く。

全身にブラスターの銃口があり、眼が赤く充血している。

どのダークストロングマンよりも巨体であり、まるで要塞の様だ。


そこにブルージョーがテレポートで駆けつけ、ビームライフルとシールドを構える。


「ここから先は行かせない!」


『本部を破壊されてたまるかよ!』


ビームライフルのギアをチェンジし、光線を放てるようスタンバイする。

トリガーを長押しし、エネルギーをチャージした。


「君みたいに幼い子が選ばれたのか? 俺はどんだけ努力しても〈ジライヤ〉に入れなかったんだ! 認めない! 認めんぞー!」


悪の巨人、ゼンホウシャは狂ったように叫びを上げたのち、全身の銃口から光線が乱射し始める。

シールドで攻撃を防ぎ、確認口にビームライフルの銃口を差し込む。

トリガーを離すと野太い光線が放たれ、ダークストロングマンの腹に命中する。


「やったー!」


『生命反応あり、まだ生きてるぞ!』


喜びもつかの間、乱射が止まず勢いは収まるどころかさらに増していくのだった。



〈ガンマ3号〉で出撃するべく元斗はエンジンを掛ける。

コックピットに乗っている大牙は恐怖から出る冷や汗をハンカチで拭い、息を飲む。


「準備完了です。いつでも発進できます」


反応に遅れ、思わず「え、えぇ」と動揺の声を上げる。


「大丈夫ですか? やっぱり調子が戻ってないんじゃあ………」


「心配してくれてありがとうございます。大丈夫ですよ。とにかく悪の巨人の撃破が先決です。運転、よろしくお願いしますね」


「本当につらかったら言ってくださいね」


元斗は運転に集中し、滑走路から勢い良く空へ飛び立つ。

悪の巨人の光線を潜り抜け、その隙に大牙はキリサキへと変身を遂げる。

だが過去のトラウマから悲鳴を上げ、視線を逸らす。

それに対してゼンホウシャはゆっくりと前進して来る。


「来るな!? 来ればこの手で八つ裂きにする!?」


怯えた感情をむき出しにして背中の〈ヒートスライサー〉を念力で射出する。


「君みたいな臆病者が、俺に勝てると思うな!」


刃達をことごとく光線で跳ね返し、悪の巨人は相手の情けなさに怒りで咆哮を上げ突進して来る。

光線をまともに受け、さらにタックルで血反吐を吐く。


「やっぱり向井さんは無理をしていたのか。まだ治り切っていない体と心の傷を隠していた。なんでなんですか? 俺達仲間でしょう」


元斗の切ない想いとは裏腹に、大牙は恐怖で発狂し、口のリミッターを解除し大きく開く。


「消し炭に成れ! ザ・インフェルノ!」


放たれた赤き光線を悪の巨人は放出を停止し、軽々と躱す。


「なに!?」


「だから言っただろ。俺に勝てると思うなと!」


優勢のゼンホウシャだったが、突然咳をし始め苦しみながら悶絶する。


「こんな時に! ゲホ……ゲホ……」


その姿を視認したブルージョーは悪の巨人をサーチし、〈ジライヤ〉の経歴を調べた。


『分かったぞ。変身者は〈ジライヤ〉の戦闘部隊に配属するために訓練を受けた。だけど持病の喘息が分かり最終試験で落ちたみたいだ』


「てっことは逆恨みを悪の巨人に利用されてるの? なんて言うか可哀想なのかワガママなのか分からないね。でも倒さないと助けられないなら、このチャンス、見逃さない!」


丈はビームライフルを地面に落とし、バックパックからビームサーベルを引き抜き、テレポートでゼンホウシャの後ろを取る。

光の刃が振り下ろされた次の瞬間、イゲルド人が次元の裂け目を開き、ダークストロングマンを回収した。


変身を解除した大牙は息を荒くし、膝を着く。

冷や汗が止まらなくなり、元斗が到着した時には脱水症状を起こしていたのだった。

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