偽りでも良い

雲に覆われ、雨の降る昼。

ダークストロングマンの洗脳に打ち勝った柴だったがそんなことなど〈ジライヤ〉の者達に知られるはずもなく、研究者を逃走する形でやむを得ずやめ、途方に暮れていた。


(僕は罪を犯した。〈ジライヤ〉の研究者でありながら正義の巨人に成りたいと言う欲望に負け、今は仲間に狙われる身になっている。これが自業自得って奴か)


彼は戦闘部隊にいつ殺されるか分からない状況に陥っている。

誰も救ってはくれない。

そんなことをする訳がない。


(赤の他人を助けるほど現代の人間に余裕なんてない。ましてや爆弾を背負っている者に近づきたくはないだろう)


ドラッグストアで購入した傘で雨を防ぎながら歩いていると、古びた神社が目に止まる。


(神頼み……それも悪くないかな)


鼻を「フン」と鳴らし、門を潜り洗い場で手を清める。

ハンカチで拭い、呼吸を整えながら階段を登って行く。

半分上り切ったところで、黒髪の少女が上段に見えた。


彼女は優しく笑っており、雨がまったく寄せ付けず弾かれている。


「君は、宇宙人なのか?」


「心配しないで。あなたは立派に悪の巨人と戦った。ストロングマンの私が言うんだからダイ……ジョウ……ブ……」


フラフラし始めた少女を慌てて抱き止める。


(なんだ? 宇宙人特有の血の匂いがするぞ? まさか、本当にこの子がストロングマン!?)


宇宙人の遺体の解剖などを担当し、戦ったことがある相手だったからこそ分かってしまった。


自分の罪の重さを改めて実感する。

カサブタから匂う血の匂い、一旦彼女をおんぶしながら階段を下りる。


「ストロングマンである君が僕をなぜ倒さないか知らない。でも分かるのはこの状況で助けなければ死んでしまうのは確実だと言うことだ」


悪の巨人に変身することはないと誓ったあの頃から戦った後悔で頭が狂いそうになる。

〈ジライヤ〉には戻れない、そう思いながらこの日まで生きてきた。


だからこそストロングマンの救いの手には魔性に近い物を感じ、手を伸ばしたくなかった。


階段を下り終わり、屋根があるベンチに少女を座らせる。

そして〈ジライヤ〉のとは別端末のデバイスで救急ダイヤルを掛けようとする。

〈ジライヤ〉のデバイスを持っているとGPSで場所を特定されてしまうため既に破棄し、元々電話会社で契約していたデバイスを現在使用していた。


そんな中高美と雷は〈アンナイ〉に乗り込み、サイレンを鳴らしながら宇宙人が運転している車を追いかけていた。


「クソ。〈ジライヤ〉の野郎しつけぇなぁ」


怪獣カプセルを密輸していたシー星人は偶然2人に見つかってしまい、カーチェイスが始まった。


アクセルを踏み込みさらにスピードを上げ、突き放そうとする。

しかし雨で車がスリップし、道路標識に激突した。


エンジン部分が引火し始め、早々に爆発する。

大量のカプセルから怪獣達が街中に出現、一斉に暴れ始めた。


「宇宙人は俺が確保する。陣さんは怪獣を頼んだ」


「分かった。必ず全部倒してみせるわ」


役割を決め高美はダゲキに変身、全身の筋肉を強化し怪獣達に向かって行く。

戦うストロングマンの姿に柴は避難するためデバイスをポケットにしまい、彼女をおんぶする。


「なにやってるの! 早くストロングマンに成って戦ってよ!」


「僕はストロングマンなんかじゃない。悪の巨人である僕に正義の味方に成る資格はないんだよ」


自分では怪獣や宇宙人を裁くことはできない。

そんなことができるはずがない。

心の底からそう思っていた。


彼女は心を読み取り、ため息を吐く。


「だったらさあ、あなたがストロングマンに成れるようにしてあげるね」


そう言って生成したのは今まで倒された真獣、〈ソンターブ〉〈アーマーガイ〉〈ビフォーグ〉が描かれたメダルとそれを使用するための銃型変身アイテムだった。


「これは?」


「見たら分かるでしょ。これでストロングマンに変身するの」


適当な説明に柴は疑いの目をしながらとりあえず少女をベンチに降ろし、浮かんでいるアイテムを手にする。

ダゲキが怪獣達に追い詰められているのを見て、「やるしかない」と表情を歪ませる。

マガジン部分にメダルの装填口があり、そこに1枚ずつ入れていく。

光り出す銃口部分を上にかかげ、引き金に人差し指を当てる。


「真獣達。僕に力を貸せ!」


トリガーを弾き、撃ち出される光弾が落下し彼を包み込む。

するとダークストロングマン〈ボウソウ〉に変身、さらに3体の真獣の力を宿す。

もう柴は悪の巨人ではない。

ストロングマンに認められた正義の巨人だ。


黒きボディは変わらないがライトの様な眼はオッドアイになっており、左眼は〈ソンターブ〉右眼は〈ビフォーグ〉に酷似している。

鋭い牙がきらめき、両腕にはビームソードが搭載され、左は黒く、右は白く放出している。


立ち上がったダゲキが〈認められし巨人〉に警戒の眼差しを向け姿勢を低くする。


「あなたは! 向井さんを倒した悪の巨人!」


「そう言っている間に被害は広がる。僕と戦うか共闘するかは、君の自由だよ」


怪獣達がボウソウの姿を視認し、一斉に襲いかかる。

しかし光の刃で次々に両断され、一掃されていく。


「あなたの事、信じて良いのよね?」


「君が持つ疑いを解消するために、全力で努力する」


これ以上罪を重ねるわけにはいかない。

〈ジライヤ〉に追放されようが、正義の巨人として戦うことを望んだからには戦うしかない。

柴はビームソードを収納し口からミサイルを発射、怪獣の1体に命中する。

爆発の激痛から悲鳴を上げているところを容赦なくミサイルを連射、あまりの破壊力に爆散した。


怪獣の1体はボウソウが明らかに強い相手と認識し翼を羽ばたかせ空へ逃走しようとするが、高美が既に後ろに待機しており、右拳で背中を貫いた。


右腕を引き抜き、どす黒い血をスナップではじく。

落ちた怪獣の死体があまりの重さに地面を割った。


地面に着地したダゲキは怪獣達にターゲットを絞り口を大きく開き、エネルギー弾を作り出す。


「パワードキャノン! 10連打!」


エネルギー弾が命中した敵は皆爆散して行く。

最後に残った怪獣に向けてボウソウは尻尾をうねらせながら、口を大きく開く。


それに対してバリアを展開し、攻撃に備える。


「ハイパーサードブレス!」


3体の真獣の影が彼の口に取り込まれて行き、放たれる必殺光線。

黒き光線がバリアに激突、数秒の内に粉砕され怪獣の体はちりと化した。


その姿はニュースで取り上げられ、〈悪を裏切った正義の巨人〉と報道された。


放送に立ち合っていた隊長はコメントを残した。


「かつてあの巨人はイゲルド人と言う宇宙人が生み出した真獣でした。しかし人間のために戦ってくれたのは事実です。〈ジライヤ〉は8人目のストロングマンとして、全力で支援します」


それはストロングマンである少女と柴もデバイス越しに観ていた。


「良かったね」


にこやかに「ニヒヒ」と笑う彼女に、柴は倒してしまった大牙の事を後悔しながら今更帰れないと心にしまい込むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る