怪奇の末路
〈ガンマ2号〉が学校に着陸する。
怪獣が出たとか宇宙人の事件とかではない。
「番理君、よーく聞いてくださいね」
「はい」
里生の任務時の話は
休憩時間ではあんなにもデレデレだと言うのに。
しかしレイはそれはそれで良いと思っている。
仕事でデートみたいなことされた日にはとてもじゃないが人間性を疑う。
たまに冗談交じりの発言をするが、それは硬っ苦しくならないように配慮してくれているのだろう。
今回の任務は中学生の生徒達に怪獣や宇宙人の恐ろしさを教える授業にゲストとして参加すること。
最近の子供は怪獣被害を受けている者が多く、心の傷を負っていることもある。
だが逆に言えば低い確率で怪獣と宇宙人に恐怖心を持たない生徒もいると言うことだ。
「番理君は質問に対して隊員として返答してください。ストロングマンだと公表するのは絶対にしないように。良いですね?」
「分かりました」
コックピットから降り、里生はデバイスの時計を確認する。
「さあ、先生が来るまで待機してましょうか」
「はい。それにしてもここすごく寒くないですか?」
季節は夏。
こんなにも寒いのはレイは不可解だと感じる。
玄関から出た時にはあんなにも暑かったはず。
「確かにそうですね。天気予報では30度の真夏だと言っていたのに」
これは宇宙人の仕業かと疑い始めると、30代ほどのスーツ姿の男性教師が出迎えてくれた。
「わざわざ授業のために来てくださりありがとうございます。まずは校長室へ案内いたします」
「よろしくお願いします」
2人は警戒心を隠しながら、教師と共に校長室へ歩き出した。
外もとてつもなく寒かったが、校内はまるで大型冷蔵庫の様に凍り付きそうだ。
だが男性教師はそんなことも無に感じているのか、平気そうに校長室への道を歩んで行く。
「あのーすいません」
里生が質問しようとした時、「なんでしょう?」と口にする。
「ここの冷房かなり効きすぎていませんか? 口出しするのは失礼ですけど真夏とは言えこれでは生徒やあなた達教師に悪影響があるのではないかと」
「そうですね。しかしこれは校長先生が決めることなのでなんとも言えません」
そう言っている間に校長室に到着し、スライド式のドアをノックする。
「校長先生、〈ジライヤ〉の隊員さん達が来てくださいました」
「分かりました。中にどうぞ」
校長である女性の返答に、「失礼します」と男性教師がドアを開け2人は敬礼をし中に入る。
50代後半であろう校長はデスクから立ち上がり、話し合い用のソファが2つある内の1つへ静かに座る。
パリパリと音がソファから鳴り、皮が砕け、ますますレイと里生は宇宙人に侵食されていると疑う。
「おかけください」
「ではお言葉に甘えて座らせていただきます」
座られた重さで凍り付いた皮が悲鳴を上げる。
すると突然スライド式のドアと窓が一気に凍り付き、閉じ込められてしまった。
「クソ。やっぱり宇宙人の罠か………」
レイが悔やみながら勢い良く立ち上がると、校内放送が流れ始める。
『私は宇宙人ではない。あえて人間の言葉で言うならば妖怪である。お前達は我々の事を忘れ、宇宙人とやらに
女子生徒らしき声で響くそれはおそらく何者かによって発声させられているのだろう。
洗脳されているのは学校の人間全員と考えてもおかしくない。
「妖怪だって? それはなんの冗談だ?」
彼が妖怪と語る存在の発言に否定の反応をすると里生は言葉を
妖怪。
それは昔日本人が不幸や病などを生き物として具現化し、絵にした物。
川で溺れ死んだ者はカッパに足を掴まれ、引きずり込まれて亡くなったとか、雪山で遭難し凍え死んだ者は雪女に魂を吸われたと言ったことなどが信じられており、年月が過ぎると昔話として絵本が販売された。
そして時は流れ、小説家達やマンガ家達などが挙って妖怪を題材とした作品を作成し、アニメに成る物もあった。
それはどれもまさしく恐怖の対象として描かれていたが、結果妖怪の存在を想像の産物として見る者が多くなり、今では宇宙人の影に隠れてしまっている。
「妖怪であるあなたがなぜこの学校を支配下に置いたんですか? まさか私達を倒すために?」
『その通り。これは我々の復讐劇なのだ。存在を忘れた者達に対してのな。さあお前達はどこまで死なずに済むか、楽しみにしているぞ』
高笑いと共に校内放送が終わると窓のガラスが割れて行く。
そして青き炎に包まれた巨大な拳が校長室を破壊した。
ソウコウに変身を完了していたレイは里生と校長を地面に下ろし、避難するのを確認する。
その後振り返って拳を放った者の正体を認識すると、未来へ向かって学ぶ生徒、それを支援し教える立場の教師を支配した相手に対して怒りの咆哮を上げる。
敵の正体とは、哀れにも悪の巨人に支配された妖怪の末路だった。
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