閃光を放ち者

逃走した桜は光と共に変身を解除し、林の中を走り出す。


「桜ちゃん、今どこに向かおうとしてるの?」


「分かんない。分かんないけどあの3人にバレない場所!」


分かっていた。

悪の巨人になった彼女を救うには倒すしかないと。

だがそれで果たして催眠は解けるのだろうか。

幼なじみを裏切るようで戦うことを躊躇ちゅうちょしてしまう。

たとえイゲルド人にとって都合が良いことだとしてもだ。


光の中で悪の巨人がクスクスと笑う。

それは彼女にとって誘惑の声だった。


『光よ。お前は今幼なじみに守られようとしている。敵対ではなくなぁ。存分に楽しめ。この状況を』


この状況を楽しむ?

そんなことが自分にできるのだろうか。

催眠によって欲に甘えているのは事実。


(私はなんで桜ちゃんと入れることに罪悪感を感じてるんだろう。でもこれで良いんだ。だって悪の巨人に取り憑かれたのが悪いんだもん)


このまま逃げてもデバイスのGPSで場所を特定され、〈ジライヤ〉に捕まる。

それでも桜に着いて行くのはストロングマンを倒すため。

しかし光にとってそれは幼なじみを殺すことになるのだ。


そんなことは絶対にしたくない。

誰か自分を止めてくれと内心思った。


一方その頃、イゲルド人は更なる真獣のストックを作っていた。

それは星を侵略したい宇宙人に売買するための物。

目的のためには資金も必要だ。

なので部下として生み出した人形態ひとけいたいに成れる真獣に営業をさせている。


「ビフォーグツー、そろそろ新たな真獣が完成するとお客様に伝えろ」


ビフォーグⅡと名付けられた白髪の若き女性はお辞儀をし「分かりました」と静かに口にすると、次元の裂け目を開きお客の元へ向かう。

彼は真獣の開発を進めながらため息をく。


「それにしてもダークストロングマン達はなにをやっているんだ。地球人の感情を取り込んだと言うのにまだ1体しか倒してないじゃないか」


再びため息を吐くと、ハッキングした監視カメラから映像が画面に映し出される。


「あれはストロングマンの1人とダークストロングマンの1人。なぜここまで来た? いや、偶然入り込んだんだろう」


1人だけで納得し、製作を続ける。

宇宙船は透明になるバリアを展開することができる。

なのでカモフラージュされているため普通ならば気づかれないのだ。


すると林に住む怪獣、黄族怪獣きぞくかいじゅうイエロージャックが光の悪の気配に目覚め、撃破しに向かう。

頭は騎士の兜を思わせる黄色の鱗に覆われ、背中にはそこらじゅうに鋭い棘が存在する。

歩く度に地面が揺れ、それに気づいた2人はストロングマンに成ることなくその場を逃げ出す。

なぜ桜は怪獣と戦わないのか?

それは光の中に存在する悪の巨人が暴走し、自分を倒しに来るかもしれないからだ。


しかし彼女の考えとは裏腹に、幼馴染おさななじみが足を止めた。


「さっ………ちゃん?」


ハイライトが消えた瞳の中にダークストロングマン、アシュラの姿が映し出される。


『遊びは終わりだ。さぁ変身しろ。そして私と戦え』


「さっちゃんを返して! うーうん! 絶対返してもらうから!!」


イエロージャックをそっちのけで桜は「ブソー!」と、光は「アシュラー!」と叫びを上げ、巨人へと姿を変える。


閃光からブソウは高く飛び上がり、〈ストロングリング〉をガトリングガンに変化させる。


「ウォーー!!」


放たれる銃弾の嵐を巨大なシールドで防ぎアシュラは大量のナイフに変化、6本の腕で敵目掛け投げつける。

それに対してさらに高く飛行し、空へ一時的に避難する。


「これでどうだ!」


〈ストロングリング〉を高出力のレールガンに変化させ、上空からトリガーを弾いた。


あまりのパワーにさらに浮かび上がる。

銃口から発射された電磁砲でんじほうがアシュラに命中、だが悪の巨人の中でダメージを痛みではなく力に変換、口に破壊弾のエネルギーを溜め込んでいく。


「さよなら、桜ちゃん」


狙いを定め、エネルギーを増幅させる。


「ベトレーアル・ザ・フレンズ」


放たれた破壊弾は爆裂しながら桜の腹に命中、一瞬にして粉砕された。


落ちて来る肉片を見たイエロージャックは悲しむように咆哮を上げ、棘をミサイルの如くアシュラに向けて乱射する。

だがバリアに阻まれ攻撃は届かず、逆に〈ストロングリング〉を拘束具に変えられ拘束されてしまった。



桜は1度死んだ。


しかしストロングマンのデータが彼女の体を再構築さいこうちくし、生まれ変わらせた。



「目覚めろ桜。お前だってまだ終われないだろう」


声に気づき、目のあたりをコシコシと擦る。


「あっ、あなたは!」


声の主はブソウの元になったストロングマンのデータの集合体である。

あまりの驚きに桜は「ホエーーーー!?」と叫び声を上げた。


「そんなに驚くな。俺は本物のストロングマンじゃない。それよりこんなところでお昼寝してる場合か?」


「そうだよ! 早くさっちゃんを助けないと!」


彼女の意思を尊重し、正義の巨人は首を縦に振る。


「だったら早速戦いに行こうぜ。あの宇宙人に奪取される前にな」


その言葉と同時に意識が飛び、現実に引き戻される。


「あれ? ここは?」


そこは〈バルウル〉のコックピット。

桜が目覚めたのに気が付き、アシュラと戦闘中の大はため息を吐きながらバルカンを連射する。


「まったく、世話を焼かせやがって。さっさと変身して幼馴染おさななじみを助けに行って来い。じゃないと俺達が倒しちまうぞ」


「分かった! さっちゃん! 絶対助け出すからね!」


彼女は正義の巨人に変身する。

それは紛い物ではない、本物のストロングマンだ。


銀色のボディに黄色の2つのラインが入っており、十字の眼が輝きを放つ。

〈ストロングリング〉が存在せず、無防備に見えるが………


「これが満開万開を超えた花の成長。名を兆開チョウカイ。いざ尋常に、勝負!」


『いくら姿が変わっても、このアシュラには勝てない。殺れ、ストロングマンの死を主人の手土産てみやげにするのだ』


悪の巨人の言葉に幻惑され、光は咆哮を上げ〈ストロングリング〉を剣に変える。

そしてチョウカイに向かって走り出した。


すると突然桜の横から次元の裂け目が大量に開かれ、ビームライフルの銃口が飛び出す。


「撃てぇー!」


放たれるビームの嵐、あまりの激しさにアシュラの体は蜂の巣になる。

悲鳴を上げながら闇に飲まれ、元の光の姿に戻りその場で倒れた。


「さっちゃん!?」


チョウカイから変身を解除し、桜は彼女の元に向かう。


「桜ちゃん………」


光の掠れた声と共にアシュラは用済みになった進化素材から抜け出し、影の様に次元の裂け目からイゲルド人の元へ戻って行く。


「さっちゃん………良かった………本当に良かった………」


泣き出し始めた彼女に、微笑みながら疲労と激痛から気絶した。


その後病院で検査を受け、光は入院することになった。


桜は〈ジライヤ〉の隊長からお叱りを受け、しばらく任務以外の外出を禁止された。


ところでイエロージャックはと言うと、自分の寝床に戻り空に向けて咆哮を上げたあと再び眠りに就くのだった。

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