誠の姿

 彼の名は千草タケルちぐさたける

 40代の男性で家庭を持ち、専業主夫をやっていた。

 ある日の事、妻とスーパーで買物を終え、車で自宅に帰っていた時だった。

 突然男性が車道に飛び出し、片手で車体を止めた。


 あまりの衝撃に車の前部分が破損し、エアバッグが出てくる。

 そこでタケルの意識は途絶えた。


 気づけば得体もしれない場所で床に寝ていて、頭痛に耐えながら立ち上がる。

 妻の姿は無く、幸い電波が届いたのでスマホで〈ジライヤ〉の相談ダイヤルに電話を掛け、経緯を説明した。


 その後戦闘部隊に救助が来ると彼は保護され、妻の行方も捜索してもらった。


 数日後、高校生の息子と共に〈ジライヤ〉からの電話を待っていると、とんでもない発言が飛んだ。


 『奥様は宇宙人に兵器として改造されてしまっており、やむなく射殺されました。この件について重く受け止めております。奥様の命を奪ってしまったことをここに謝罪させていただきます』


 絶望だった。

 自分が助けを求めた者に妻を殺された事実だけがタケルに突き刺さった。


 だがそれでも時間は過ぎて行く。

 生活保護を受け、何とか息子を社会人にまで育てた。

 そこで終わっていれば………

 悪の巨人が来なければ………

 彼は〈ジライヤ〉の憎しみを催眠によって増幅され、進化の素材となったのだった。



 現代に戻り、ムクロとなったタケルはその高い飛行能力で2人の巨人を少しずつ追い詰めていく。

 鉤爪による攻撃を左肩に受け、英二は悲痛な叫びを上げる。

 溢れ出す血を視認しつつ激痛に耐えながら反撃に撃って出る。


「この野郎!」


 両手を平手に変え、左肘関節を折り曲げる。

 そして大型の手裏剣状の光弾を撃ち放った。


 しかしその程度ではムクロに避けられてしまう。

 そこまでは読んでいた。


 なんとストロングマンが後ろに待機しており、念力で光弾を敵に向けて跳ね返した。


 背中から腹を貫通し、あまりの激痛に咆哮を上げながら道路に叩きつられたムクロはその姿を変貌させ、今度はゴリラの様な強靭な腕を持ち、顔が丸っぽくなった。


 〈ジライヤ〉の失態を耳にした十気は怪物を生み出した原因と被害者の罪をこれ以上増やさないために〈ガンマ1号〉の新兵器を起動する。

 それはカサネの光線技〈クロスインパクト〉のデータをベースに制作された光線砲台、〈ミニクロスインパクト〉。

 威力は英二の物には劣るだろうが、ダメージを与えるならこれでも十分すぎるほど。


 (当てる。当ててみせる!)


 砲塔をムクロに向け引き金を引くと破壊光線が放たれ、バックステップで躱そうとするのを見逃さず、ジェット噴射で前進した。


 光線を受け大きく吹き飛ばされるが、1回転を行い着地、悶えながら命中した頭をさすり、怒りの咆哮を上げる。


「お前達のせいで、妻は………妻は!」


タケルの叫びに、道路に着地した英二とストロングマンは改めて構え直す。


「俺はあんたを倒す。救える今の内になぁ!」


「黙れーーー!」


既に冷静さをかいている彼は突然その強靭的な拳を唸らせるべく、高速で突っ込んで来る。


「グハッ!?」


重いパンチが英二の顔面に飛び、さらにラッシュをくらう。


「これで終わりだ!」


カサネは首を左手で掴まれ、右手を腹に押し当てられる。


「ザ・ビギニング・オブ・ザ・エンドー!」


放たれた野太い黒と白が打線した光線をゼロ距離でくらい、貫通した腹から噴水以上にドバドバと血が吹き出す。

その光景に十気は表情を悲痛に歪ませた。


「乱打さーーーーーーーーーん!?」


悲鳴と同時にムクロがその剛腕で軽々と投げ飛ばされた英二の体はビルに突っ込み、重力のまま下へ下へと落下、糸が切れた操り人形の様に崩れ落ちた。


「フハハ! ようやく1人目だ! このままあいつらをまとめて消してみせる! フハハ!」


復讐心に取り憑かれてしまった彼は罪を犯した。


ストロングマンは仲間の命を奪われたことには動じてはいけないと再び構え直す。


(私はストロングマンなんだ。落ち着いて対処しないと)


ヒーローとして悪と戦うために別の星から来たのだ。


動揺や怒りなどで左右されては務まらないのが自分の立場。

先輩達に泥を塗らないためにも絶対に負ける訳にはいかなかった。



英二は腹の激痛に耐えながら立ち上がると、そこは謎の空間だった。


オーロラの中にでもいるかの様な異空間。

動揺を隠せない彼に、ゆっくりと正義の巨人が現れる。

その姿はまるでカサネの元であるかの様な姿。

銀色のその巨人は見上げられるのを好まないのか、自分のサイズを英二と同じぐらいにまで縮小する。


「あなたは?」


「私はストロングマンの1人。と言ってもデータに過ぎないが」


過小評価するその言葉と共に、ストロングマンはこちらを見つめてくる。


「本物でないと言うのに、なぜあのストロングマンが君を認めたか分かるか?」


「ストロングマンは決して俺達を兵器として見ていない。仲間として………」


「その通り、私の記憶では彼女はまだ半人前だったのだがな。成長は早い物だ」


英二は「うん?」と首を傾げる。


「彼女って、もしかして一緒に戦ってくれているストロングマンは女性なのか!?」


「そうだが。まあ声を低くしている理由は大体理解できる。なんせこの星に女性のストロングマンが来るのは初めてだからな」


今まで彼女が自分達に隠していた事実。

それはとても衝撃的で、それでいて演じなければならないと言う辛さを実感した。


ヒーローになっていなければならない、保っていなければならない。

それは自分だって同じこと。

たとえ怪獣と言うイメージがあったとしても、正義の味方である証明をしなければならない。

認めてもらわなければ永遠に怪獣として見られるだけ。


「俺はただ生きれれば良かった。責任なんて負いたくなかった。だけど今なら分かる。怪獣、そして真獣を倒すのは俺達なんだって」


「良く言った。英二、君にはまことのストロングマンになる資格がある。受け取ってくれ、そして戦え、ストロングマンクロス」


ストロングマンから受け取られた光を彼は強く握りしめた。



一方その頃ムクロとの戦闘が長引き、さらにボウソウの光線によるダメージがストロングマンを苦しめていた。


「グッ」


「これで終わりにしてやる! ザ・ビギニング…………」


右手をストロングマンに向け光線を放とうしたその時、光と共に現れた正義の巨人が姿を表す。

それは紛い物ではない本物のストロングマンだった。


「俺の名はクロス、ストロングマンクロスだ」


「その姿は、さっき倒したはずの!?」


動揺するタケルだったが敵であると分かった途端高笑いを上げる。


「殺してやる。もう1度殺してやる」


「ストロングマン。俺はあんたを1人にはしない。ヒーローは2人3人増えても良いだろ?」


彼女はその言葉に英二の成長を感じた。

そして気づかされた。

自分は1人ではない。

地球人に支えられている存在なのだと。


「あぁ、共に立ち向かおう」


戦える体力はないに等しい状況で、クロスと共にムクロに向かって走り出す。


「消えろ! 俺の妻を殺した〈ジライヤ〉と共にぃ!」


タケルは姿をパワータイプからバランスタイプに姿を変え、咆哮を上げながら2人に向かって行く。

だがそこに割り込む様にイゲルド人が彼の体を乗っ取り、次元の裂け目に取り込んでしまった。


『水を差すようですまない。だがこれ以上の戦いは私の戦力が失われるのでやめる必要があったのだ。ではまた会おう』


そう言って戦いを中止した悪魔の研究者の声は遠のいて行った。


クロスとなった英二は夕暮れの中ストロングマンに「頼ってばかりの俺だけど、またよろしくな」と口にし、変身を解除した。


涙を流す十気が手で顔を覆っていると、デバイスの着信音が鳴る。

画面を確認するとそこには乱打英二の名前が記載されていた。


「もしもし………」


『もしもし霧神さん。乱打だけど。すぐに迎えに来てくれないか? 場所はGPSで分かると思うけど』


「乱打さん………本物ですよね………生きてますよね………」


質問に対して彼は自分がどこまで心配される存在なのかを理解するのだった。

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