他人であるが故に

夕方の〈ジライヤ〉本部、英二はスマホでネットニュースを観ていた。


俳優が重度の病気にかかったとか、新しいヒーロー物の限定商品が出たとか色々あったが、目に止まったのは人造ストロングマンがメディアにどう思われているかだ。


内容としては怪獣を倒したり真獣にストロングマンと共に立ち向かう姿が確認されていたようで印象は良かった。


だが悪の巨人の出現によって判別に困惑している様子。


(あの巨人達はストロングマンを含め俺達を狙っている。高市さんが言っていた通り、変身しているのが自分に関連している人間って言うのが本当なら、俺は誰と戦わなきゃいけないんだよ)


上司、後輩、家族、友達、もしかしたらパートナーである十気の知り合いかもしれない。

一体誰と争わなければならないのか。

そもそも巨人を倒すことで彼らもしくは彼女らは死んでしまうのか、それとも大牙の様に生き残るのかも分からなかった。


考えを巡らせながら十気と共に廊下を歩いていると、売店で桜と大がせんべいの詰め合わせを購入していた。


「あのコンビ、よくお菓子を買うなぁ。財布さいふひもが緩いのか」


目を細めながら金の使い方にケチをつけると、十気が面と向かってため息を吐く。


「人の事より自分の事。発言がたとえ相手に聞こえなくても、心に収めておく物ですよ」


「悪かったよ。正直者で」


反省の色が見えない彼の表情に、再びため息を吐いた。


するとサイレンが鳴り響き、怪獣の出現を伝える。


『ストロングマンと思わせる真獣がAエリアに出現。霧神隊員、乱打隊員は直ちに向かってください』


オペレーターの発言に英二は疑問を覚える。

それは〈ガンマ1号〉が現在どうなっているのかだ。


真獣によって壊され、大破した機体。

日にちはかなり過ぎているがあれでは修復は難しいだろう。

しかしその考えはすぐに打ち砕かれた。


なんと飛行場に新武装が追加された〈ガンマ1号〉の姿があった。


「何を驚いているんですか? 早く乗ってください」


「こう言うのを、〈ジライヤ〉の科学力ってすげーて言うんだろ。整備士さんの仕事の早さに正直驚いてる」


「整備士さんも私達と同じで人を怪獣から守るために頑張っているんです。それに応えるのがパイロットの役目なんですよ」


2人はコックピットに乗り込みハッチが閉まると、レーンから走り出し上空に飛び立つのだった。



ジェットブースターの出力が向上したこともあり、操縦が少々不安定だが結果悪の巨人がいるAエリアに到着する。

悪の巨人は骨を体に装着させたような装甲を持ち、赤い眼が特徴的であり、牙をギラギラと光らせている。


「来たか〈ジライヤ〉」


まるで2人を待ち構えているかの様な口振りに、純粋な戦いを望んでいるのを英二は察した。


そこにテレパシー怪獣、パレドロンが脳内に語り掛けてくる。


『あれはイゲルド人に造られた人造ストロングマンが誕生させ、進化した悪の巨人。〈ジライヤ〉に恨みを持つ者が変身しているみたいだ。会話して分かったよ。彼の受けた仕打ちをね』 


(なんだよ。その仕打ちって)


質問の回答が出る前にストロングマンが出現し、悪の巨人に立ち向かっていく。


「ストロングマン。よし、霧神さん、援護は頼む。カサネー!」


英二は人造ストロングマン、カサネに変身し、道路に降り立つ。

ストロングマンと目線が合い、お互い縦に首を振る。


「お前が〈ジライヤ〉に生み出された化け物だな!」


「違う。俺はヒーローにも認められた。れっきとした、ストロングマンだ!」


とっさに言ってしまったが、それを煽りに感じたのか悪の巨人、ムクロは怒りの咆哮を上げ、英二に向けて突撃していく。

だがカサネは両腕をX字にクロスし、念力で彼を吹き飛ばした。


「この野郎………」


ゆっくりと立ち上がろうとするところに追い討ちの尻尾による殴打をくらう。

その時だった。


ムクロの装甲が徐々に変貌を遂げる。


「なに?」


違和感を感じ、後ろにバックステップを行う。

その姿はまるで骸骨と化したドラゴンウォーリアーを思わせ、鉤爪と翼を持ち、牙がさらに鋭くなる。

高く飛び上がり、浮遊しながら高笑いを上げた。


「これこそ俺が〈ジライヤ〉を潰すために手に入れた力。様々な姿に変化し、どの相手にも対応できる」


「〈ジライヤ〉を潰す? あなたはなぜそんなことを?」


ストロングマンの発言にムクロは怒りの咆哮を上げる。


「妻が俺の目の前で宇宙人に誘拐され、〈ジライヤ〉に捜索願を出した。そしたらどうなったと思う? 宇宙人に兵器として改造されていたから射殺した………ふざけるなと思った………彼女と歩んで来た人生を踏みにじられた気持ちが分かるか!」


「怒りの矛先は2つある。宇宙人と〈ジライヤ〉だ。しかし被害者から復讐鬼に変わった瞬間、私はあなたを倒すことに躊躇ためらいはない。行くぞ、もう1人のストロングマン!」


ストロングマンは浮遊するムクロを見上げた後、カサネに視線を合わせる。


「あぁ! 俺達の結束した力をくらわせようぜ!」


右手の親指を立てサムズアップし、お互い高く飛び上がる。


「〈ジライヤ〉の味方をするなら全員消し飛ばす!」


激怒した彼は鉤爪にエネルギーを充電し、斬れ味を上げる。

そして2人を刃で切り裂きに掛かるのだった。

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