ダークストロングマン編

悪の巨人

イゲルド人はコバチの大破した姿に計画通りと言わんばかりに高笑いを上げた。


その理由はただ1つ。

悪魔の研究の材料にするためである。

コバチの残骸と他の宇宙人から得た今までのオリジナルのストロングマンの情報を元に開発を進め、悪の巨人の薬品が完成した。

あとは誰に変身させるかだ。

人間態がある真獣はいるがまたすぐに殺られるのが落ちだろう。


「ならば正義感が強い人間にこれを与えるとしよう。あとは誰に使わせるかだな」


人間のデータを調べ上げ、見つけたのは1人の男性。


「こいつだ」


彼は人間態に成れる真獣であるモフライを呼び出し、薬品が入った変身アイテムを持たせる。


「お前はこれでこの人間を復讐者リベンジャーに仕立て上げろ。そして争わせるのだ。ストロングマンとストロングマンの戦いは地球人にとって波乱をもたらすだろうからな」


モフライは〈ジライヤ〉の男性隊員の姿に変身し、次元の裂け目から飛び出すと人間に紛れて男性の元に向かうのだった。



男性の名は難道柴なんどうしば、〈ジライヤ〉の研究者で、怪獣の分析をしている。

そんな彼はストロングマンに成るために体を鍛えていた。

しかし適合率が低く、叶うことはなかった。

一般人である者達が変身できることに嫉妬しつつ、諦めていた自分がいることも事実だった。


卵サンドイッチを頂きながら、パソコンをいじっていると、隊員が研究室に入って来る。


「難道さんですね。再分析を行った結果、ストロングマンに成れることが判明しました」


その発言に柴は気持ちが舞い上がった。

だが突然判明したことに違和感がある。


「君、それは本当なのかい? 隊長からはそんな話聞かされていないが?」


「疑っているんですか? 証拠をお見せしましょう」


隊員が取り出したのは薬品が入った変身アイテムだ。


「それは、紛れもなくストロングマンの変身アイテム」


「これであなたは晴れて7人目の変身者に成るわけです」


手渡された変身アイテムに目を輝かせ、下部分を押し当てる。


「これで僕も、ストロングマンに………」


念願だったストロングマンに変身すること。

興奮の余り、上部分のボタンを素早く押した。


すると、彼に怨念達が取り付き、精神を高ぶらせる。


「僕はストロングマンだ。怪獣を倒す、それが役目なんだ」


精神が不安定になった柴は息を切らしながら研究室を退出し、外に出ると悪の巨人、ボウソウに姿を変える。

ストロングマンとティラノサウルス型怪獣の要素を取り入れつつ、怨念達が全身に渦巻いている。

眼は赤く染まり、まるで柴の嫉妬の炎を表現しているようだ。


『〈ジライヤ〉本部付近にストロングマンに酷似した真獣が出現。鈍木隊員、向井隊員はすぐに向かってください』


アナウンスと共に鳴り響くサイレン。


大牙は人造ストロングマン、キリサキに変身し、元斗は〈ガンマ3号〉に乗り込み、戦場に向かった。


ボウソウの前に立ち、左腕を前に出し、両足を踏みしめる。


「僕はストロングマンだ。君達の仲間だよ。なのになぜ身構えているんだい」


「私の知っている限り7人目のストロングマンなど情報がありません。自分の事を本物と言うのも烏滸おこがましいですが。敵として認識させていただきます。覚悟してもらいますよ」


矛盾のある発言に柴は不思議に思っていると、突然頭を抱えながら苦しみ始め、大量の情報が頭に流れ込む。

怪獣や真獣のストロングマンへの恨みや憎しみ、存在を否定された者達の怒りが彼にのし掛る。

その隙を突き、大牙は熱切断式ナイフを思わせる背鰭せびれ〈バーニングスライサー〉を大量に念力で浮かばせ、敵を切り刻みに掛かる。

だが風を斬る音に反応し、全身から光線を乱射、〈バーニングスライサー〉を撃ち落とす。


「なに!?」


動揺するキリサキに、ボウソウは天高く咆哮を上げる。


「僕はストロングマンなんだ! それを否定する君に証明して上げるよ! この戦いでね!」


興奮状態で再び咆哮を上げ、悪の巨人達5人を生成する。


「行けー!」


命令に対して応えるようにして叫びを上げ、大牙に向かって爪を立てながら襲いかかる。

元斗はその光景に唖然とした。


「あんな数の巨人が相手じゃ向井さんが………」


ストロングマンに酷似した巨人を相手にしかも数が数。

たとえオリジナルのストロングマンが駆けつけたとしても、倒すことは難しいだろう。


撃ち落とされた〈バーニングスライサー〉を念力で浮き上がらせようとするが、巨人達のリンチを受け、隙が見つからない。

〈ガンマ3号〉によるバルカン攻撃も効かず、どうしようもないこの状況にオリジナルのストロングマンが現れ、大牙を救いに向かう。

柴は怨念達に突き動かされ、両腕L字にし照準を合わせ、後ろから口を大きく開いた。


「ゴーストリバース!」


放たれる黒き光線をストロングマンは背中にまともに受け、光になって消えた。


「卑怯と言われようと、悪に堕ちたと言われようと、もう止められない! 死者からの叫びが、僕を突き動かすからだ!」


倒された怪獣、真獣、その被害者の怒りが彼を狂わせる。

叫び声に元斗は悪の巨人が研究者である柴と気づく。


「ストロングマンに成りたいといつも言ってた難道さんなのか。難道さんなんだな! なんであなたが悪の巨人なんかになっちまったんだよー!!!」


嘆きと怒りの叫びと共に柴に向けてミサイルを全弾発射する。

だが全体にバリアを張られ、すべて防ぎ切られた。


「まず1人目だ」


柴の意識は真獣達に取り込まれ、容赦なく光線を放つ体勢に入る。


それに気づいた5人の悪の巨人も攻撃をやめボウソウの横に立ち各々の構えを取り、口を大きく開ける。


「ゴーストリバース!」


6人から放たれる光線の嵐。

躱す隙などありはせず、キリサキの全身に命中し、激痛に悶えながら光になって人間として、大牙としての姿に戻ってしまった。


「向井さーーーーーーーん!?」


元斗の悲痛な叫びが機内で鳴り響く。

重症を負った彼に戦う力など残っておらず、その場で気絶した。


「トドメだ」


ボウソウは最後の一撃をくらわせるべく、最大出力の〈ゴーストリバース〉を放とうとする。


(僕は、こんなこと望んでない!)


L字に照準を合わせたその時、柴の感情が蘇り、顔を覆いながら闇に巨人は姿を消した。


他の悪の巨人達はなにかを察したかのようにどこかへ飛び立つ。


〈ガンマ3号〉を着陸させ、元斗は大牙の元へ駆け寄り、デバイスで〈ジライヤ〉の医療スタッフを呼ぶのだった。

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