狐が絞める
吉田里生は番理レイにゾッコンである。
前の戦いで言った「大好き」と言う発言。
それは彼にとって受け入れずらいことだった。
先輩であり付き合いが長い方ではあるが、一方的な片思いをされているとなると話は別だ。
姉の様に信頼を置いていた彼女の突然の告白。
とても断れる自信がない。
里生と会話をする度に子供扱いされるのでため息を吐きたくなる。
そんな中新しく戦闘部隊に配属された20代後半の女性、
「あの新人、どうやら人間じゃないらしい」
「それはつまり宇宙人のスパイってことか?」
「いや、検査の結果真獣の可能性があるそうだ。情報を手に入れるために迎え入れたそうだが、いつでも撃破できる様にと隊長から命令が戦闘部隊に出ているみたいだぞ」
レイにとってそれは無関係ではない話だった。
最初に自己紹介で顔を見た程度だが、その相手が真獣であると分かれば戦うことになるかもしれない。
そう思うとなんだか裏切られた気分になった。
雨の夜、パートナーの里生に別れを告げ、アパートの自分の個室に入る。
「はぁ、吉田先輩があんなにも積極的な女性になってるなんて。俺はこのままあの人と付き合って良いのか?」
恋の判断に迷いつつ電気を点け、風呂の準備をしようとする。
するとチャイムが鳴り響き、覗き穴を確認してみる。
そこには私服を着た南がずぶ濡れで顔を歪ませ涙を流しながらビシッとキレイな姿勢で立っていた。
玄関を開け、「戦闘部隊の感宮さんですよね。どうしたんですか?」と警戒しながら彼女に話しかける。
「番理さん………私を………1日だけ泊めさせてください………」
すすり泣きをしながらいきなりとんでもないことを言ってくる南に、その格好から戦闘部隊に追われていると推測できる。
恐らく自分を人質にし、隠れ場所を確保するつもりなのだろう。
これを断れば殺されるのは確実。
「分かりました。風邪をひく前にどうぞ」
「ありがとうございます………お邪魔しますね………」
中に迎え入れ玄関を閉めると、彼女にバスタオルを渡す。
「男物で悪いですけどこれで拭いてください」
「はい………」
南は疲れきった表情で濡れた体を拭き始める。
それが演技なのか定かではないが、レイは視線を逸らし、再び風呂の準備を行う。
その隙を突かれ彼女がドタドタと足音を立て後ろから彼の首を両腕で十字に絞めた。
「やっぱり俺を人質に!?」
あたふたするレイにイゲルド人の笑い声が聞こえてくる。
『残念なんだったなぁ。こいつが真獣であると知りながら殺される運命を避けることができない自分を悔やめ』
「主人の命令は絶対です。ストロングマンに成る前に終わらせます」
首をへし折ろうと力を入れようとする。
その時だった。
戦闘部隊が合鍵で玄関を開け、「突入!」と隊長の掛け声で部屋に侵入しレイ達がいる洗い場に駆け込む。
しかしそれを見越していたかの様に次元の裂け目を開き、南は彼を連れて行ってしまった。
異空間の中で変身のチャンスだと感じたレイはソウコウに姿を変化し、彼女の拘束から逃げ出す。
「良いのですか? 私を倒したとしてもこの場所からは出ることはできませんよ」
「俺には守る物がないんでねぇ。あんたを倒したらここでゆっくりと眠らせてもらうぜ」
皮肉を言いつつ、左手から光弾を南に向けて放つ。
だが彼女の姿が変貌、巨大化し、攻撃をバリアで防がれる。
その姿は女性らしさを残しつつ、狐と鶴と言う異色ながら美しい融合を果たしている。
名を幻想真獣、ビフォーグと言う。
圧倒的な素晴らしき飛行で彼を魅了、さらに次元の裂け目を開きミサイルを連射した。
それでも装甲が硬く、傷1つ付かない。
「それで終わりか? 次は俺の番だ」
装甲をパージし、蒸気を放出しながら、真獣にドロップキックをくらわせる。
吹き飛ばされるビフォーグに対して猛スピードで背中に追いつき、強烈な拳を味合わせる。
(適合率がなんだって言うんだ。どうせ死ぬなら、せめてスパイを倒してから死んでやる)
変身がいつ解けるか分からない状況で、レイは勝てるビジョンを構築して行く。
ハイスピードで一方的な戦いに思われるが、適合率の低さが制限時間を作り出す。
それはビフォーグにとって餌が無くなり、それでも満たされずねだる子犬の様に可愛らしく思えた。
装甲を失った現在の状態ならば、スピードで劣っていても防御面でボロが出る。
そこを狙いバリアを形成、勢いが入った連続パンチを防ぐ。
意表を突かれ、「なに!?」と焦りがピークに達し一気に形成逆転。
次元の裂け目からミサイルを受け爆裂、大きく吹き飛ばされ、体が宙を舞う。
さらに追い討ち、後ろから両手で首を締められる。
「グッ………グワッ………」
「さあ、ここで誰にも知られず死んでください」
南の声で真獣が自分を殺そうとしている。
スパイだと分かっていても、イゲルド人にただ従っている彼女と和解できるんじゃないかと少しでも思ってしまった過去の自分を呪う。
「吉田………セン………パイ………」
好きだと言ってくれた彼女の名字を口にし、死を覚悟したその時だった。
「万理君を! 殺させはしません!」
里生の叫び声が聞こえたと思えば、次元の裂け目が開かれ、ストロングマンと〈ガンマ2号〉が侵入して来た。
〈ガンマ2号〉のミサイル攻撃とストロングマンの右手から放つ光線を翼に受け、悲鳴を上げ両手の
力が抜ける。
焼け落ちる翼はビフォーグを落下させ、その速度を上げていく。
その隙を突きレイは尻尾を真獣の体に巻き付け、締め上げる。
ミシミシと音を立て、美しかった肉体が歪み、骨が砕けて行った。
血を吐き、悶え苦しむ敵に対し容赦なく尻尾の力だけで咆哮を上げつつはるか上空に放り投げる。
そして両手をビシッと照準を合わせた。
「ビーム
放たれた2発の光線はビフォーグの体に命中し、「主人………」と切なそうに声を漏らしながら爆散した。
その後2人はストロングマンの超能力で異次元から脱出し、適合率の低さからレイは変身が解除され、里生が疲れきった彼を〈ガンマ2号〉で回収した。
「吉田先輩」
「なんです?」
「戦闘部隊を俺の部屋に送ったのは吉田先輩ですよね。そこまでは分かります。でもどうやってストロングマンの力を借りて異次元に来れたのか分かりません」
その質問に対して、彼女は微笑みながらこう言った。
「これも愛がなせる技。ですかね」
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