2つの刃

「ねぇねぇ、子絵ちゃ〜ん」


大が操作する〈バルウル〉で移動中、桜は暇そうに同行者を呼ぶ。


「なんだよ。まだ真獣って奴の暴れてる付近じゃない。戦いに備えて休憩してろ」


彼らは真獣の目撃情報を受け、ジェット飛行で目的地に急いでいた。


その時間は彼女にとって飽きてしまうほど長く、ついあくびが出てしまう。

と、前方に突然次元の裂け目が開きそこから鎧武者と騎士を混ぜたような白い巨人が左手に刀、右手に剣を持ち、斬撃を飛ばして来た。


「チィ!」


大は歯を食いしばりながら左に攻撃を躱し、分身を展開する。

アームに仕込まれているバルカンを乱射するが、鎧の装甲が硬くビクともしない。

ならばと分身で撹乱しつつアームを高速回転させ急接近、攻撃を仕掛ける。

しかし次元の裂け目を閉じられ、視界からもレーダーからも消えた。


「消えた」


突然現れ、突然消失した。


次元の裂け目を開き、閉じることができる。

つまりいつでも奇襲でき、すぐに離脱することも可能。

怪獣とは一味も二味も違う相手だ。


「あいつ、子絵ちゃんの事を小馬鹿にしてた。でもそれぐらい相手には余裕がある。強いよ、絶対」


桜の剣道部としての礼儀と闘争本能が真獣の戦闘能力を強者だと認める。


「それでも俺達は勝たなきゃならない。真獣がなんだ。皆国、このまま近くの街に着陸する。舌噛むなよー」


大はその後街の市長に連絡、着陸許可を取り自衛隊基地の戦闘機専用駐車場に足を付けるのだった。



軍人2人が、女子高生で〈ジライヤ〉の隊員服を着た桜が〈バルウル〉から降りて来るのを見て顔には出さないが心の中で呆れる。


(ケッ、〈ジライヤ〉はあんな娘に隊員をさせてるのか)


(まったく、堕ちたものだな)


ストロングマンがいなければただの税金を無駄遣いしている部隊。

それに加えて戦うにはまだ若い者を入れている時点で終わりを感じた。


大にはその考えが透けて見え、イライラを加速させる。

しかしそれは彼女を拒絶する物ではなく、否定した彼らに対してだった。


(皆国は必死に怪獣と戦ってる。お前らが知らないだけでな)


人造ストロングマンの情報は自衛隊に伝わっておらず、彼らは撃破して良い物かと議論されているほど怪獣と同じ扱いをしている。

それが1番気に食わなかった。


確かに〈ジライヤ〉が情報漏洩を避けるためにやっていることであり、怒りの矛先を自衛隊にするべきではない。

そうなのだが、むしゃくしゃが止まらないのだ。


そんな中まるで大の怒りを感じたかの様に次元の裂け目が開かれ、白き巨人、アーマーガイが姿を表した。


「皆国! まだ変身するなよ!」


「なんで? 真獣は目の前にいるんだよ?」


「こんなところでやってみろ! 自衛隊に危害が及ぶだろうが! まずは〈バルウル〉で山の方へおびき寄せる。戦うのはその時だ」


彼らは〈バルウル〉に乗り込み、斬撃を飛ばし、基地を破壊していくアーマーガイにアームをバルカンからミサイル砲へ切り替え、発射する。

背中に命中し後ろを振り返る白き巨人は剣を空振りさせ、大と桜に向かって2本の刃を構え走り出す。


「よし食いついた。このまま俺達のフィールドに案内してやる」


ミサイルで攻撃しつつ、ジェットブースターで後方に下がって行った。


順調に山の更地に到着し、〈バルウル〉を着地させる。

だがアーマーレイの刀による斬撃が、彼らを殺しにかかる。

その直前危機一髪のところで桜はブソウに変身し、〈ストロングリング〉1輪を大型の盾に変化させ攻撃を防いだ。


「あなたは、私が倒す!」


〈ストロングリング〉を1本の刀に変え、吐息を上げる。

左足を後ろにすり足で踏み込み、両手で刀を構える。


アーマーガイはその姿に感化され、刀と剣を握り直し、改めて戦闘体勢に入る。

そして「いざ尋常に、勝負」と低くぎこちない口調で喋った。


彼にも真獣としてのプライドとイゲルド人の望みを叶えなければならないと言う使命感がある。


それを汲み取り、彼女なりの誠意で迎え撃つ。


「タァー!!!」


「テリャー!!!」


一斉に両者走り出し、刃と刃をぶつけ合う。

お互いの力は互角、あとは体力がどこまで持つか。

弾け合い、そしてまたぶつかり合う。

先手を取ったのはアーマーガイ。

強烈な右足による浴びせ蹴りをくらわせ、後退りをするブソウの首をはねようと剣を振るった。


だが地面から離れた足を地面に戻す際、踏みしめが甘く剣さばきにズレが発生する。

その隙を突き桜は攻撃を刀で防ぎつつ口を大きく開く。


「ウェポニックバースト!」


至近距離で撃ち出される光線をまともにくらい、アーマーガイは苦しみながらそれでいて清々しそうに笑い声を上げ爆散した。


「もしあなたが剣道部員だったら良い試合ができたよ。だから、だから絶対生まれ変わってまた会おうね」


彼女の願う姿を見て大は今回の真獣ついて複雑な想いを残しつつ微笑み「ほら、帰るぞー」と〈バルウル〉のハッチを開ける。


「はーい!」


元気良く返事を返し変身を解除すると、機体に乗り込み、席に座る。


「シートベルトは付けたか?」


「うん。お疲れ様でした〜」


2人はアーマーガイの事を胸に刻み、〈ジライヤ〉本部に向かって飛行するのだった。


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