怪獣を超えし悪魔達編

真獣の恐怖

英二はストロングマンの流れるニュースが嫌いだった。


別に彼らが地球人を救ってくれていることには感謝していない訳じゃない。

だが被害を受けていなかった彼にとって退屈な時間だ。


しかしストロングマンになって気づいた。


自分が戦わなければ誰かが死ぬことを。

そしてその逆も然り、戦ったことによって被害者も出ることを。


今日も十気と共に怪獣を倒し、夜が深けて来たところでアパートに帰って来る。


「お勤めお疲れ様でした。明日も頑張りましょう」


「あぁ、また明日」


そう疲れた様子で別れを告げ、電気を点ける。

食事はパートナーと済ませているので良いとして、掃除や洗濯がまともにできていない。

山積みになった洗濯、敷き詰められたゴミ箱。


視界に入れただけでため息を吐きながらお風呂の準備を行い、リビングに移動しカーペットの上に座りスマホで動画を観始める。


3年ほどやっていた清掃の仕事を〈ジライヤ〉の方針によって辞めさせられ、自分にとって普通ではない生活を送っている。

こんな日常がずっと続くとなんとも落ち着かない。


「あー! この際だから洗濯も済ませるか」


体を伸ばし大量の洗濯を洗濯機に詰め、洗剤を入れ蓋を閉めると、スタートボタンを押す。

ウィン、ウィンと起動音を鳴らしながら予測時間が表示される。

その間に風呂の準備が完了し、カゴに服を入れ一風呂浴びるのだった。



次の日、十気が乗る〈ガンマ1号〉に乗り込みまた非日常が始まる。

昨日の疲労から眠気があくびを誘い、口を大きく開ける。


「乱打さんどうしたんですか? 何やら眠そうですけど」


「洗濯をしてたら寝るのが遅くなった。ただそれだけだよ」


再びあくびをすると、清掃員であった自分を思い出す。

いつも通りに同じ場所で掃除をし、刺激などない生活。

新しいことを求めずただ仕事をする。

もしかしたら今の戦いを自分は拒んでいるんじゃないか。

そう思うとストロングマンの力を手に入れたことを後悔した。


(まったく、いくら適合率が高くても、人間性も考えてほしい)


そう空を見ている間に〈ジライヤ〉本部に到着、機体から降り司令室に向かう。

すると彼の頭の中に男性の声が聞こえてくる。


『やあ、私は会話怪獣と言われているパレドロンだ。ストロングマンである君にお願いがある』


(あんたは自分が倒されるであろう俺に会話している。それはなぜだ?)


質問に対してパレドロンは微笑み返す。


『そうだね、君にとって怪獣は倒す相手だ。しかしそう言ってもいられない事情がある。我々地球出身の者達にとって危機が迫っているんだよ』


危機的状況。

その言葉が彼にとって足を止める理由になった。


『ようやく分かってくれたようだ。簡単に説明すると、ここ最近とある宇宙人が怪獣を生み出し、ストロングマンを抹殺しようとしている。君にはそれを仲間に伝えてほしい』


(そんなこと、俺が言ったところで信用されるかよ)


英二が足を止めたことに気づいた十気は心配の表情で近づく。


「英二さんどうしたんですか? 早くしないと朝の会議に遅れますよ?」


「いや、最近宇宙人の事件が多いと思って。しかも全部怪獣絡みときた。ストロングマンが言っていた怪獣売買、なにか関係してるんじゃないか?」


彼の戦う意思を改めて尊重し、「そうですね。そのことについても会議で話しましょう」と笑顔で返した。



ここは別次元の裂け目にある研究室。

そこでは悪魔の怪獣研究者、イゲルド人が怪獣のキマイラ〈真獣〉を開発していた。


「さて、今回はお前に行ってもらおうか。ソンターブ」


彼の命令に戦闘機と台風を掛け合わせた暴撃真獣ぼうげきしんじゅう、ソンターブは首を縦に振りながら咆哮を上げ、次元の裂け目を開きマッハのスピードで飛び出した。


周りの山は木をもぎ取られ、地面が割れる。


『とてつもない速度で怪獣がAブロックに移動中、霧神隊員、乱打隊員は速やかに向かってください』


警報とアナウンスが鳴り響き、〈ガンマ1号〉に呼ばれた2人は急いで乗り込む。

エンジンを起動し、ジェットが唸る。


「〈ガンマ1号〉、出撃します!」


レーンから飛び立ち、車輪を収納する。


『こちら司令室、怪獣は次々に建物を倒壊させている。どうやら全身から暴風を放出しながら爆撃しているようだ』


「爆撃? それはどう言う………」


十気がその続きを言おうした時、ソンターブの作り出した台風に煽られ大きく吹き飛ばされる。


危機的状況に英二はとっさに「カサネー!!!」と叫び人造ストロングマンであるカサネに変身、〈ガンマ1号〉をビルの上に置きそれと同時に真獣が着地する。


「お前がパレドロンの言っていた怪獣か」


下級の存在である怪獣と呼ばれたことに腹を立てたソンターブは怒りの咆哮を上げる。

するとどこからか笑い声が聞こえてきた。


『初めましてと言っておこう。私はイゲルド人。君達が今戦う生物は怪獣を超えるその名を真獣。怒らせるとあっという間にこの星を破壊してしまうぞ。まあ目的は星を破壊するスタークラッシュではなく、巨人達を殺すストロングマン・イズ・デッドなのでね。さあソンターブ、まず1人目だ』


主人の命令を聞き冷静さを取り戻し、雨と風の中なんと口からミサイルを発射した。


英二は両腕をX字にクロスしバリアを形成、攻撃を防ぐ。

だが今度は風がさらに強くなり、土砂降りで大粒の雨が体に突き刺さり激痛を与える。

あまりの環境状態に耐えられず膝を着き、息を荒くする。


(俺みたいな半端もんには………勝てないのか………初めっからそうだった………戦う理由を無理やり作られた俺が、決意のない俺が、こんな相手に勝てる訳がない)


逃げたい。

戦いを放棄したい。

そんな考えが頭に過ぎる。

変身を解除すれば台風に飲み込まれ、死亡するのは分かっていた。


雷が鳴り響き意気消沈の中、真獣は追い討ちにミサイルを放つ。

次の瞬間。


「諦めるな!」


突如現れたストロングマンが射撃を鋭いビームで破壊し、彼に肩を貸した。


「ストロングマン………」


「あなたもれっきとしたストロングマンだ。自信を持て」


思わぬ乱入者に驚きつつ、ソンターブは倒すべき相手がやって来たことに一石二鳥だと前向きに考える。

より台風を強くし、ジワジワと2人を追い詰める。


「俺は紛い物だ………人間としても………守る者としても………」


「それは自分で決めることじゃない。見てくれている、みんなが決めることだ。私は戦う、あなたと共に。でなければ真獣は倒せない」


鋭く突き刺さる大粒の雨に耐え、ストロングマンはソンターブに走って向かって行く。

その姿に英二の中でなにかが動いた。


(ストロングマン、あなたは俺を協力者として見てくれている。それに応えないなんてできるかよ)


両手を拳にし、両方の足を叩き気合いを入れる。


「おおーーー!!」


叫びを上げ、走り出すカサネ。

大洪水で激流となった道を駆け抜け、真獣を右拳で殴る。

さらに左手でのチョップがソンターブを後ずさりさせる。

それに続いて正義の巨人は高く飛び上がりドロップキックを繰り出す。

頭に命中し、思わずジェット噴射で、上空に避難する。


「「今だ!」」


絶好のチャンスを見逃さず、2人は必殺技である光線を放つ体勢に入る。


「クロスインパクトー!」


「バースト光線!」


放たれる2つの光線が空を切り、雨を遮り、真獣に命中、悲鳴に近い鳴き声を上げ爆散した。


台風が止み、青い空が顔を出す。

故障した〈ガンマ1号〉を英二は手に収め、ストロングマンに「ありがとう」と首を縦に振り、〈ジライヤ〉本部に向けて飛び立つ。


「こちらこそ。あなたがいなかったら真獣は倒せなかったよ。でもね、まだ戦いは終わらないの。イゲルド人が倒すまで絶対に」


素の少女の声で彼に感謝しつつ、彼女は次の戦いに備え音速で飛んで行くのだった。

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