インセクトブラック
ニュースで流れるストロングマンの出現情報。
ほとんどの地上波のチャンネルで特集が組まれ、英二にとってつまらない日が続いた。
そんな中取り上げられたのが人造ストロングマンの事である。
世間には人間を兵器化したことを隠すため、〈ジライヤ〉は事実を隠している。
『あの禍々しい姿のストロングマンはなんなんでしょうか。怪獣を倒してくれているのは事実ですが』
キャスターの男性が怪獣専門の博士に問い掛けると、「うーん」と声を漏らす。
『あれはたしかに怪獣です。しかし守ってくれている以上刺激を与えず、攻撃をしないことが大事だと思います』
『つまり私達は仲間である怪獣と敵である怪獣、それを見分けなければならないんですね』
ラーメン店のテレビから流れたニュースを観て、彼は自分が怪獣になったことを今更自覚する。
(そうか、俺は傍から見れば怪獣なんだな)
そんなことを思いながら醤油ラーメンの麺を啜り、同じくチャーシューと共にいただく。
太麺が口いっぱいにスープを連れて来ると同時に分厚い肉が犯罪級にアゴを酷使する。
だがそれで良い。
ちなみになぜラーメン店にいるのかと言うと、単純に十気と英二の食べたい物が一致したからである。
「それにしても偶然だなぁ。まさかこのラーメン屋を知ってるなんて」
「高校生の頃通い詰めていた物で。それより、早く食べないと麺が伸びますよ」
このラーメン屋は近くに高校があり、部活をやっている生徒がこぞってここにやって来る。
量もそこそこあり、腹を満たすには十分すぎるほど。
十気にとってここは思い出の場所なのだ。
2人はスープをすべて飲み切り、会計を済ませる。
「あー食った食った」
腹を
「おい待て!」
怒鳴りながら追いかける彼の姿に十気は「どうしたんですか!?」と不思議そうに着いて行く。
宇宙人が彼らの声に気づき、驚きつつさらに足を加速させる。
ポケットからデバイスを取り出し、英二は〈ジライヤ〉本部に通信を試みる。
プープーと言う着信音がしばらく鳴る。
繋がった。
「こちら乱打。宇宙人を三枝高校の近くで発見。応援をお願いします」
『分かりました。戦闘部隊をすぐに向かわせます。怪獣を所有している可能性がありますのであなたは変身をいつでもできるように備えてください』
「はい。よろしくお願いします」
通話を切り、ゆっくりと足を減速する。
それに合わせ十気も足を止め、息を切らしながらラーメンの油で気持ち悪くなる。
「ハァ………ハァ………確かにこの地域で宇宙人が潜伏していると言う情報がありましたが、こんなところで見つけるなんてすごいです。ウッ………」
酸ごと吐きそうになった物をゴクンと胃に戻す彼女に英二は思わず苦笑する。
「おいおい大丈夫かよ」
「ラーメン食べて走って気持ち悪くならない乱打さんがおかしいんですよ! ウッ………」
「電車で帰んのに走って行ってたからな。もう慣れたよ」
彼らが話し合っている間に〈ジライヤ〉本部では戦闘部隊が大型車に乗り込み、発進する。
1人の宇宙人だけに6人の戦闘員を送り込む。
これにはちゃんとした理由があり、彼らは超人的な力を持っている訳ではない。
戦闘経験があるとは言え生身の人間が得体も知れない者に勝てる保証はない。
そのため戦力は多いに越したことはないのだ。
三枝高校付近に到着し、車を止める。
「これより宇宙人を捜索、
『はい!』
隊長の指示にアサルトライフルを構え、走り出す戦闘員達。
その姿に一般人はまた銃撃戦が始まるのかと呆れてため息も出なかった。
固まって捜索を続けていると、何やら機械音が聞こえてくる。
「どこからこの音が。全員戦闘態勢を取れ」
全方位にそれぞれ銃口を向ける。
すると上空に紫色のプラズマが撃ち出され、爆発と共に怪獣が出現した。
その姿はカブトムシと黒龍合わせた物となっており、装甲が黒光りし、長い角と鋭い爪を持つ。
「こちら〈ジライヤ〉戦闘部隊。昆虫型の怪獣が出現。ストロングマンとブルージョーの応援を頼む」
デバイスからオペレーターに連絡を取り、戦闘部隊はこの場から退散する。
その方向はなんと〈ジライヤ〉本部だった。
一方宇宙人は怪獣が保管されたカプセル弾を射出した銃を重そうに両手で持ち、宇宙船に向かっていた。
その時だ、黒髪の少女が目を細めながらこちらを見つめてくる。
念力で宙に浮かされ身動きが取れなくなると、地球人にとってのヒーロー、宇宙人にとっての宿敵が近づいて来た。
「あなたがこの星で怪獣の売買をしているのは知ってるのよ。さあ、仲間の居場所を吐きなさい」
「噂でストロングマンがこの星を警備しているっての聞いていたが、まさか本当にいるとはなぁ」
彼女の冷たく殺意の表情に彼は死を覚悟した。
ストロングマンの能力ならすぐに始末することができる。
そんなことは先代から何回も聞いていた。
「俺は死ぬ覚悟ぐらいある。仲間の場所なんて教えるかよ」
そう言って体の内側に巻いていた爆弾を拳でショックを与え、爆死した。
念力で爆風を留めることはできたが、宇宙船の情報を得ることはできなかった。
ストロングマンとして自分は地球人を守らなければならない。
怪獣売買などされればこの星は火の海になる。
そんなことは絶対にさせる訳にはいかない。
少女は本来の姿であるストロングマンに変身し、〈ジライヤ〉本部へ飛び立つのだった。
その頃丈とブルージョーはコックヅーノと互角の戦いを繰り広げていた。
『こいつ、装甲が硬くてビームサーベルを弾きやがる』
「この怪獣を倒す手段は必ずあるよ。それを探すんだ」
会話している間に火炎弾を放つ相手にデルタホーンの粒子から回収したテレポートを使い対処する。
そこに
鋭い2本の角、黒きボディに黄色のラインが入り、冷気を放出している。
光が点った眼にはヒビの様な模様が
「
「ごめんごめん、昼ご飯食べてたら遅れちゃった」
レスリング部に所属し、その鍛え上げた体と自慢の戦闘スタイルで怪獣に立ち向かう。
姿勢を低くし、冷気を放出しながら走り出す。
コックヅーノは上空に飛び立とうとするが、羽が凍り始めバランスを崩し倒れ込む。
「今だ! フリーザークラッーーシュ!」
叫びを上げながら凍りついた怪獣の体に抱きつき、力任せに粉砕した。
装甲の破片と凍った血の結晶がバラバラに飛び散る。
そしてビルや地面などに激突し、被害を出した。
しかしアツ達の仕事は怪獣の撃破、それ以上の配慮はできない。
するとそこにストロングマンが降り立ち、彼女らを視界に入れる。
「君達が倒してくれた怪獣は元々宇宙人達の商品だった。いずれ同じような怪獣が現れることだろう」
「ストロングマン、どうして私達の様な紛い物を倒さず、それどころか助言を言ってくれるの?」
ヒョウケツの質問に対し、優しい笑い声を上げる。
「私達ストロングマンは人類を守るために怪獣と戦う。同じ考えを持つ者は大歓迎だ。今度ともよろしく頼む。では」
そう言って空へ飛び立ち、一気に加速し姿を消すのだった。
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