今更の登場

「地球人め。ストロングマンの紛い物など作りやがって。これじゃあ侵略なんてできるのかよ」


朝頃、とある宇宙人の隠れ家から弱音が響く。


「これも上司の命令だ。やるしかないだろう」


仲間の彼がスマホを確認しながらそう言っていると、ため息が漏れる。

2人の種族名はガンガ星人。

地球侵略を上司に命令され、この星に潜伏している。


「おい、そのスマホってなんか情報が得られるのかよ?」


「あぁ、地球人の愚かさがよく分かる。俺達が手を出さずとも勝手に絶滅するだろう」


地球人の科学力は確かに彼らより劣り、精神面も同じく進化と言う衰えがある。

たとえ科学力が超えたとしても、それは人類と星の寿命を縮めるだけだ。


「でもよぉ。命令されたのは地球人を支配することであって、全滅じゃない」


「まあそうなんだが。おっと、アルバイトの時間だ。急いで行くぞ」


「あいよ」


2人は地球人の姿に変装し、コンビニのアルバイトに向かった。


15分前出勤、仕事服に着替え持ち場に着く。

彼らの接客はとても評判が良く、さらに業務をすぐに覚える。

正社員にしたいと店長に言われるほど理想の店員だった。


しかしそれは2人にとって当たり前のことである。

上司にはこれ以上の事をこなすように命令されるのだから。

そんな中2人の男性が店内に入ってくる。


(ゲッ、あの服は〈ジライヤ〉の隊員用の………)


コンビニの独特なチャイムが鳴り、ガンガ星人達はいつも通り「いらっしゃいませー」と笑顔で迎え入れる。


「向井さん、別に基地の売店でも飲み物は買えると思いますが」


鈍木なまきさんは分かっていませんねぇ。いいですか。私はチョコバナナオーレと言う自分が大好きな物が売店になかった。だから品揃えが良いと言われているこのコンビニに来たんです」


どうやらお客としてここに来たようだ。

心の中でホッとしつつ、仕事を全うする。

会計を済ませ、2人が出て行くのを確認し、プレッシャーを跳ね除けた彼らは次の客の接客を始めるのだった。



夜、アルバイトが終わり隠れ家に戻ると1人の少女が待ちかねたようにイスに座り、足をばたつかせていた。


「お前宇宙人だな。俺達に何の様だ」


ガンガ星人の1人が彼女に声をかけると、笑みを浮かべながら立ち上がる。


「あなた達、地球を侵略しに来たんでしょ。それは私達ストロングマンにとって嫌なことなの」


その発言に背筋が凍った。


あのストロングマンが、地球を見捨てたはずのストロングマンがここにいる。


「ストロングマン!? まさか新しく来たのか!?」


怯え後ずさりする相棒に対し、強気に近づいて行く彼。


「なぜ今更地球に来た。正義を語るお前達が来なくなってこの星の人類は怪獣によって苦しんでいるんだぞ?」


不敵な笑みを浮かべるガンガ星人の1人は少女の首を掴み上げ、締めようとする。

しかし突然体が浮かび、腕に力が入らなくなる。

さらに壁にまで吹き飛ばされ、激突する。


「グハッ!?」


「私達は来なかったんじゃない。来れなかったの。それに今の地球人に必要なのは英雄ではなく戦力なんだから」


彼女の力を目の当たりにし、相棒は隠れ家から悲鳴を上げながら逃げ出す。


(あんな奴に勝てるが訳ない。そうだ、俺は今人間の姿をしている。スマホで〈ジライヤ〉に電話すればストロングマンと相打ちにできるかもしれない)


生き残ることを考え、敵である〈ジライヤ〉のサイトを検索し、電話番号をコピーする。


(これを電話のアプリにペーストしてっと。これで掛ければ………)


その続きを考えていた時、目の前にあの少女の姿があり、思わず絶叫する。


「た、助けてくれー!」


「命乞いなんてしてもダメだよ」


このままでは本当に殺されてしまう。

危機を感じた彼は人間の変身を解除し、巨大化するのだった。



『Cブロックに巨大化した宇宙人が出現。向井隊員と鈍木隊員は直ちに向かってください』


アナウンスと警報が繰り返される中、彼らは〈ガンマ3号〉に乗り込む。


「準備は良いですか?」


「私もマジシャンです。とっくに準備はできてますよ」


鈍木元斗なまきげんと、30代の男性で射撃の名手。

そんな彼のパートナーは向井大牙、テレビにも出演するほど有名なマジシャンで甘党である。

〈ガンマ3号〉のエンジンが入り、発車レーンで加速する。


「発進」


勢いのままフライトを開始、目的地であるCブロックへ向かう。

〈ガンマ3号〉のスピードは他の機体よりも格段に速く、操縦がとても難しい。

しかし元斗は大と同じくパイロットとして実績を持っている。

問題なく飛行する可能だ。


ガンガ星人がこの場から逃走しようとしているのを確認し、攻撃を開始する。

足元をバルカンで連射し、転ばせると追い討ちのミサイルを発射、腹に命中させる。


「今です!」


「分かりました。さあ、ショータイムです」


自信有り気に変身する大牙。

黒きボディ、鋭い刃の様な背鰭、口が拘束具で塞がり、瞳には黒目が存在する。

黄色いラインが刻まれた巨人の名はキリサキ、念動力のエキスパートだ。


「ストロングマン………嫌だ………死にたくない………」


命の危機に絶望し涙を流すガンガ星人。

それに対して大牙は戦う覚悟のないのを理解する。

次の瞬間後ろから光線が放たれ倒れている彼に命中、激痛から悲痛な悲鳴を上げ、爆散した。


後ろを振り返ると、そこには人造ストロングマンではない、オリジナルのストロングマンの姿があった。


銀色のボディ、ギザギザした黄色のライン、同じく丸い瞳を持った正義の巨人。


「なぜ、なぜ戦う意思を持たない宇宙人を殺したんですか?」


「私達は人類を守るために戦っている。それだけ言えばあなたなら分かるだろう。あの宇宙人は地球侵略を企んでいた。だから倒したんだ」


地球侵略をしようとしていた宇宙人に慈悲を与える義理は確かにない。

しかし理由を聞いた時、大牙の中で納得ができなかった。


今までこの星を守りに来なかったストロングマンが言えたことなのだろうか。

英雄として見ていたあの頃とはもう違う。

だが争う理由なんてどこにもない。

自分の無闇な行動で〈ジライヤ〉に多大な迷惑を掛ける。

テレビに出ているから分かる。

もしストロングマンに攻撃することはヒーローを攻撃するのと同じ。

気に食わないと言う自分勝手な理由を抑え込み、変身を解除するのだった。

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