復活の一角獣

目的の家に到着した高美はチャイムを鳴らす。


『はーい』


スピーカーから流れたのは丈の母と思われる女性の声。


「〈ジライヤ〉の警備員の陣高美と申します。息子さんの事でお話を聞かせて頂きたいのですが」


『はあ? 分かりました』


玄関から出てきた母親は「どうぞ」とどうして彼女が来たのか不思議そうな表情をしながら、家に入れる。

この様子だと状況を分かっていない。

宇宙人の魔の手が迫っていることを。


「家の子がなにか?」


「実はこの辺りで巨大ロボットの出現が多く目撃されています。で、そのロボットがここから現れていることが判明しているんです。もしかしたら宇宙人が潜伏している可能性があります」


高美の発言に驚きを隠せず、怯え始める。


「どうされたんですか?」


「い、いえ。夫はロボットの研究をしているのですが、中々帰って来れず、去年の誕生日は息子に人工知能付きのロボットを送ってきたんです。人見知りのあの子には丁度良い話し相手になっています。でもあれが送られてきてから寝れていないみたいなんですよね」


話を聞くにブルージョーは元々丈の父が作った話し相手ロボットであり、息子へのプレゼント。

それが巨大化することはまずありえない。

やはりここには宇宙人が潜伏している。

そう確信した高美の姿を見て激怒した表情で丈が現れる。


「丈! あなた今日学校でしょ!」


注意する母親の声など聞く耳を持たず彼は涙を流しながら玄関から出て行く。

だが丁度雷がチャイムを鳴らそうとしていた。


「うん? 坊主どこへ行くんだ?」


「岩歯さん! その子を止めてー!」


パートナーの叫び声も虚しくブルージョーが巨大化、丈を取り込みコックピットに乗せブースターでどこかへ飛んで行ってしまった。


2人は母親に謝罪し、息子の捜索を開始した。


パトロール用の車である〈アンナイ〉に乗り込み、雷がアクセルを踏み込む。


「これからどうする。丈って坊主を探すのは〈アンナイ〉の中にある機材ですぐに特定できるが」


「問題はあの子からどう兵器を引き剥がすかよ。あんなにも執着していたら手出しできないわ」


話し合いをしている内にブルージョーの位置を特定し、車を走らせるのだった。



丈はそんなこととはつい知らず、街をブースターで飛行していた。


市民が写真をスマホで撮っていると、突然雨雲から雷が落ちる。

チカッと一瞬光で皆目をつむったその時、高美に倒されたはずのデルタホーンが現れた。


ブルージョーを呼び付けるように咆哮を上げ、アスファルトの道を踏みしめながら鋭い角を狙いすまし突っ込んで行く。


『丈! 後ろだ!』


「分かってるよ!」


彼らはブースターを利用して後ろに方向転換し、バックパックから盾を取り出す。

怪獣の角による攻撃を防ぎ、ビームライフルでゼロ距離からの射撃を行おうとする。

だがデルタホーンは瞬間移動で後ろを取り、粒子を口から放射した。


瞬時の事で躱すことができず大きく吹き飛ばされ、ビルに激突する。


『大丈夫か! おい! 返事をしろ!』


コックピットで気絶してしまった丈に怪獣が迫る。

その時だった。


ダゲキに変身した高美のドロップキックがデルタホーンの角に命中し、へし折った。


後ろに倒れているブルージョーを振り返り確認すると、動揺し咆哮を上げる相手の方を視認する。


(この怪獣、別個体なのかそれとも復活したのか。とにかく被害を増やす訳にはいかないわ)


青き機体を守りながらの戦いを強いられた彼女は放たれる粒子に対して筋肉操作で全身を硬くすることで防ぎ切る。


だがデルタホーンは瞬間移動を行い、ブルージョーを襲おうとする。


『やるしかない。パイロットから俺に操作を移行。戦闘を続行する』


主導権を自分に移し、ブースターで加速すると怪獣をタックルで吹き飛ばした。


その姿に高美はやはり兵器は兵器と確信する。

この戦いに参加しようとする意思があると言うこと、それは生き残ろうとする感情が欠落していると断言できる。


「やっぱりあなたは丈君を利用しているだけなのね!」


『なんだと! 相棒である丈を俺が利用するなんて、そんなことはありえない!』


声を荒らげるブルージョーに、睨みを効かせる高美。

その間にデルタホーンが立ち上がり、怒りの咆哮を上げる。

粒子を光線の様に放ち、それに対して彼女は高く飛び越え、彼はブースターで空中に避難する。


『俺はこいつを倒す。それが丈の望みなら』


怪獣を倒すこと、それは少年の願望だった。


人が怪獣被害を受けて苦しんでいるのをニュースで観るのがとても彼には耐えられなかった。


なぜ父親が言っていた正義の味方であるストロングマンが現れないのか。

遂には自分の家の近くでも怪獣が現れ、被害を受けた。


そのトラウマから悪夢で怪獣に父親と母親が殺されるのを何回も見た。

そんな中父親がプレゼントでくれたブルージョーと公園で会話をしていると、黒髪の少女が羨ましそうにこちらを見つめて来た。


「な、なに?」


「あなた、怪獣をやっつけたいんでしょ。その夢、叶えてあげる」


彼女は自分の心を見透かすような発言を笑みを浮かべながら口にすると、青きロボットに光を与える。

すると突然光り出したと思えば、ブルージョーがなんと巨大化し、さらに武装が装備されていた。


『丈、俺の中に操縦できる部屋、コックピットがある。これなら怪獣を倒せるぞ』


「じゃあ僕達、ストロングマンみたいに戦えるんだね! ありが……あれ?」


お礼を言おうとした時には少女の姿は消えていた。


不思議に思いながらも怪獣と戦えると言う興奮が彼を突き動かした。



時は戻り、ビームライフルを連射しデルタホーンに攻撃するが、瞬間移動で躱され、粒子を放たれる。

盾で攻撃を防ぎつつ己の使命を貫くためブースターで加速、ビームライフルを収納し、ビームサーベルで仕留めに掛かる。


『俺はストロングマンの代わりに戦わなければいけない! 丈にトラウマを植え付けた怪獣を倒すために! 俺は、俺はー!』


捻りを掛け、敵の首を跳ねる。

崩れ落ちるデルタホーンの体。

粒子に変化し、天に上って行く。

すると雨雲の中に数字の羅列が向かって飛んで行こうとする。


『逃がすかよ!』


ブルージョーは粒子を自分自身に取り込ませ、カメラ部分が赤く染まった。


『起きろ丈、怪獣を倒したぞ。正義のヒーローに俺達はまた近づいたんだ』


ようやく起きた彼は怪獣がいないのを確認し、笑顔を見せる。


「ブルージョー、やっぱり君は最高の相棒だよ」


2人が勝利の笑いを上げている。

それを見た高美は本当に彼らは仲が良いんだと感じた。


利用しているならここまで丈に接すること、そして想いを強く持つことはない。


「丈君、ブルージョー、ごめんなさい。あなた達の友情を私は否定していた。許してはくれないでしょうけど、もう一度チャンスをくれないかしら」


後ろを振り返る青き機体は彼女に親指を立て、握手を交わすのだった。



それから数日後、学校で勉強している丈のランドセルから雷に貰ったデバイスの警報が鳴る。

彼は〈ジライヤ〉の一員となった。

それを教室の皆が認めている。


「行くよ、ブルージョー」


『あぁ、頑張ろうな丈』


彼らは教室を飛び出し、怪獣を倒しに向かうのだった。




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