17:少年の友情
カケルとピケルが協会に戻ると、そこは相変わらずの盛況ぶりだった。
採掘者が再会を誓って坑道に潜る。あるいは再会した採掘者同士で互いの無事を喜びあう。
そんな無数の出会いと別れが繰り返される中、買取の列に並んでいるカケルもとある女性と再会することになる。
「……エリーゼ、さん?」
「あれ? カケル君。どうしたの?」
数時間ぶりに見たエリーゼは勤務時間を終えたのか、職員の制服から私服に着替えていたが、そんなことを気にした様子もなく列に並ぶカケルに駆け寄ってきた。
「エリーゼさん、今日はもうお仕事終わりなんですか?」
「ええ、そうよ。カケル君は、坑道から帰ってきたところかな? 隣の子は、カケル君のお友達?」
「そう。僕の友達の、ピケル君」
エリーゼは周りを見渡して、カケルのことを頼んだはずのディンがいないことに苛立ちながらも、カケルが無事に仲間を集めたことに安心したようにほっと一息ついた。
「私はエリーゼ。ここで働いているの。ピケル君、よろしくね」
「ああ、俺はピケル。カケルの友達だ。こちらこそよろしく」
「ピケル君は、どこかのギルドに所属しているのかな?」
エリーゼに問われると、ピケルは首をかしげながら返事をする。
「俺か? 俺は別にそういうのじゃ……」
「え……じゃあもしかして君たち、二人だけで坑道に?」
エリーゼが不安げに問うと、カケルとピケルは何も言わずにこくりと頷いた。
そんな様子を見てエリーゼは、眉間にしわを寄せて困ったようにうなり声を上げる。
「……カケル君、ピケル君も。君たちは、どこかのギルドに入るつもりはないのかな。二人きりでも今は大丈夫かもしれないけれど、きっとそのうち難しくなる。危なくなってからだと、間に合わないかもしれないんだよ? だったら、大人と一緒に……」
「でも僕は、知らない人とは……」
「確かに、嫌なことも少しはあるかもしれないけれど……でもそれだけじゃなくて、ギルドに入っていると、良いこともたくさんあるの。ギルドに入っている人じゃないと使えない場所もあるし、ツルハシや採掘道具を安く買うこともできるようになるのよ。カケル君は……どこか、興味のあるギルドとかはないの?」
興味のあるギルドと聞かれてカケルは、今まで自分がいたギルドのことが真っ先に思い浮かんだが、聞くべきかを数秒間悩んでからその名を口にした。
「……トゥインクル・マイナーズっていうギルドは? エリーゼさん、聞いたことある?」
「トゥインクル・マイナーズね。もちろん知っていますよ。この街で一番有名なギルドかもしれません。……でもね、カケル君。えっと……もうちょっと、お手頃なギルドにした方が……」
「僕はやっぱり、他のギルドに入る気はないんです。……でも、ピケル君がどこかに入りたいって言うなら、考えるけど……」
「俺は別に、どこでもいいと思うし、ギルドなんて入る必要もないと考えている。だからカケル、お前の入りたいっていうギルドがあるなら、そこを目指すべきだと思っているぜ!」
ピケルとカケルの意思が固いことを察したエリーゼはため息をつく。
今まで何人もの採掘者を相手してきた協会職員の直感が、この二人には何を話しても考えを曲げないだろうことを察したようだ。
「わかりました、ピケル君とカケル君ががそう考えるなら、私は二人の考えに賛同します。でもカケル君、覚悟してね。トゥインクル・マイナーズに入ろうと思ったら、ここの坑道の最深層ぐらいは簡単にクリアできるぐらいになってないと駄目だから。それが難しそうってなったら、やっぱりまずは他のギルドに入って特訓してパワーアップしないと。その時は、またお手伝いをするから……ピケル君も、困ったらいつでも私に相談してよね?」
エリーゼは「じゃあね」と最後に言って、教会の外へと歩いていき、すぐに姿が見えなくなった。
残された二人はエリーゼを見送ると、いつの間にか目の前の行列がほとんどなくなっており、すぐに自分たちの順番が来たことに気がついた。
カウンターから「次の方」と呼び出された二人はエリーゼとは違い、無愛想な顔をした職員の元へと向かう。
「ご用件は」
「あの、土の買取をお願いします!」
カケルが土袋をそのままカウンターの上にのせると、職員はその袋を睨み付ける。
「こちらの土を、全て買取でよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「かしこまりました。確認するので少々お待ちください」
職員はそう言って土の詰まった袋を専用の機械にセットする。
スイッチが入れられると、みるみる土が吸い込まれていき、土の量が計測されていく。
ちなみにこの機械は、ただ土を吸い出しているだけでなく、そこに含まれる魔力量から質の計測も行っている。
なので、例えば坑道の外の土が混ざっていたりしても、その分だけが正確に取り除かれるようになっている。
その分だけ計測に時間がかかってしまうことになるのだが、今更その程度のことで文句を言う採掘者はいなかった。
「カケル、さっきの人と話していた、トゥイなんとかってギルドだが……もしかして、お前が追い出されたっていうギルドか?」
「うん……よくわかったね」
「なんとなくそう思ったんだ。カケルは、元のギルドに戻りたいと思っているのか?」
「どうだろう……でも僕にとっては、家族みたいな人達だったから」
「家族か……でも、エリーゼの話だとそのギルドに戻るには、この坑道の最深層をクリアしないといけないらしいぜ?」
「うん。だから……ピケル君。僕はここの最深層を目指したい! ピケル君も、着いてきてくれる?」
「当たり前だろ! だって俺達は……友達なんだから、さ!」
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