15:少年たちの探検

 日は沈み、街灯の照らす明かりが無いと一寸先も見えないほどの夜闇に包まれるような時間となったが、坑道探索をする採掘者に夜は来ない。探索を終えて休みを取ろうとするものがいる一方で、これから坑道の探索に向かう者たちもいる、いつもと変わらない光景が織りなされていた。

 そんな中、カケルとピケルはレベル1坑道の中でも初心者用と言わていれる、難易度の低い細道を選び、ゆっくりと一歩ずつ、確実に攻略を進めていた。

「カケル! そっちに三匹向かったぞ! 処理を頼む!」

「任せて! ……とりゃ! とうっ! それっ!」

「お見事! これで魔石が三つか……ぼろもうけだな!」

 ピケルが身体を張って小さなネズミの魔物を誘導し、その先で待ち構えるカケルのツルハシが的確に振るわれる。

 無慈悲な一撃を受けたネズミは跡形も残さずに消滅し、あとには小さな魔石だけが残された。

 カケルたちがいたのは初心者ルートの中腹で、少しずつ出現する魔物も少しずつ強く、やっかいになってきている。

 このネズミは小さい上に素早く動くので「脅威ではないが駆除が難しい面倒な存在」とされていた。

 ほとんどの採掘者にとっては、見かけても無視して進むのがセオリーとされているのだが、元気にあふれているカケルとピケルにとっては、ちょうどよい遊び相手、兼、小遣い稼ぎになっていた。

 カケルは地面に転がっている魔石を拾って魔石用のポケットに収納し、二人はそのままさらに先へと進んでいくことにした。

「それにしても、やっぱしカケルはすごいよな! あんなすばしっこい魔獣を、一匹も逃すことなく処理しちまうんだから……」

「えへへっ! でもピケル君もすごいよ! ……ねえ、どうやってネズミたちを操ったの?」

「操ったというか、誘導しただけだな。 あいつら知能は低いみたいだから、少し動きを読んで進行方向に先回りすると、奴らは絶対に方向転換して俺から逃げようとするんだ。あとは、観察してパターンを掴めば楽勝だったぜ!」

 そんなこんなを繰り返しながら、二人にとってはたいした障害もなく、細道の奥の行き止まりまでたどり着く。坑道探索2回目の初心者と、坑道探索が初めてのペアが達成するには速すぎるペースだが、それは単純に二人が優秀だったことに加え、何も知らないがゆえに恐れるものもなく、後先考えずに先へ先へと進んだというのも理由の一つだった。

 遠足のような気分で突き当たりまでたどり着いた二人は、多くの採掘者が少しずつ削った壁の前に立ち止まる。ピケルは少し離れた位置から見守ることにして、カケルは背中に掛けていたツルハシの留め金を外した。

「さあ、ピケル君! いよいよ僕の出番だね!」

「ああ。本で読んだ話だと、採掘ってのはこつこつと、地味な作業を繰り返すことだと……」

 ピケルが話しかけているのも気にせずに、カケルは勢いよくツルハシを振り下ろす。

 ツルハシに取り付けられていた宝石がキラリと光り、ツルハシの先端と硬い岩の壁がぶつかってガツンと音がした直後、壁はあっけなくガラガラと崩れていった。

「……書いてあった話とは、どうやら違うようだな。……あれは、ここみたいなレベル1坑道じゃなくて、上級者向けの坑道について書かれた本だったのか?」

「多分そうだと思うよ。それよりも見て! ほら、この道具すごい! 勝手に土が吸い込まれていく!」

「そうだな。さすがは銀貨で2枚もするだけのことはある。確か自動的に仕分けをする機能もあるって話だったが、どうだ? 何かレアな魔鉱石は混じっていたか?」

「う〜ん……駄目みたい。全部土の方の袋に吸い込まれていったよ。やっぱり、あのとき魔鉱石を見つけたのは運が良かっただけなのかな……」

「まあそうだろうな。そんなに魔鉱石がボロボロ出るようなら、ほとんどの採掘者は今頃、ほとんどが億万長者になっているはずだ。それよりも、土袋の方の容量はどんな感じだ? あと何回ぐらい掘れそうなんだ?」

 ピケルにいわれてメーターを確認すると、さっきの一掘りで容量の三分の一から半分程度が埋まっていた。

 カケルはそれを確認して、思ったよりも少ないなと感じながら、それでも目の前にあった土の山が消えたのに重さがほとんど変わっていないことには感心しているようだった。


「えっと、今のでだいたい半分ぐらい? ちょっと余裕はあるけど、あと一回が限界かも……」

「そんなもんなのか……まあでも、よく考えたら、それぐらいが普通か。だいたい、一度にそんなに大量に持ち運びできるなら、今頃この坑道はめちゃくちゃな長さになっているだろうし、掘るのは簡単でも運ぶのが大変ってことか……」

「なるほど、ピケル君はやっぱり頭が良いんだね。僕は説明されてもよく分かんないや……」

「まあ、これはあくまで推測なんだがな。とにかく、もう一掘りしてみようぜ!」

「うん、わかった」

 カケルがもう一度ツルハシを振り下ろし、崩れた壁の破片を袋に回収すると、袋の容量の8割から9割が埋まり、これ以上は回収できない程度にいっぱいになった。

「え〜っと……やっぱり今度も駄目みたい。土ばっかりで、魔鉱石は一つもないや」

「まあ、それは大体は想像通りだけどな。確か、レベル1坑道のこのあたりだと、毎日通っても魔鉱石が採れるのは一ヶ月で一つか二つらしいからな。だけど、土だけでも買い取ってもらえばある程度の金にはなるし、魔物を倒して魔石もいくつか拾ってるから、成果としては十分だ。今日はもう帰ろうぜ!」

「そうだね……少し物足りない気もするけど、確かにこれ以上残ってもやることないもんね」

 本来の目的である採掘が思ったよりも早く終わってしまったので、若干消化不良なカケルだったが、満杯になった土袋と満面の笑みを浮かべるピケルを見て、これで良いかと納得したようだ。

「そうだぜ! 帰ったら土と魔石を売り払って、その後その金でパーッと遊ぼうぜ!」

「その後……そうだね」

 カケルは、地上に戻った後のことを考えて一瞬表情を不安そうにゆがめたが、ピケルがそのことに気づくことはなく、カケル自信もピケルを心配させまいとして、すぐに元の笑顔で隠してしまう。

 二人は浮き足だった様子で来た道を引き返していったのだった。

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