2:四人の美女
酒場に残されたルピは、カケルが酒場の外に出て、扉が閉じたのを音で聞いて確認すると、頭を抱えて大きなため息をついた。
「はあ〜〜〜。やってしまいました。きっとこれで私は、カケルに嫌われてしまったのですわ」
そのまま体の力を抜いて、テーブルに頭をゴツンとぶつけると、テーブルの上に残された金貨の袋が揺れて「じゃりん」と音を立てて揺れた。
静かなお店でルピが一人、「う゛ぅ~」とか「あ゛ぁ~」とか、言葉にならないうめき声を上げていると、店員が立っていたカウンターのテーブルの下から、すっと一人の女性が立ち上がり、うつ伏せになって悲しんでいるルピの元へと近づいてきた。
その女性の髪の色は、ルピとは対照的なまでに真っ青で、長さもルピとは違って短いが、それでもルピと同じか、それ以上に美しく輝いていた。
彼女はルピのすぐ隣の席に座ると、ルピの肩をトントンとたたきながら、優しくルピに話しかけた。
「ルピ、苦しい仕事を引き受けてくれて、ありがとうございます……カケル君は、こうでもしてあげないと、すぐに私たちに甘えてしまいますからね……」
「サフィ、見ていたのですか……」
サフィと呼ばれたこの女性も、ルピと同じくトゥインクル・マイナーズに所属している一流の採掘者だ。
彼女は、ルピとカケルのやりとりを、バーカウンターの下の狭い隙間に体育座りをしながら、誰にも気づかれないように盗み聞きをしていたらしい。
もちろん、すぐ隣に立っていたこの店の店員には、その様子が丸見えになっていた。
だが彼は、真剣な顔をしている美女をみて、余計なことを口にすると面倒なことになると思って見なかったことにしていたようだ。
サフィがルピを優しく
黄金色の髪をふわりと広げながら音もなく着地した彼女は、サフィとは逆側の席に座り、ルピとサフィに向かってオロオロとしたように話し出した。
「カケちゃん……やっぱりカケちゃんがかわいそうだよ! 二人とも、今からでも連れ戻そうよ! 連れ戻すべき、だよ!」
彼女の名はトピー。当然彼女もトゥインクル・マイナーズの一員である。
しかも彼女は、この町の『彼女にしたい女性採掘者ランキング』で三年連続で第一位になるぐらい美少女だった。……これは関係ない話だが。
トピーの考えは、他の二人とは違ってカケルのことを心配する気持ちが強かったが、それを聞いたサフィは落ち着いた声で反論した。
「トピー……だめですわ、それにこれは、みんなで決めたことでしょう。私たちと一緒だと、カケルはいつまで経っても成長できませんから……」
トピーが天井から現れたということは、彼女はカケルたちが店に来るよりずっと前からそこに隠れていて、ルピとカケルの話もそこで聞いていたようだ。
ちなみに……トピーの隠れていた場所は、カケルたちのいた場所からはちょうど見えないようになっていたが、店員の立っているカウンターからは丸見えである。
店員はやはり、美女が梁の上で耳を澄ませている様子を、必死で見て見ぬ振りをして黙っていた。
三人の女性が一つのテーブルで話をしていると、突然、彼女たちの近くの床がズズズッと音を立てて動き始め、床の下からさらにもう一人の少女がゆっくりと姿を現した。
床から出てきて一息ついて、ずれた床を引っ張って元の場所に戻した彼女は、カケルがさっきまで座っていたルピの正面の席に座り、何事もなかったかのようにルピたち三人の会話に混ざっていった。
「カケルは強い子……だから、大丈夫。みんな、カケルのことを心配しすぎだよ!」
「エミ……あなたは気楽で良いですね。わたしにもそのポジティブを、少しでいいから分けてほしいぐらいですわ」
エミと呼ばれる彼女も、トゥインクル・マイナーズの一員だ。
緑色の髪は短くそろえられたショートヘアーで、他の三人と同じように、やはり綺麗な見た目をしている。
彼女が隠れていた場所は、カケルとルピの話し合いが行われる前の日に、突然店にやってきたエミが工事をして一日で作り上げた隠れ場所だった。
もちろん、お店には迷惑をかけるからということで大量の金貨を渡しているし、このことが終わったら元に戻すという約束もちゃんとしているのだが……そのときも働いていたこの店員は、「美人は何を考えてるのか理解できない……」とつぶやいていた。
今日になって、サフィとトピーが変なことをしているのを見てもあまり驚かずにすんだのは、エミが前の日から変なことを準備しているのを見ていたからなのかもしれないが……それはまた別の話である。
ルピたち四人は、
「「「「カケル……」」」」
店員の苦労など
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