ザ・マイナー・マイナーズ

みももも

マイナー・マイナーズ

1:少年の追放

「カケル、あなたを私たちのから追放ついほうしますわ!」


 ここは、採掘者が集まる町の小さな酒場。

 お店の真ん中にあるテーブルの席に座る大人の女性が、正面に座る10歳ぐらいの少年に向かって大きな声で話しかけていた。

 広い店内に、二人以外の客の姿は見当たらない。

 お店のカウンターで仕事をしていた店員は、突然大きな声を出した女性を見て驚いているが、関わりたくないと思ったのか、すぐに目をそらしてみて見ぬ振りをしていた。


 女性の髪は、燃える炎のように綺麗きれいな赤色で、カケルと呼ばれた少年の髪は、白く輝くかがやく銀色だった。

 この世界では、ほとんどの人は5歳になる頃に力が発現はつげんし、それと同時に髪の毛が染まり始める。

 例えば、炎の属性ぞくせいの強い人は赤色に。水の属性が強い人は青色に。

 はじめは薄い色から、年をとるごとに徐々に濃い色になっていく。

 だから、普通の人は10歳になる頃には髪が染まっていて、すでに何かの能力を使えるようになっていることが多いのだが……

 しかし、少年の色は何度見ても真っ白である。当然彼には、まだ何の能力も使うことができないのである。


「……え? ルピ姉さん、いま、なんて?」

 カケルは、困ったような、驚いたような、複雑な表情をしながら赤い髪の女性に聞き直した。

 何を言われたのか、言葉では理解できているのだが、感情では納得ができなかったようだ。

 カケルにとって、ギルドは自分の家のような場所で、そこを「出て行け」と言われるのは、家族に家を追い出されるようなものだ。

 家を追い出されるような悪いことをした記憶もないカケルは、聞き間違いではないかと思い、もう一度「ねえ、ルピ姉さん。どういうこと?」と、赤い髪の女性に向かって聞き直した。


 そんなカケルに対して、ルピと呼ばれる赤紙の女性は、目をカッと開いてゆっくりとした口調ではっきりと言葉を口に出した。

「聞こえなかったのかしら? カケル。あなたを私たちのギルド……『トゥインクル・マイナーズ』から、追放しますわ! 白髪のお子ちゃまが仲間にいると、私たちが困りますので! お金は用意しましたから、これからは一人で頑張ってくださいまし!」


 そう言って、ルピは金貨でパンパンに膨らんだ袋をテーブルの上に置いた。

 この世界の金貨は、一枚の価値が日本のお金の1万円ぐらいの価値である。

 その金貨が、30枚以上入っている袋は、まだ子供であるカケルにとっては見たこともないような大金だった。


 しかしカケルはお金の入った袋には見向きもせずに、今にも泣き出しそうなうるうるとしたひとみでルピの方を見つめている。

「そんな……それは、僕が姉さんたちの足を引っ張るから? そりゃ、確かに僕は、何もできない弱虫だけど……そうだ、ルピ姉さん以外の姉さん達は? サフィ姉さんも、トピ姉さんも、……エミ姉さんも、僕のことを追い出そうとしているの?」

「もちろん。これは、みんなで相談して決めたことですわ! 今はここにはいませんが、あなたを追い出すことに、みんな賛成しましたのよ。このギルドに戻りたいのなら、一人前にをクリアできるぐらいになりなさいな!」


 このあたりの山では、魔導鉱石まどうこうせきという特殊な金属が採掘さいくつできることで有名だった。

 魔力まりょくという不思議な力が宿っているこの鉱石は、お店に持って行くと高い値段で売れるので、多くの人々が山を掘っていく。そのときできた洞窟は、坑道こうどうと呼ばれるようになった。


 ルピは、他にサフィ、トピ、エミの三人の女性とチームを組んで坑道で採掘をすることが多く、そんな彼女たちは周りから「煌めく採掘者」という意味である「トゥインクル・マイナーズ」と呼ばれていた。

 魔力が濃い坑道では、危険なモンスターが現れるので、弱い採掘者は立ち入り禁止になることが多いのだが、そんな中でもルピたち四人は「レベル7」と呼ばれる、最も危険な坑道に入ることも許可された、この世界でも数少ない最強ギルドのメンバーだったのだ。


 カケルは幼い頃からずっと、そんなギルドで育てられてきたのだが、能力も使えない白髪のカケルは、この日ついにここを追い出されることになってしまった。

「姉さん……やっぱり、無理だよ。僕はまだ、姉さんたちと一緒に……」

 一人暮らしなどしたこともないカケルは、ルピの目を見つめてお願いするのだが、ルピはカケルが最後まで言い切るよりも前に、震えるような声で厳しい言葉を口にした。

「だめですわ! これはもう、みんなで決めたことなのです! カケル、強くなるまで、あなたはここに帰ってきては、いけません!」

「……わかった、もういいもん! ルピ姉さんの分からず屋! 知らない!」

 カケルは、どうやらルピが本気で自分を追い出そうとしているのだと気づいたようだ。

 今まで信じていたルピに裏切られたような気分になったカケルは、テーブルに置かれた金貨の袋には手もつけず、とぼとぼと背中を丸めてその場を後にした。

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