第38話

 俺はカーソンの町に商売の話に来ただけであったが、町は大変なことになっていた。

 しかし俺が特に手を下さなくても、すでに撒いておいたミニダイコンの種のおかげで、なにもせずに決着する。


 町にはちょうど領内の人間が勢揃いしていたので、俺はこのチャンスを活かすことにした。


 いま俺は広場の噴水の上に立っている。

 眼下には、北側と南側の町人たち、そして3つの村の村人たちがひしめきあっていた。


「よし、みんな揃ったようだな。

 突然だが、俺はここの領主になることに決めた。

 今からこの町は、『びんぼう村』だ」


 すると、すでにびんぼう村に在籍している者たちからは歓声があがる。

 新しく組み込まれた町の者たちからは、どよめきがあがった。


 横っちょのスペースで縛られて転がされているバオヤが叫んだ。


「バカめ! 領主というのは国王から任命されるものであって、宣言してなれるものではないわ!

 国王から認められた正式な領主は、このワシだけなのだ!」


「お前、さっきまで覇王になるとか言ってなかったか?」


 すると死にかけのイモムシのようだったバオヤは、「うぐっ!」と黙り込んでしまう。

 うるさいのがいなくなったので、俺は宣言を続けた。


「この『びんぼう村』の領主になるのは国王の許可なんていらない。

 だって『びんぼう村』は帝国の統治外の領地になるだからな」


 町民たちのざわめきが止まらなくなる。

 無理もない。こんな16のガキが領主になると言い出したうえに、独立宣言までしたんだからな。


 俺はまず、村民たちに信を問う。


「おい、すでにびんぼう村に住んでいる者たちはどうだ? 賛成か? 反対か?」


 すると、ほぼ全ての村人たちが諸手を挙げて叫び返してくれた。


「賛成じゃ! 賛成じゃ!」


「だってグリード様は、いままでの村長とは大違いじゃ! きっと、最高の領主様になれるだ!」


「そうじゃそうじゃ! グリード様、ばんざーいっ!」


 支持率が100%であることに、町民たちは驚いているようだった。

 俺は、彼らにも問う。


「さて、次はこの町の者たちだ。

 この町はもう『びんぼう村』にすると決めたから、お前たちが選べるのは『残る』か『出て行くか』だ。

 残って俺のものになるか、それとも俺のものにならずにここから出て行くか、好きにしてくれ」


 ここで俺は朗らかな表情で、町民を見渡す。


「このびんぼう村には、これからお前たちのような、人を導く才能や商才のある人間が必要なんだ。

 だから、できることなら残って、この俺に力を貸してほしい。

 帝国に背くことになるが、もちろん悪いようにはしない。

 俺についてくれば国王、いや帝王に仕えるより大事してやる」


 すると、今まで俺についてきた村人たちが、わっと歓声をあげた。


「そうじゃそうじゃ! お前さんたちも、グリード様のものになるといい!」


「そうすると、今よりずっと幸せになれるぞ!」


「ワシらはもう、グリード様なしでは生きていけん!」


 いいアシストに、町人たちの心も動き始めたようだ。

 俺はつぎに、多少の凄みを持って話す。


「もちろん、無理にとはいわない。

 帝国に忠義を尽したい者は、どうぞ出て行ってくれ。

 ただし……俺はお前たちのなかに、『爆弾』を埋め込ませてもらった。

 それは『びんぼう村』を出ても爆発することはないが、俺に刃向かうような行動を取れば、即座に爆発するか覚悟するんだな」


 『爆弾』という物騒な言葉に、眉をひそめる町人たち。

 彼らの肩にはすでに、チビダイコンがずらり。


 ちょっと独裁者チックではあるが、びんぼう村を守るためならしょうがない。


 俺は最後に、町人のなかでいちばん先頭にいた、ある男を見やった。


「そしてガルバ、ここにいる全員がいなくなったとしても、お前だけは残ってほしいと思っている」


 するとガルバは、年輪の刻まれた顔に、さらに深いしわを浮かべる。


「この、ワシに……?」


「そうだ。帝国から独立するにあたって、時には武力が必要になってくることもある。

 そんなときに、闘将と呼ばれるお前がいてくれたら百人力だ」


 黙り込むガルバに、隣にいた娘がギョッととなった。


「ち、父上!? まさか、あんな子供の言うことに悩んでおられるのですか!?

 闘将と呼ばれた父上が仕えるにふさわしいのは、帝王様だけです!」


「果たしてそうかな。ガルバはかつては『闘神』その座を引いても『闘将』と呼ばれたほどの男だ。

 それほどの男が、なぜこんな辺境の領地にいる」


「き……貴様、父上を愚弄する気か!?」


「愚弄なんてしてないさ。むしろ尊敬してるんだよ。

 あの帝王の正体に気付いて、ちゃんと愛想を尽かしたことがな」


「な、なんだと……!?」


「俺もかつてはそうだったが、ほとんどのヤツらは盲目的に帝王を信奉している。

 帝王自身がどんなに小物であろうとも、帝国のブランドに跪くんだ。

 でも、そこにいるガルバは違う。

 帝王の無能っぷりを見抜き、自ら野に下ったんだ」


 ガルバは厳しい表情で俺を見据えている。

 さすが闘将と呼ばれる男だけあって、威圧感がハンパない。


 俺はいま試されているのだと思い、臆せず続けた。


「ガルバよ、俺のものになれ!

 そうすれば、お前を再び闘将として輝かせてやろう!

 真に優秀な者が認められ、生まれ持った守護神ギフト技能スキルで一生が決まることのない世界を創るために……!

 俺とともに、戦ってくれ!」


 これは嘘偽りない、俺の心の底からの願いだった。


 すべての人間と、すべての守護神ギフトが、ともに手を取り合って生きていける世界……!

 俺はそれを、望んでいる……!


 もし断られたら、俺はもうひとつの『隠し球』を投げかけるつもりでいた。

 それほどまでに、このガルバは必要な男なんだ。


 俺は瞬きもせず、呼吸すらも止めて、ガルバを見据えた。

 ヤツも当然、目をそらしはしない。


 やがて……。


「ワシはあなたの剣となりましょうぞ、グリード様」


 なんと遥かに歳下の俺に向かって、膝を折った……!


「ち、父上っ!? 気はたしかですか!? こんなよくわからない相手に、忠義を誓うなど……!」


「グリード様のまわりを見てみろ」


「えっ?」


「村人たちはグリード様を心の底から慕っている。

 あの表情は、恐怖や欲に懐柔された者では決してできぬものだ」


「い……言われてみれば、みんな本当にグリードを尊敬しているように見えます……!」


「それに、グリード様のそばにいる、あの娘……。あれは、『貧乏神』だ」


「え!? あんなかわいい子が、貧乏神なんですか!?」


「そうだ。貧乏神といえば、誰からも嫌われている守護神ギフトとして有名だ。

 それが、あのように幸せに満ちた表情をしている。

 グリード様の人となりが、じゅうぶんに伝わってくるほどに」


 すると、ダイコンが耳ざとく反応。

 はちきれんばかりの笑顔で「はいっ!」と頷いた。


「わたし、グリード様のものになれて……本当に幸せですっ!」


 ……この貧乏神の、女神スマイルが効いたのか、町の者たちの大半が『びんぼう村』に残ってくれた。

 俺は晴れて、カーソン領あらため、びんぼう領の領主になったんだ。

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外れギフト「貧乏神」のせいで追放された少年 最果ての地で美少女貧乏神といちゃらぶスローライフ! 佐藤謙羊 @Humble_Sheep

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