第34話

 シキリの村長は村の外でジャコの一撃を受けたあと逃げだし、領主に助けを求めてカーソンの町へと落ち延びていた。

 シキリからカーソンまでは特に険しい道などないはずなのだが、シキリの村長は千里の道を歩いてきたかのようにボロボロ。


 ふたりのゾンビに囲まれたバオヤは困惑しきりであったが、シキリの村長からの追加報告には見えない角を生やしていた。


「なっ……なんだとぉ!? ネッキの村はグリードに支配されておるじゃと!?

 ネッキは瘴気で壊滅したのではなかったのか!?」


「それが、壊滅寸前でグリードのヤツが助けたようで……!

 どうやって瘴気を止めたのかはわかりませんが、とにかく、そこにいるネッキの村長の時よりも、豊かになっているんです!」


 シキリの村長は、ネッキの村長を貶めるような報告をしていた。

 もちろん、黙って聞いているネッキの村長ではない。


「しょ……瘴気を止めたうえに、ワシが面倒を見ていたときより村は豊かになっているじゃと!? ウソをつくなっ!」


「ほ、本当だ! 村人は笑顔にあふれ、エゴマの産出量も数倍になって……!」


「ええい、でたらめ言うな! そんなことよりも、お前さんが面倒を見ていたシキリはどうしたんじゃ!?」


「俺は、ヤツの卑怯な目に遭って追い出されてしまったんだ!

 シキリの村人たちは今ごろ、グリードに酷い目に遭わされているに違いない!」


「それもウソじゃろう! どうせお前さんも、グリードを罠に嵌めようとして返り討ちにあったクチじゃろう!?

 その顔の引っ掻き傷はなんじゃ!?」


「ふたりともやめんか!」


 この期に及んでなお自分の保身しか考えない村長たちを、領主は怒鳴りつけた。


「今は負け犬どうしでケンカしている場合ではないだろう!

 それよりも、この領地は財源である村をすべて失ったんだぞ!?

 残るはこの町だけになってしまった!」


「あの、バオヤ様、この町の権利書もグリードの手にあるんでしょう?

 ということは、このカーソン領はもう……」


「え……ええい、黙れっ! 権利書は盗まれたものだと言っておるだろう!

 だいいち、お前たちが不甲斐ないからこんなことになってしまったのだ!」


「そ、そんな……!

 バオヤ様が権利書さえ奪われなければ、我々もグリードに手を出すことはなかったのに……!」


「そうですじゃ! 元はといえば、バオヤ様が……!」


「黙れと言っとるだろう! ワシはこれから最後の手段に出るぞ!」


「さ、最後の手段とは……!?」


「グリードとの、全面戦争だ! こんな事もあろうかと、ワシは戦争もできるほどの武器を備蓄しているのだ!」


「せ……戦争っ!?」


「そういえば、一度見せていただいたことがあります!

 この屋敷の地下には大量の剣や斧、弓やクロスボウ、さらには爆弾や投石器があるのを!」


「なんと、爆弾や投石器まで!? でも……それらを使う兵士はどうするのですか!?」


「だから、最後の手段と言っておるだろう! アイツらを使うのだ……!」


 バオヤの言う『アイツ』とは……。

 なんと、盗賊団である『ウバイーヌ』たちであった……!


 もちろん、村長コンビは猛反対。


「ええっ、ウバイーヌたちを、金を払って牢獄から保釈するんですか!?」


「そんな!? ヤツらはこの領地を長きに渡って苦しめてきたヤツらですよ!?」


「せっかく捕まって喜んでいたのに……! 檻の中の人喰い虎を解き放つようなものです!」


 しかしバオヤは村長コンビの反対を押し切り、貯金をはたいて『ウバイーヌ』たちの保釈金を払う。

 牢獄にいたゴロツキどもは自由となり、ふたたびカーソン領へと舞い戻った。


 バオヤは『ウバイーヌ』のボスであるガッツリとゴッソリを呼び寄せ、秘密裡の会合を行なった。

 そこには、いっしょに釈放されたハテサイの村長もいたのだが……。


 そこで、意外な事実が明らかになる。


「助かったぜ、バオヤ! まさか保釈金を払ってまで、俺たちを助けてくれるとはなぁ!」


「ふん、お前たちがヘマをした時は見捨てるつもりだったのだが、事情が変わった。

 お前たちの力が必要になったのだ」


「なんだぁ、また村を襲えばいいのか!?」


 そう。カーソン領の村々を襲っていた『ウバイーヌ』は、実は領主であるバオヤが雇った集団であった。


 この領地は二毛作で、1期目は収穫はすべて納税され、2期目の収穫はすべて村の収益となるのは前述のとおりである。

 2期目の収穫は領主と各村で分配されるのだが、バオヤは自分の取り分を少しでも増やそうと、盗賊団を雇って村を襲わせていたのだ。


 村から奪ったものは、バオヤと領主で分け合っていた。

 この事実を知った村長トリオは、かつてないほどのショックを受ける。


「ま、まさか……! バオヤ様と『ウバイーヌ』が裏で繋がっていただなんて……!」


「どうりでワシらがいくら『ウバイーヌ』の被害を訴えても、バオヤ様が取り合ってくれなかったわけじゃ!」


「ひ、ひどい! ワシらはずっと『ウバイーヌ』に作物を奪われて、苦労していたんですぞ!?」


 村長たちは批難ごうごうであったが、バオヤは鼻で笑って一蹴する。


「フン! どうせお前たちも、ワシが分配した作物を独り占めして、村人たちにはスズメの涙ほどしか渡しておらんかったんだろう!?

 村人がどんなに苦しんでも、お前たちは腹いっぱいに食べていたであろう!?

 村人たちが正月にひとかけらだけ食べられる餅も、お前たちはこっそり食べていたのであろう!?」


 同じ穴のムジナ、しかも自分たちよりも大きなムジナに開き直られてしまっては、村長トリオも引っ込むしかなかった。

 ボスの大ムジナは、3匹の小ムジナに向かってこう告げる。


「いいか! グリードを抹殺することができたら、お前たちをまた村長に据えてやるから協力するのだ!

 村を一斉攻撃するにあたって、それぞれの村に詳しいお前たちがいてくれたほうがいいからな!」


「む……村を一斉攻撃!?」


「そうだ。あのずる賢いグリードのことだから、きっとなにか防衛策を考えているに違いない!

 だがヤツはひとりだから、みっつの村を一斉攻撃すればひとたまりもないだろう!」


「で、でも……村人たちが抵抗してきたら、どうするんですか!?」


「その時は皆殺しにしてかまわん! 村人のかわりなど、いくらでもいるのだからな!

 やり方は、お前たち村長がウバイーヌと話し合って決めるんだ!

 少しでも役に立つところを、このワシに見せてみろっ!」


 そしてついに、討伐隊が結成される。

 村長トリオとウバイーヌのボスを筆頭とし、100名以上の荒くれ者たちで構成された……。


 その名も、『貧乏神殺しゴッド・スレイヤーズ』が……!

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