第24話
『キツネの嫁入り』を終えた俺たちは、そろって丘を降りる。
ジャコは俺とダイコンと手を繋ぎ、ぶらぶらと大はしゃぎ。
「そうしてると、まるで親子みたいですだ」と村人から言われ、ダイコンはポッと赤くなっていた。
ジャコ派の村人たちと、和気あいあいと村にもどると……。
村長派の村人たちが、武装して待ち構えていた。
武装といっても即席で作ったような竹槍と木の盾だったが、みな殺気だっている。
懲りもせず、村長が俺に向かって言った。
「来るでねぇ! それ以上近づいたら、タダではおかんぞ!」
「ついさっきまであんなにペコペコしてたのに、えらい変わりようだな」
「もうお前さんは恩人でもなんでもねぇ!
妖狐をかばいだてするだけでなく、契りまで交わすだなんて、正気かっ!?」
「ああ、もうジャコは俺のもんだ」
「隠しもせずに認めるとは、もはや心まで妖狐となったか!
もはやお前さんは妖狐と同じじゃ!
夫婦ともども、この村から出ていけっ!」
俺はもちろんそのつもりだったが、いちおう念押ししてやる。
「いいのか? 後から返してくれって言っても、もう返さねぇぞ?」
すると、村長派の村人たちは一斉に囃し立てる。
「かーっ! だれがそんな邪神を欲しがるものか!」
「妖狐なんぞおったら、村が瘴気にやられてしまうのがわからんのか!」
「この調子じゃ、びんぼう村とやらもオシマイじゃのう!」
「村が全滅したら、ワシらがかわりに住んでやるわい!」
ぎゃっはっはっはっ! と嘲笑する村長派の村人たち。
しかし、ジャコ派の村人たちは違った。
「グリード様、おらたちもいっしょに、びんぼう村に行きてぇだ!」
「ワシらはジャコ様に守られていきてきたんじゃ! ジャコ様と離れたくねぇ!」
「お願いだ、グリード様! ワシらをびんぼう村に置いてくだせぇ!」
俺は即答する。
「もちろんだ。ジャコだけでなく、お前たちはもう俺のものなんだからな」
するとジャコ派の村人たちは、「わあっ!」と歓声をあげた。
「おい、あのバカども、グリードについていくようじゃぞ!」
「普段から妖狐をかばうバカだと思っとったが、まさかここまでバカじゃったとはのう!」
「バカがいなくなって、せいせいしたわ! もう二度と戻ってくるんじゃないぞ!」
「戻ってこれるわけがなかろう! 瘴気でみいんなおっ死んじまうだ!」
ぎゃっはっはっはっ! と下卑た笑い声に送られ、俺たちはネッキの村をあとにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
びんぼう村は新たな労働力を得て、さらなる発展を遂げる。
村を開拓するためにかなりの大掛かりな作業もできるようになった。
そうなるとケガ人が出るのが常だが、トゲが指にささるほどのケガも起こらない。
しかも寒さは相変わらずだというのに、カゼひとつひかなくなった。
これも、すべてジャコが村に来てくれたおかげ。
キツネの神様であるジャコは、無病息災の神様でもあるんだ。
村人はますます元気に働けるようになる。
しかも税金を納める必要がなくなり、作物はすべて村のも収入となったのが、村人たちのやる気に火を付けた。
「やればやるほど、がんばればがんばるほど、豊かになっていくのがわかるだ!」
「そうそう! 今までは何かと理由を付けられて、領主様に持っていかれてたのに……!」
「今じゃ、働いたら働いたぶんだけ、ワシらのものになるんじゃからのう!」
「何十年も生きてきて、こんなに仕事にやり甲斐を感じたのは初めてじゃ!」
「これもなにもかも、グリード様、ダイコン様、ジャコ様のおかげじゃあ!」
「さぁ、今日も神様たちのため、ワシらのため、めいっぱい働くぞぉ!」
「おおーっ!」
その頃、『ネッキの村』はというと……。
丘から吹き下ろす熱気に、村じゅうが喘いでいた。
「う、うう……。気持ち悪い……へんな風が身体にまとわりついてくる……」
「これは、瘴気じゃ……。瘴気が、丘の上から降りてくるようになったんじゃ……」
「お……おかしいでねぇか!? 瘴気は丘の上にいる妖狐が降らせておったんじゃろう!?」
「そうじゃ! 丘の洞窟には妖狐はもういねぇ! この村は瘴気に悩まされることはなくなったはずじゃ!」
「なにかがおかしい、なにかがおかしいぞっ!」
そして村人たちは、丘の上に調査隊をやって、ようやく気付く。
瘴気は丘の上の洞窟からではなく、反対側の麓から吹き上がってきていることに。
そう、今までは村に向かっていた瘴気は、丘の頂上の洞窟のところでせき止められていたのだ。
彼らがさんざん瘴気の正体だと嫌っていた、妖狐の力よって……!
しかし気付いたときにはもう後の祭。
村は冷害と瘴気のダブルパンチで枯れるどころか一切育たなくなり、村人たちは次々と病に倒れていった。
彼らは病床で、うわごとのように叫ぶ。
「う……ううっ、まさか、妖狐が……ジャコ様がいてくれたから、ワシらが平穏に暮らせていただなんて……」
「知らなかった……知らなかっただ……」
「あの時、グリード様の言うとおりにしておけば、こんなことにはならなかっただ!」
「もう手遅れじゃ……手遅れなんじゃ……」
「う……うおおおんっ! ジャコ様ぁ! おらたちが悪かっただ! 帰ってきて、帰ってきてくだせぇ!」
「ジャコ様! グリード様ぁ! どうかおらたちを、許してくだせぇぇぇぇぇぇぇ……!」
「でも……おらたちがこんなに苦しんでいるのに、なぜ村長だけは、あんなに元気なんじゃ……!?」
「知っておるぞ! 村長はひとりだけ、高価な薬を飲んでおるんじゃ!」
「なんじゃと!? ワシらは薬を買う金もないというのに!?」
「その金も、もともとはワシらから奪ったものでねぇか!」
病に苦しむ村人たちは、村長に薬を分けてもらえるように懇願した。
しかし村長は自分ひとりが助かりたいがために、薬などないとごまかす。
そしてとうとう、村人たちと争いになってしまった。
村長はゾンビのようになって襲いくる村人たちを、竹槍で追い払いながら、
「くそぉっ! もうこの村には住めん!
ワシひとりだけでも、領主様に保護してもらうしかないっ!」
「そ、そんな!? ワシらを捨てて、ひとりで逃げるつもりだか!?」
「お、おらたちも、おらたちも領主様のところに連れてってくだせぇ!」
「病気のヤツらを連れて、領主様のところになど行けるか!
お前たちなど、ここでくたばってしまえ!」
村長はとうとう火を放ち、自宅を飛び出す。
多くの悲鳴と憎悪、そして瘴気のようにまとわりつく村人たちを振り払いながら、新天地を求めて走り去っていった。
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