第18話
俺とダイコンは領主の屋敷の門戸を叩く。
しかし応対してくれた門番は、にべもなかった。
「領主のバオヤ様にお会いしたいだと? お前は何者だ?
『びんぼう村』の村長? なんだその税収の無さそうな村は!? 帰れ帰れ!」
俺と門番が押し問答していると、ふと、身なりのいい若者が通りかかる。
その青年は20歳前後で、ダイコンを見るやいなや、馴れ馴れしく話しかけてきた。
「キミ、すっごく可愛いね。どこから来たの?
ボク、この屋敷に住んでるんだ。これからお茶でもどう?」
「あ、あの、旦那様……」と俺に助けを求めるダイコン。
俺は渡りに船とばかりに、その青年に話を振った。
「ちょうどよかった。お前はこの家の人間か?」
「キミ、すごい口の利き方するねぇ。
ボクは歳上で、しかも領主の息子だよ?」
「そんなことより、村のことでちょっと話があるんだが」
「このボクに? なんで?」
「本当は領主に話をしたかったんだが、領主の息子でその歳なら領内の仕事は多少こなしてるだろう?
なら、話も通じるかと思って」
「なるほど、そういうことか。
その子もいっしょなら、話を聞いてあげてもいいよ」
すると、門番がギョッとなった。
「バムス坊ちゃん、よろしいのですか?
この者たちはびんぼう村とかいう、怪しげな村から来た者たちですよ?
きっと、何か悪さを企んでいるに違いありません!」
「こんな可愛い子が悪いことなんてするわけないよ、ねーっ。
ささ、入って入って」
俺は心の中でほくそ笑む。
コイツは絵に描いたようなバカ息子だ、と……!
コイツをうまく利用すれば、事は簡単に片付くかもしれないな。
俺とダイコンは応接間に通され、紅茶を振る舞われた。
バムスはさっそく俺をそっちのけで、ダイコンを口説きにかかる。
俺もさっそく、その期待に応えてやることにした。
「まあまあ、そんなに慌てるんじゃない。
交渉ごとは、商売でも恋愛でもスキンシップから始めるものだろう。
だから、最初に握手を交わすなんてどうだ?
おいダイコン、握手をしてやれ」
するとダイコンは、ちょっと嫌そうに戸惑う。
「……えっ? は、はい……かしこまりました。旦那様がそうおっしゃるなら……」
「うはっ! キミ、生意気なクセして話がわかるじゃない!
そうそう! 何事もスキンシップが大事だよな、スキンシップが!」
バムスは大喜びでダイコンの手を取り、エロ親父みたいに撫でさすっていた。
心なしか、ダイコンの顔が青白くなっているような気がする。
ダシに使ってすまん、と俺は心の中で謝った。
ダイコンの身体からミニダイコンが出てきて、とてとてと走る。
握手している手を伝って、バムスの肩にぴょんと飛び乗った。
よし、これで準備完了だ。
俺は強引にダイコンの手をバムスから引き剥がす。
「じゃ、握手はこのへんで!
さっそく商売の話をしようじゃないか!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから俺はバカ息子との『商談』をまとめ、ついでに領主であるバオヤに取り次いでもらった。
血は争えないのか、バオヤもダイコンを嫌らしい目つきでジロジロ見ていた。
「お嬢ちゃん、かわいいねぇ。どうだい、ワシの秘書にならんかね? 給料はたっぷり出してやるぞ」
ダイコンは今まで前髪を下ろしていたせいで、誰からも怖い、醜いと罵られてきた。
こんなに男に言い寄られるのは慣れていないのか、怯えて俺の背中に隠れてしまっている。
もうこんな所にいるのは俺もたくさんだったので、バオヤに端的に要件を伝えた。
「ハテサイの村長が盗賊団といっしょに捕まったのは知ってるだろう?
だから俺が村長になった。名前もびんぼう村に変えた」
「びんぼう村だとぉ? わっはっはっはっ! 税収のなさそうな村だな!
子供の遊びには付き合っておれんから、その子を置いてとっとと帰るがいい!」
「言われなくてももう帰るよ。あと、びんぼう村は帝国に税金を納める気はない。
だから、検地の役人をよこすんじゃないぞ」
「はぁ? お前はさっきから何を言っておるんだ? 頭がおかしいのか?」
バオヤはこめかみに押し当てた指先で、クルクルパーの仕草をする。
「いいから言うとおりにしろ。でないと大変なことになるぞ」
「ほほう、大変なことってどんなことなんだ? その子が裸踊りでもしてくれるのかね?」
すると俺が答えるより早く、バオヤの書斎の扉がバーンと開く。
そこには、興奮気味のバムスが立っていた。
「なんだバムス、ノックもしないで。
それにお前の紹介だからと言って会ってやったのに、なんだこの頭のおかしい小僧は。
これほどまでに美しい秘書をワシの所によこしたのは、大手柄だったが……」
「そんなことよりパパ! ボク、やったよ!
この町の土地をぜんぶ、高値で売りさばいてやったんだ!」
「なに?」と眉をひそめるバオヤ。
「それは、どういうことだ!?
お前にはたしかに土地の管理を任せていたが、ワシに断りもなく勝手に売っただと!?」
「だって、パパをビックリさせたかったんだよ!
それに、すっごく高く売れたんだよ!」
「いくらで売ったんだ!?」
すると、バムスは嬉々としてポケットから1枚の硬貨を取り出す。
それは……。
「なんだそれは、50
「うん! これさえあれば、チョコが5粒も買えるんだよ!
それに見て、ピカピカしてて、すごく綺麗でしょ!?」
「ま……まさか、お前っ……!?」
瞬間、血が凍りついたような表情になるバオヤ。
それとは真逆に、紅潮した表情で頷くバムス。
「うん! 50
ここにいるグリードが買ってくれたんだ!
グリードって最初は生意気なヤツだと思ってたけど、いいヤツなんだよ!
だってこんなに綺麗な50
酸素が足りない鯉のように、口をパクパクさせながら俺のほうを見るバオヤ。
俺は束になった土地の権利書を、ヤツに向かってチラつかせてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます