第11話
『びんぼう村』の村人たちは、羊毛で作った衣服に身を包み、あたたかな鍋を囲んでいた。
外は冷たい風が吹いていたが、家の中はぽっかぽか。
まるで本当の家族になったかのように笑いあっていた。
その頃、山の麓にある『ハテサイ村』の村人たちは、村長の家に集まり、震えていた。
「ううっ……! 寒い……! こんなに寒くなるだなんて……!」
「そろそろ、盗賊のためにとっておいた作物も、底を尽きるだ……!」
「村長! こうなったら村長が備蓄している作物を、みんなに分けるだ!」
「なにを言うか! 納税目的以外で食料の備蓄は禁じられておるのを知っとるじゃろう!?」
「そんなこと言って、こっそり貯め込んでおるんじゃろう?」
「ワシは見ただ! 村長たちがこっそりなにか食べていたのを!」
「う、ウソを言うでない! 食料などこの村にはもう、一粒も残っとらんわ!」
「村のヤツらも寒くてひもじくて、家から出てこなくなってしもうた……」
「そういえば知っとるか? アミとアムが、『穢れ山』に入っていったそうじゃぞ!」
「そりゃ、本当か!? あそこには言い伝えだけでなく、貧乏神という本物の邪神がおるというのに!?」
「きっと、もう取り殺されているに違いねぇだ!」
「いや、それが、山の上から笑い声がするのを聞いたものがおるそうなんじゃ! アミとアムが楽しそうに笑う声を!」
「それはきっと、貧乏神の罠じゃ! 楽しそうに見せかけて、ワシらをおびきよせるつもりなんじゃろう!」
「でも、よく考えたら、貧乏神とはいえ、神様なんじゃろ?」
「もう、これ以上貧乏になりようがねぇ俺たちだったら、逆に助けてくださるんじゃ……?」
「バカ言うでねぇ! そんなことがあってたまるか!」
「い、いや! ワシは『穢れ山』に行くぞ!
ここにいても、どうせ飢え死にするだけじゃ!」
「しょ……正気か、お前っ!?」
ハテサイの村人たちは、村に残る『村長派』と、山に入る『その他派』でふたつに別れた。
その他派の者たちは村長派が止めるのも聞かず、『穢れ山』に入っていく。
そして、彼らは見た。
『びんぼう村』を……!
びんぼう村はその名とは真逆の地であった。
畑には多くの作物があり、羊たちが楽しそうに唄う。
村人はたったの4人だったが、この寒空のなかでもはち切れんばかりの笑顔。
そして出迎えてくれたのは、とんでもない美少女であった。
「お待ちしておりました、ハテサイ村の方々ですね!」
羊のようなモコモコの服に身を包んだ少女は、まるで雪の妖精のように可憐で愛らしい。
それがあまりにも浮世離れした美しさだったので、村人たちは誰もが、餓死して天国にいるんだと思い込んでしまっていた。
「旦那様が、ちかぢか村の方々が来るかもしれないとおっしゃっていたので、ずっと気にしていたんです!
そしたら山のふもとからみなさんが登ってくるのが見えましたので、食べ物の用意をさせていただきました!
どうぞ、こちらへおあがりください!」
招かれた先は、村長宅ばりに広々とした家だった。
そこには、ハテサイ村にいた時よりもずっと健康的になったアミとアムが。
「ああ、みんな来ただか! このびんぼう村は、素晴らしい所だ!」
「村長であるグリード様に、ご挨拶するだ!」
びんぼう村の村長は、かつて村人たちが蛇蝎のごとく追い払った少年であった。
「堅苦しい話は後でいい。とりあえず、メシを食わせてやれ」
「かしこまりましただ、グリード様!」
アミとアムはすっかりグリードに服従していて、手足のように働く。
村人たちに振る舞われた鍋は、この世のものとは思えないうまさであった。
空腹も手伝ってか、ひと口すすった途端、
「うっ……うめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
と合唱してしまうほどに。
村人たちは、泣きながら鍋をかっこんだ。
「うっ、うめえうめえ! こんなうめぇもの食べたの初めてだ!」
「大根もニンジンもタマネギもゴボウも、今まで食べたものより、ずっとうめえ!」
「ああっ、こんなうまいものが食べられるなんて、おらぁ幸せだ!」
「ありがとうございます、グリード様! そして、すまなかっただ!」
「あなた様はあんな酷いことをしたワシらを、こうやって助けてくださるだなんて……!」
「神様じゃ! 仏様じゃあ!」
グリードは村人たちの誰よりも歳下であったが、もはや村長の風格であった。
「気にするな。ここには備蓄の食料がたくさんあるからな」
「えっ!? 食べ物を備蓄なさっておられるんですか!?」
「それは、禁じられていることなのでは……!?」
「たしかに、帝国法では許可を受けた者以外は、納税以外の目的で食料を備蓄されるのは禁止されているな。
それは反乱を防ぐためのものなんだが、この村は『ミリオンゴッド帝国』じゃない。
この『びんぼう村』は、すでに帝国に反旗を翻しているんだ。
だから帝国法は適用されない。俺こそが法律なんだ」
彼は、16歳とは思えないほどの威厳のある声で告げる。
「さぁ、選ぶがいい。
腹いっぱいになったあと、この村を出て、ひもじい生活に戻るか……。
それともこの村に残り、反逆の道を歩むか……。
だが、ひとつだけ約束してやろう。
この村に残り、俺のものとなった者は、一生この俺が大切にしてやる。
コイツらのようにな」
彼は言いながら視線を移す。
その先には、王に控えるように座る、ダイコンとアミとアム。
3人とも、一生を捧げる忠臣のような瞳で、少年を見ていた。
その、心の底から繋がったような関係に、村人たちは口々に叫ぶ。
「こ……この村に、おいてくだせぇ!」
「どうか、どうかお願いしますっ!」
「ハテサイの村長は、食料を備蓄しておきながら、おらたちにはちっとも分けてくれねぇんだ!」
「それなのにグリード様は、こんなワシらにも、気前よく……!」
「ワシらが飢えたところで、帝国はなにもしてくれねぇ! だったらワシらは、助けてくださったグリード様についていくだ!」
「ワシらをグリード様のものにしてくだせぇ!」
村人たちは姿勢を正し、服従を誓うように頭を下げる。
グリードはウムと頷いた。
「よし、それではこの村にいることを許可してやろう
ただしお前たちはまだ、俺のものではない」
「えっ?」
「お前たちは、俺の大切なダイコンに石を投げつけた。
その罪は到底許されるものではないからな」
「あ、あの……グリード様、わたしは別に気にしておりませんので……」
「えっ……えええっ!? この美しいお方が、あの不気味な貧乏神……様なんですか!?」
「そうだ。
お前たちのその、地位や見た目で他者を判断する賤しき心を正すまでは、ここの村人とは認めない。
よって、この俺が認めるまでは、下働きとする。
この村を豊かにするために使い倒してやるから、覚悟しておけ」
「そっ……そんなぁ~~~~~~っ!?!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます