第39話 咲夜お嬢様らしい
「そんな訳でお願いします。川端さん」
「了解しました。うふふ…楽しくなってきました。では失礼します」
「ほどほどでお願いします…」
照れた顔で、戸惑いながらそう答える咲夜様
「じゃ俺は部屋に戻るから、稽これからよろしくな!咲夜、後は任せる」
「はい!」
と言いリビングを出て行く冬夜様を見送り、改めて咲夜様の様子を伺う
「はぁ~お兄ちゃんが楽しそうだからまぁ良いけど、あたしってそんなキャラじゃないのにぃ~。川端さんも面白がっちゃって…もぅ」
溜息とともに溢した愚痴だけども、クラス内から咲夜様呼びされてる時点で手遅れだと思う
「じゃ稽ちゃん、私の部屋に案内するよ。おいで」
「あっはい」
そう言われ慌てて飲み干した紅茶はとても良い香りで美味しかったですが、もう少しゆっくり飲みたかったです
「あはは、そんなに慌てて飲まなくても後で川端さんが新しいの持ってきてくれるよ!」
咲夜様に追いついた私に掛けられたその言葉にビックリしました。キャラじゃないとか言ってたけど、まさにお嬢様ですよ!お茶なんて自分で入れるものだし、ましてや頼んでる様子も無いのに部屋まで持ってきてくれる?って一般のお宅だとあり得ない出来事ですよ!
「此処があたしの部屋だから」
と、案内された部屋に入り思わず出た言葉が『うわっ広っ!?』でした…だって仕方ないでしょ?3人掛けのソファーが向かい合うテーブルセットに、家電屋さんでしか見た事しかない大きなテレビ、ドラマで見た事ある様なPCデスクに本棚、一人で寝るのにこんな大きさ必要?と思われるとても大きなベッド。さらにはとても柔らかそうな絨毯に小さな丸テーブル周りに大小のクッションがポツポツと。なんじゃこりゃぁと驚愕してる私にクッションをポフポフと叩きながら『まぁ楽にして』と声が掛かる
高そうなソファーより床に座る方が安心出来るので、向かい合う形で腰を下ろすが、座布団が要らない程柔らかい絨毯でした
私が正座で固まって居ると
「そんなに畏まらなくて良いから」
と、クッションに体を預ける咲夜様から声が掛かるが、今日が初対面で初めて伺う異次元なお部屋でそんな図々しい真似なんてとてもじゃないけど出来ません!
「いえ…私はこのままで…それにしても広いお部屋ですねぇ」
改めてキョロキョロと周りを見渡しながらそう伝えるが
「あはは~まぁそのうち慣れるから。でも、そんなに広いかな~?お兄ちゃんの部屋なんて3階の半分だよ?それに比べたら狭い方なんじゃない?」
「なっ!?」
このお部屋でも狭いだとぅ!?このスペースでも私だったら持て余すだろう広さが有るのに…
「まぁ最近はピアノとか色々物が増えたけど、前はだだっ広いだけの殺風景な部屋だったけどね~」
へっ?‥‥‥‥‥部屋にピアノ?何それ?意味わからん!?
無駄使い感しかしない…お金持ちの考えが理解出来ません!
ってか何処からどー見てもお嬢様じゃん!キャラじゃないとか言ってたけど咲夜様じゃん!咲夜お嬢様じゃん!!今更ながらとても凄く納得しましたよ、もう!
「あっ!そのままだと制服皺になっちゃうね…あたしの服で良かったら着替える?服だけはいっぱい持ってるから好きなの選んで良いよ!よいしょっと…こっちこっち」
と、立ち上がり扉へ向かう咲夜様
タンスやクローゼットが見えないから不思議な感じはあったのですが、まさか隣のお部屋に案内されるこの状況に言葉が出ません…そして案内された隣のお部屋はまさかの衣装部屋でした!?
「さっ好きなの選んでいいよ!今の季節だとこの辺だから」
唖然としました…季節ごとに分かれ色とりどりの服がいっぱいじゃなくて大量に有りました…どこのショップですか此処は!?存在感たっぷりの姿見に三面鏡の化粧台まで置いてあるし…私達まだ成長期真っ盛りの中学生ですよ?サイズなんてすぐ変わるでしょ?それなのにこんなにも大量な服いらないでしょ!?
そんな呆然と立ち尽くす私に
「あー…うん、これとこれと…ん~これかな?後はこのパーカーで!じゃこれに着替えてみて!靴下はこれ」
状況整理が追い付かないままだったので、言われるがまま渡された服に着替えてしまった…
とても肌障りの良い真っ赤なキャミソールに白いシャツ。少し短めの薄いのブラウンのフレアスカートはキュロットパンツでした、少し厚めでとても柔らかい生地で履き心地はスカートそのものでした。黒のハイソックス履き、グレーのパーカーに袖を通す…
咲夜様が目の前に立ち『ん~』と言いながらシャツのボタンを上3つ外し一歩下がり私の全身を見定める…『うん、良いんじゃない?』と姿見の前まで促され目の前にはとても女の子らしい私が写って居ました
「えっ嘘?これが私…?」
家ではほとんどジャージで過ごす私には、こんな女の子してる自身を見るのは初めてで、困惑と嬉しさとの思いが溢れてきました
「うん。じゃーそれはあげるから♪制服は畳んでおこうね」
「えっと…その…」
「riliKsの服だったら、お願いすれば貰えるから気にしないでね」
「貰える?りりくすってあのお店ですよね?」
貰えるってなんだ!?私も良く安い靴下セットとか買いに行くけど…
「あっうん。お母さんの会社だから」
お母さんの会社?お母さんの務める会社じゃくて?
「お母さんの会社ですか?」
理解できず聞き返してしまったが
「そ!お母さん達が作った会社」
えっと…その‥えっと…あー
「そ、そうなんですね…」
しか言えなかった
解らない…全く解らない…私の家は言ってみれば底辺の家族
それが偶々お母さんが運転手って…こんな優しいお宅に…
しかも金銭感覚のおかしいお宅で…安心してって言われて、服まで貰って、私は何をどうすれば解らない感情で…今までと違い過ぎて…
「稽ちゃんって進路決まってる?」
部屋に戻って見ればティーカップにポットまで置いてある状況に、咲夜様は当然の様に口を付けながらそう問い質すが
これがお嬢様の日常なのだと理解は出来ない私が居ます!
正直ふざけんなよ!てめー!!
この状況でノンビリお茶飲んでんじゃねーよ!
当たり前みたいに喉潤してんじゃねーよ!
この茶葉幾らするのか聞いて良いか!?
聞いた所で見当違いな返事が来そうで怖い…
「この紅茶美味しいですよね」
「あーあたしは当たり前に飲んでるから解らないんだよね~お兄ちゃんはコーヒーだし」
ちぃくしょうやっぱりか!!…こほん
「進路はお母さんの次の仕事決まってからって思ってました。私立は多分無理なんだろうなって…」
家の事考えたら我儘は言えないし、家から近い所とかって探さなきゃだし、電車やバスなんか使える訳ないしって思ってた
「あのね稽ちゃん。あたし三桜受けるんだけど一緒に目指さない?勉強は大変だけど、進学校だし色々将来の選択肢は増えるよ?」
三桜って言った!?
三桜って私立の上に超が付く進学校ですよ!?そんな所に私が!?
なんでそんな所に…
「えっとなんで三桜なんですか?私は…あまり勉強頑張って無くって…」
家の事有ったから勉強は二の次で、まだ進路なんて気にして無かった
「んっとね、お兄ちゃんが三桜行くからだよ!」
予想の斜め上でした…まさか冬夜様がですか?ってか男子校じゃないの!?あり得ないでしょ?
「冬夜様がですか?」
解らない…男性が…なんで?
「あーお兄ちゃんの事解って無い顔だね、お兄ちゃんはとても頑張り屋さんで、目に見える人達、仲間を守ろうと努力する人なのね!だから三桜なんだよ!」
え?解らない…男性が努力?何故?わがままで暴虐武人が男性だと一般常識で、私なんか絶対縁の無い出来事だと‥‥‥
「あれ?稽ちゃんさっきのお兄ちゃん見ても解らない?」
居たね…色々混乱中に居ました…生まれて初めて見た男性でした…緊張と混乱と困惑で…あれ?私何を話した?
家の事、お母さんのとおばあちゃんの事、いたずらっ子の様な笑顔で咲夜お嬢様と…咲夜様が抱き着いても全く気にせず、優しく頭を撫でて…って
————あんな漫画の主人公みたいな優しい男性って居たんですね
~♪~~♪~♪―
驚きと戸惑いの中にいた私の耳にピアノの音色が届き、思考が中断され、ん?と、顔を上げ音の発する場所をキョロキョロと探す私に
「お兄ちゃんだよ」と言って上を指さす
えっ?飾りじゃなくて弾く為のピアノ?しかも男性が!?
「せっかくなんだし何か弾いて貰おうよ!行こ」と、私の手を取り部屋の外へ‥‥‥って行く?何処へ?まさか…嘘でしょ!?ちょっ!ちょちょちょっっっっっと待ってぇーーーー!!ってか咲夜様力強っ!?
心の!心の準備がぁぁぁ~!!!
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