E君の話
お盆最終日はBさんが遅番で、私も最後まで残り夜の閉店作業を手伝って無事終えることが出来た。その後も世間は夏休み真っ最中で、ちょくちょくM市店の手伝いを私はしている。
もちろん今回の幽霊事件は会社に報告済み。意外と課長は今回の件の話を聞いて食いつきが良く、防犯カメラを細かく検証すると言ってくれました。
CさんやDさんにも、私が13日に黒い服の男の幽霊を見た事を伝えている。
Cさんは尚一層怖がり、
「アアアア……最近バックヤードカラ男ガニヤニヤコッチ見テルノ感ジルヨオオオ!」
「いや、それは錯覚だと思う」
と、少々過剰に怖がっていました。
ですが、唯一幽霊に遭遇していないDさんはというと、
「私だけ見てない! 皆で私の事を騙そうとしてない?」
疑心暗鬼になってしまった。
そしてお盆休みから数日が経ち、私とBさんそしてCさんの3人が店にいた。
「盛塩置コウ!」
「でも、お店の前に置いちゃうとお客さんに聞かれることになっちゃうし……」
「ソシタラ中二塩盛ロウ! バックヤードノ前!」
「そこに置いて、幽霊がバックヤードじゃなくてレジの方に来たらどうしよう……」
「ウアアアアアア!」
BさんとCさんの幽霊対策の話を聞いていると私の携帯に電話がかかってくる。
「……ん? E君だ」
「え? E君?」
E君は新卒で我々の後輩である。
元々このM市店で働いていたのだが、8月の始まりに店舗移動で今は別のお店で稼働している。
彼がいなくなった分、私がピンチヒッターでここに来たという流れである。
「E君から?」
「何で私に? 店の電話を使って来ないってことはプライベートで?」
私は電話に出るとビデオ通話だった。
『あ! Aさんお疲れ様です!』
「お疲れ様です」
爽やかな好青年が画面に映る。
とりあえず、画面をBさん達に向けインカメにする。
『あ! B店長とCさん! お疲れ様です!』
「お疲れ様! E君元気そうだね!」
『いや〜こっちは大変ですよ! M市店に戻って先輩方の間に挟まりながらヌクヌクしたいっす!』
何言ってんだとツッコミつつ私はE君に尋ねる。
「それで、何で私の携帯に電話を?」
『シフト見たらAさんがM市店にいるみたいなので、もしかしたら皆の顔が見れると思って……』
「ホームシックか。そしたらBさんの電話にかければ良いんじゃないのか?」
『あ、いえ、真面目な報告もあるんでAさんに連絡しました』
私への連絡の方がおまけみたいな流れだけどもそのツッコミを吹き飛ばしてくれる報告内容だった。
『今、M市店の幽霊騒動が社内で話題じゃないっすか?』
「そんなに話題になってるのか?」
『はい、本社から別市店やお店まで話が行くほど噂が広まってますよ』
たった数日で相当広まっている。
もしかして本社の皆暇なのか? っと私の会社への不満ポイントが1点増える。ある意味風通しの良い職場と言えるかもしれない。
『僕もその話を聞いて、急いで電話したんですよ』
「心配してくれたってことか」
『あー……それもありますけど、僕も見たんで報告しようと思って』
「「「ッ⁉」」」
E君の爆弾発言が見事ここにいる先輩3人の血の気を吹き飛ばしてくれた。
「い、いつ?」
『確か……僕がM市店移動になる直前何で8月1日っすね〜』
ということでビデオ通話のままE君は語ってくれた。
ーー
8月1日付近の夕方頃。
Bさんと稼働中だったE君はレジ中で作業をしていた所、ふと目の前に気配を感じて前方を向くとバックヤードへ黒い服を着た人影が入って行くのが見えた。
一瞬Bさんかと思ったが、黒い服を着ていなかったように思えたので、誰か着たのかと思いバックヤードを覗いてみるが誰もいなかった。もちろん非常口も開くが誰もいない。そもそも非常口を開けて閉めると大きい音がなるので通った形跡すらなかった。
「E君どうしたの?」
「あ、B店長」
店内清掃を行っていたBさんが、E君が非常口を開けている行動に気づき尋ねてきた時、まさかコレが幽霊だとは彼も思っていなかったので気のせいだと考えたらしい。
「いや〜ハハハ、何か今B店長がこっちに行った気がしたんですよね〜」
「……? 私が?」
「すみません、今日暑くて何か疲れてるみたいで……気のせいだったみたいっす!」
そこで、話は終わった。
その後特に何も起きないまま店舗移動をした為、噂が流れて来るまでこの出来事を忘れていたぐらいだったと話した。
ーー
「い、言って! 確かに何か非常口開いてるE君を見てそんな話してた! 私も今思い出した!」
驚きと困惑の表情を見せるBさん。
これでE君の話は嘘偽りの無い話だと証明されてしまった。
「ワタシ故郷ニカエラセテ頂キマスウウウウウウワアアア! カエリタイ! 給料上ゲテホシイイイイ!」
またも混乱するCさん。
まあ、もうこれで幽霊の可能性が99%になってしまった。いや、本当にそうなのか?
いわゆるこれは集団ヒステリーとか言う奴で、Bさんの話を皮切りに皆が似たような錯覚を無意識にBさんの話に寄せてしまったという良くある現象にも思える。
「……」
だが、そしたら私も集団ヒステリーの中にいる1人なのだが、確実にあの時黒い服の男を見た。顔まで見たのだ。あれが錯覚だったと言うなら精神科診断を受けたい。
私は頭を抱え、頭をフル回転させる。
「……とりあえず、明日本社に行くから話をまとめよう。課長にも話してはいるから時系列を整えよう」
私は自分のメモ帳を取り出して今回の事件をまとめる。
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