Cさんの話

 店に戻った私は入口付近で待機していた2人を見つける。


「Aサンキタアアアアア!」


 絶叫して喜ぶCさんと、顔色を悪くして申し訳無さそうな表情を見せるBさん。


「ごめんねA君。戻って来てもらって」

「それは気にしないで、2人は大丈夫?」


 頷く2人を見て安心する。

 とりあえず電話の内容を確認し、私がバックヤードの中を覗いて誰もいないことを確認。更にこの前は開いていなかった非常口をゆっくりと開ける。


「……」


 店の外、裏路地となる。

 人影は無い。この路地を道沿い真っ直ぐ行くと大通りに出る。それぐらいの場所で、ここに用がある人間は私達従業員以外ほぼいない。虫が入るかもしれないので、扉を閉め彼女等の元に戻る。


「とりあえず、不審者らしき人は中にも外にもいないのは確認した」


 私の言葉に多少安堵したようでBさん話す。


「こ、ここの店長になってから3年経つけど、今までこんなこと起きなかったのに……」

「うーん……元々治安悪いし、不審者が店内にいたなら防犯カメラに映ってるかもしれない。とりあえず本社に報告するよBさん」

「ありがとう……えーっと、これってさ。不審者の可能性もあるけど……」


 Bさんが何を言うのかわかる。

 話を逸らすつもりだったが、方向修正される。これ以上怖がらせたく無い気持ちで私はどう言ったら良いか悩んでいた時。


「ワタシモ、前ニ見タ! アレハ幽霊! イヤキット悪魔ダヨ! ヒィィイイイ!」


 涙目のCさんの興奮が収まらない。

 それをBさんが宥める。


「お、落ち着いてCさん! そう言えば、さっき何か言いかけてたよね?」

「ああ、さっきの『バン!』って大きい音がなる前に話しかけてたってやつだよね?」


 ワタシモ見タと言っていたやつだ。

 Cさんも落ち着いてきたので、店内に入って状況説明をしてくれた。



ーー



 Cさんの話は8月10日頃の夕方。

 私と同じく入口から黒い服を着た男の人が入っていく気配を感じ、その時近くいたパートのDさんに人が入らなかったCさんが尋ねる。Dさんはその時お客様対応中もあって見ていなかったらしく、一応店内に不審人物入って来なかったかバックヤードを確認したが誰もいなかった。

 最終的にCさん自分の気のせいだと自己解決したそうだった。



ーー



「……」


 私達とまるっきり一緒の状況だった。私はこの時血の気が引いていくのを感じた。

 ヤバイ……これはガチだ。

 ガチの幽霊なんだと確信してしまった。

 私が黙っているとBさんが反応する。


「さっきの私と一緒の状況……2回もこんな状況が起こるって普通じゃないよね……ね、A君?」


 ごめんなさい3回なんですBさん。

 でもここで、俺も俺もになったら仕事どころでは無くなる。

 正直怖いという気持ちもあるが、この場を上手く収まる方法を考えてしまう。一応、私が見たことを言わなければ、1割ぐらいの可能性で不審者という可能性が浮上してくると勝手に仮定していたのだ。

 そう、何を隠そうここは埼玉県M市。

 あの温厚で優しいBさんですらも「埼玉モンキーパーク……」と地面に転がりまわり馬鹿騒ぎするお客様達を見つめながら吐き捨ててしまう所なのだ。不審者の1人や2人居ても不思議では無いのだ。

 とりあえず、「不思議だね」と当たり障りのないことを言おうとした矢先、Cさんが私とBさんの腕を掴んだ。


「ワタシ、遅番デ1人」

「あ、そうだったよね……」


 Bさんが頷くと、Cさんは泣きそう(ほぼ泣いてる)な表情で手に力を込める。


「1人ニシナイデ」

「え、えっと……」

「オイテカナイデエェェェ! 最期マデイテエェェェ!」


 Cさんの心からの叫びに、私達は閉店までいることにした。





 そして閉店し私達は戸締まりを皆で確認、逃げるように店から出た。


「タスカッタ!! ヤッター!! フゥーワタシ達ハスクワレタ!!」


 大喜びのCさんにBさんも安堵する。


「A君まで最後にいてくれてありがとうね。心強かったよ! 早番なのにごめんね」

「いや、私のことは気にしないで。とりあえず最後まで何もなくて良かったよ。」

「オツカレサマデシタ! ソレジャア、Aサント店長、本当ニアリガトウ! 明日オカシモッテクルヨ! バーイ!」


 ということで早々に解散し、Cさんは脱兎の如く自転車で帰っていった。

 私とBさんは途中まで同じ夜の道を帰ることになる。


「本当にありがとうA君。A君は仕事終わった後だったから、本当は本社に電話しようと思ったんだけど、ほらお盆休みだからさ」

「ああ……そう言えばそうだった」


 土日祝日も働く仕事だと、日にち感覚みたいな物が無くなる。何か最近忙しいなと思ったらカレンダー通りだと一般的に休みの日であることに気づくのもしばしばだ。


「お盆……」


 やっぱりあれは幽霊だったのだろうか?

 そんなことを考えると、


「やっぱりあれって……幽霊だよね?」


 Bさんも同じことを考えていた。

 当然か。あんなことがあったら、もうそれしか考えられない。 もう正直これ以上話題は逸らせないなと思った。

 もうお店から離れたのもあり、話しても良いかと夜の蒸し暑く虫もうるさく鳴く帰り道で立ち止まり私は口を開く。


「どうしたのA君?」

「あのさ、Bさん」

「な、なに?」

「実は……話さなきゃいけないことがあって」

「え⁉ 話さなきゃ……いけないこと……って?」


 私は真剣にBさんと向き合う。

 普段Bさんとはくだらない笑い話しかしていないのもあり、真面目な表情で向き合うのにお互い馴れていない。

 Bさんも思わず私から目を逸らして恥ずかしそうにしているのが見ててわかる。


「実はさ……」


 私も緊張しつつ本当のことを話す。


「私も一昨日見ちゃったんだよね……レジの所で」

「……え?」


 目を逸らしていたBさんが、間を開けてこちらへ向き直る。


「黒い服の男がバックヤードに入って行ってさ……すぐに追いかけたんだけどいなくなってて、自分が疲れてるんだと思ってたんだよ」

「……」

「Cさんも同じ黒い服の男を見たって言ってたからあの場では言いづらくてさ……ごめん」


 暗がりの中だがBさんの顔が徐々に青ざめていくのがわかる。でも私は、結論を述べる。


「きっと……今回皆が見たものは……幽霊に違いないんだ」

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