Bさんの話

 8月15日の夜。

 早番だった帰宅の最中、改札口を通る手前で電話がかかって来たのに気づく。


「……Bさんだ」


 スマホの液晶にはお店の店長を努めている女性のBさんの名前が書かれていた。仕事内容は違うがBさんと私は同期で、店長以前も違うお店で働いていたこともあり気の知れた仕事仲間である。

 物腰が柔らかく気遣いをしてくれる眼鏡をかけた優しい女性だ。そして可愛い。


「もしもし?」


 私が閉店の時間より早いので店内のトラブルかと気を引き締めながら電話に出ると、今まで聞いたことの無い焦った声色のBさんだった!


「A君ごめんね! いいい今Cさんとお店で2人なんだけど! あは、アハハハハハ!」

「え、何⁉ ど、どうしたの?」


 今までクレームにも動じず淡々とした業務報告をする彼女が笑い出してしまっていた。間違いなく異常事態ということだ。


「Bさん落ち着いて! 何か事故とか?」

「い、いや事故とかではなくて……」


 落ち着きを取り戻したBさんが一から説明してくれた。



ーー



 私が帰ったあとBさんとCさんの女性2人で稼働をしていた。店内に客がいなかった為それぞれ別の雑務を行っていた。

 レジ金額の確認をしていたBさんがふと前を見た時、黒服を着た人がバックヤードへ入って行ったのが見えた。


「Cさん?」


 思わずBさんは声を掛けたらしい。

 黒い服を着ていたCさんかと思ったらだ。だが店の前を掃除していたCが掃除道具を持ってとのこと。


「B店長、ドウシタノ?」


 因みにCさんは片言で褐色肌でスレンダーな美人である。


「え? いや、何かレジでお金数えてたらCさんがバックヤードに入って行くのが見えて」

「? ズットワタシ、外ノ掃除シテタヨ」


 Bさんは自分の思い違いだと考え、世間話程度に先程人影が見えて名前を呼んでしまったと素直に話した。


「アー、実ハワタシモ、同ジコト起キタ」

「え?」


 Cが何かを話そうとした矢先だった。


 バアァァァン!!


 と非常口がとてつもない衝撃音が店内に響いた。店内にいた女性2人は叫びながら外へ出た。そしてBさんが私へとっさに電話したとのこと。



ーー



「ごめんね! 信じてもらえないかもしれないけど、今そんなことが起きて……」

「……」


 私は笑うことが出来なかった。

 Bさんの今起きた話。

 Cさんの言いかけた内容。

 そして、この前私の目の前で起きた現象。

 全く同じ事が、3人の大人が体験したことになる。

 脳裏に走り続けているその答えを押さえて、私は指示を出した。


「今からお店に戻るので、ちょっと2人で待ってて下さい」

「あ……でも、すみません。電話しておいてあれなんだけど、もうA君はあがりだから……」

「大丈夫、2人が心配だから戻ります!」


 私は、自分が前に体験したことは伝えずお店へと戻った。

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