VS 三人の悪魔<ゴリティア> REVENGE

第9話 すべては戦場の【中】にある

 赤藤高校の入学式から三週目が、もうすぐ終わる。


 初々しい新入生達もようやく義務教育から離れた高校生活にも慣れたようで、放課後ともなると先輩達と後輩、顧問の先生との交流も珍しくなくなった。


 名門と呼ばれても所詮は進学校インテリ。体育会系の多い学校とは違い、そこまで上下関係に厳しくはなく、今のご時世、野球部やサッカー部は坊主強制――なんてこともない。


 だから、高圧的な先輩達に対して、不満を起こした後輩達のクーデターなんてものも、教師による鉄拳制裁もない。


 平和そのもの――あぁ、『つまらない』。


「あれから一週間だぞ。どうするつもりだ」


 一冬が練習もせずにボーッと空や風景を眺める僕に尋ねる。

 僕は適当に流そうと生返事をする。

 とにかく日中は眠くて、あまり頭が回らない。夜型人間にとって、学校生活というものはかなり辛いものなんだ。


「貴重な一式道具――総額でいくらするかわかってんのか。お前が勝手にやったんだ、お前が責任もって回収しろ。もしあの一年が壊したり売ったりしてやがったら、お前が腹切れよ」


 ふと、校門を逆走する生徒が見える。

 生徒達の帰宅の流れに逆らって慌てて逆走するものだから、案の定何人もの生徒にぶつかっては頭を下げている様子。


 ようやく面白いものが見れた。


「冬一は時々ヤクザみたいな口ぶりだよね。心配しなくても、責任は僕が持つさ」

 一冬は高圧的な言葉や口見た目通りの本質は神経質で几帳面であり、心配性だ。


「だから、入会試験なんて時間の無駄だって言ったんだ。そんな暇があるなら、『アンドロマリウス』を育てるのに充てるべきだったんだ」


 アンドロマリウス――それは僕達の最後のメンバー候補であり、そのプロジェクトの名前。


「約束忘れてねぇよな。誰も入会に値する奴がこなければ、お前も本腰で協力しろよ」

「あぁ……わかってるよ」


 一冬は僕がその計画に乗り気じゃないのを見抜いている。

 だけど、その完成には僕の協力が必要であり、僕に協力させる口実が必要なんだ。


「本当にやってくると思ってるの?」

 鈴木さんが生徒会の仕事を終え、僕に尋ねる。


「さぁ、僕がどう思おうが関係ないさ。彼が変わるか、それとも諦めるか――どっちになるか」


 面白いことギャンブルは好きだ。それが僕の一人勝ちなら、なおのこと面白い。


「いくら待っても無駄だ。人はそんなに簡単に変わらねぇ。今まで積み上げてきたもん全部壊してくるなんざできねぇ。そんなことができたならとっくの昔に変わって――」


 一冬の言葉を遮るように、サーバー室の重たい扉が勢いよく開き、寒暖差、気圧差から風が吹き抜ける。

 扉の前には、話の中心にいた――校門を逆走してきた彼が息を切らして立っていた。


「さ、再試験お願いします!」


 それは、まだ名前の知らない彼。

 一週間前に出会い、僕達に叩きのめされ、絶望していた暗い瞳の男の子。


 その彼の目には、強い光と熱い炎が宿っていた。


「どうして今日来たんだい?」

 再試験を求める人が現れたとき、決めていた質問を投げかける。


「え? えっと……今日が部活入部提出の最終日だって聞いていたし――何度も再試験お願いしても迷惑でしょうし――やれることがあるうちはギリギリまで練習してやってきたらいいかなって思って……」


 そうか。その様子だと学校を休んでずっとゲーム三昧だったようだ。目元には若干隈ができているし、髪も乱れてボサボサだ。


「ップ――はっはっはっは! 聞いたかい一冬? この子は、図々しいのか奥ゆかしいのかわからないね」


 僕はそのアンバランスがさおかしくて吹き出してしまう。主人公の登場にしては、あまりにかっこ悪い台詞と姿だ。


「本多君……確かに、再試験も認めてるわ。ただ、募集の紙面には書いていないだけよ」


 これも僕らが決めた入会試験のルール――大会でもよくある敗者復活戦ってやつだ。

 この三週間で何人も一次試験は受けたが、皆僕達の暴虐的な対応に憤慨するか泣くか、呆れるかして去って行った。彼のように、二次試験を受けに来たのは一人だけ。


 その一人も、二回目で完全に諦めてしまった。


 彼はどうだろうか。あれから一週間――また打ちのめされて暗い顔で僕達の前から去るのか。


 それとも復讐リベンジを叶え、悪魔ぼくらに一矢報いるのか。


「再試験だからって手なんか抜かねぇぞ。ボコボコにしてやる」

「そうね、こっちだって中途半端な人なんていらないわ」


 一冬はいつも通りだが、鈴木さんもいつになく攻撃的だ。

 そう言えば、彼女はこの入会試験のルールを決めるとき、一番反対していた。誰も、こんなルールでは合格なんてできないと言い切った。


 だからこそ、彼女はそれを証明するために、本気でこの一年生を潰す気のようだ。


「はい! お願いします!」

 だけど、一冬の重圧にも、鈴木さんの敵意を受けても、この後輩君は気持ちの良い振り切った返事で僕達の前に立った。


 彼が変わったのか、それとも変わらなかったのかは、今日わかる。


 すべては、あの電子の戦場で証明される。

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