坑道の奥
ツヨシ
第1話
彼女を連れて、心霊スポットに行った。
有名な場所ではなく、ごく一部の人しか知らないような場所だ。
俺としては人里はなれた山奥にある暗く細い坑道に心霊スポットと言って女の子を連れて行けば、怖がって抱きついてくるに違いない。
そうしたら「大丈夫だよ」と優しく抱き寄せればいい。などと言った状況を期待して連れて行ったのだ。
ところがいざ坑道に入っても、彼女はさして怖がる様子もなく、時には俺の前を歩いたりするのだ。
それはまるで近所を散歩しているかのようだ。
当てが外れた俺は、とりあえず右手の懐中電灯で坑道を照らしながら、左手にスマホを持って撮影した。
なにか映ればそれで彼女を怖がらせることができると思ったのだが、さして期待をしていたわけではない。
そのまま歩いていると、すぐに行き止まりに突き当たった。
何のために創られたのかわからないこの坑道は、長さも思ったよりも短かった。
俺にとっては全ての思惑が外れたことになるのだが、これ以上は進めないため撮影もやめて、このまま俺のアパートに帰ることにした。
帰りの車の中はすこし気まずかった。
それでもアパートに帰ると、早速スマホで撮った映像を見た。
最初は何も映っていなかったが坑道の一番奥に着いたとき、突然真っ白い若い女の顔だけが、宙に浮かぶようにはっきりと映っていた。
そしてすぐに消えたのだ。
――えっ!
俺は驚いたが彼女も同様だった。
「あそこに、そんなものがいたなんて」
そう怯えた声で言うと、俺のスマホから低くしゃがれた女の声が聞こえてきた。
「今ここにいるよ」
と。
終
坑道の奥 ツヨシ @kunkunkonkon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます