これが俺達の新しい日常!


 晴れて恋人同士になった俺達だが、だからといって日常が大きく変わるわけじゃない。


 北大路きたおおじは根が真面目だから、予約はお断りするようになったものの、先にお誘いを受けた人達の約束は守らなきゃいらないと言って放課後はいつも出かけてたし、俺は俺でアルバイトを始めたせいで忙しい。



 冬休み前まで土日も暇がない北大路だけど、週に一日だけ二人で帰ることができる日がある。そう、木曜日だ。



みなみくん、お待たせ」


「おう北大路、行くか。じゃーな、高野たかの



 もたもた支度していた北大路がやってくると、俺は席で喋っていた高野に別れの挨拶をした。



「お、そういや木曜か。なあ、俺も行っていい? 今日はマナちゃん、友達とクリパだっていうから会えないし、腹も減っ」

「…………また明日ね? 高野くん」



 ついてこようとした高野の前に立ち塞がった北大路が、凄みのある笑みで告げる。



「お、おう……また、明日な……」



 高野はすぐに断念し、蒼白した顔で鸚鵡返しに答えた。




「北大路ー……お前さー、いつも言ってるけど、もうちょい高野に優しくしてくれよ。いくら何でも可哀想だろ」


「は? 高野くん相手にデレデレしてる南くんが悪いんじゃん。それと今日、上尾かみおくん、南くんの胸触ってたよね? あの野郎、何がDカップ最高だよ……俺の南くんにベタベタして、絶許。あいつ、きっと南くんを狙ってるんだ」



 んなわけねーだろと突っ込もうと、俺は隣を歩く北大路を見上げた。が、すぐに見なかったことにして目を逸らした。というのも、奴は五本目のチョコバーを噛み砕きながら、怨嗟に満ちた視線を虚空に向けていたのたが、その横顔に凄まじい殺意が漲っていたからだ。


 うっわ、怖……イケメン王子様が深く静かにキレると、こんなに迫力あるんだ。


 上尾はいよいよクリぼっちの危機に瀕して、デブでもいいから柔らかな温もりがほしいなんて言って、いつものノリでふざけて抱きついてきたただけなんだけど……その内、本当に消されるんじゃなかろうか?



 北大路と付き合い始めて、早くも二度目の木曜日。


 このように、俺の恋人はとてつもなく嫉妬深い。おまけに心配性で、俺みたいなデブなんか誰も相手にしないと言っても聞かない。曰く『南くんは自分がどれだけ可愛いか、わかってない!』とのことで。


 こんなのが可愛く見える奴の目こそおかしいんだと思うのは、俺だけではないはず。



「南くん、お疲れ様。待ってたわよ!」



 早足で歩いて『お惣菜アヤカ』に到着すると、アヤカさんが笑顔で出迎えてくれた。



「南くんにトワくん、今日もお揃いで。仲良しじゃなー!」


「南くん、またちょっと太ったんじゃないかい? トワくんは相変わらずべっぴんさんだねぇ」


「トワくん、彼女がいないんだって? 今度ワシの孫を紹介したいんだが、連れてきてもいいかい?」



 アヤカさんの息子というのもあって、北大路におじいちゃんズが群がるのも、いつもの光景だ。



「彼女なんていらないです。死ぬほどダメ出しして泣かせてもいいなら、どうぞご自由に。南くん、行こ」



 が、北大路はこのように毎度ながら塩対応である。


 でもおじいちゃんズ、懲りないんだよなぁ……これぞクールというやつじゃ! 痺れるのじゃ! カッコエエのじゃ! って盛り上がってるし。



 俺がこの店に来たのは、お客さんとしてじゃない。


 何を隠そう、俺のバイト先とはこの『お惣菜アヤカ』なのである。木曜日だけは北大路もバイトに出ることになっているから、一緒に帰れるってわけだ。

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