記念の瞬間を、頭突きで迎えるなんて!


「だってあいつ、俺の知らないみなみくんをたくさん知ってる。南くんもすごく高野たかのくんに心許してるし、見ててムカついてムカついて仕方なかった。今日のランチの時なんて何? 南くん、高野くんのこと愛してるって言ってたよね? しっかり聞こえてたし!」



 えっと……もしかしなくてもこれは。



北大路きたおおじ……高野に、嫉妬してた、の?」



 恐る恐る尋ねると、北大路はこくこくと何度も頷いた。



「南くんは、高野くんみたいな人が好きなんでしょ? だったら、あいつと俺と何が違うんだろうって考えて考えて、それが南くんの言ってた自信ってやつなのかなと思ったんだ。高野くんみたいに明るくて社交的な人間になれば、南くんは俺だけ見てくれるかもしれないって……それで」



 その先は、言われなくてもわかった。アヤカさんからもう聞いていたから。



 俺はブランコから立ち上がり、今度は自分から北大路にキスをした。うまくできるか心配だったけど、ちゃんと口が当たって安心したのは、ここだけの秘密だ。


 唖然とした顔もやっぱり絵になるなぁ、と見とれかけたけれど、それを振り切って俺は北大路を抱き締めた。



「北大路、ごめん。俺、また嘘ついてた」


「え、何? やっぱり高野くんともキスしてたの? 何回した? いつからしてる? やっぱり俺、あいつ嫌い。大嫌い」



 こいつはどんだけ高野に敵対心抱いてんだ……さすがに引くわ。



「違うっての、高野とキスなんかしねーわ。俺、北大路に友達として好きって言ったけど……そうじゃないんだ。俺も、北大路を独り占めしたいって思ってた。でも北大路がこんな俺なんかを好きになるわけないって、諦めてたんだよな。一応は自分を変えようとしたりもしたんだけどさ、うまくいかなくて」


「もしかして、ダイエットしようとしてたのって、俺のせい……?」



 北大路の声が、悲しげに曇る。


 その背中をぽんぽんと優しく叩いてから、俺は少し体を離して北大路を真正面から見て笑った。



「せめて見栄えだけでもいいから、お前の隣に並んで恥ずかしくないようにと思ってさ。慣れないことするもんじゃないよな。今はバカなことしたなーと反省してるよ」


「本当だよ。南くんはこのままがいいのに。減った分、ちゃんと取り戻してね? それと高野くんとキスしないでね? 高野くんだけじゃなくて他の人ともだよ?」



 こいつ、まだ言うか。


 ちゃんと伝えたつもりなのに、まだ理解してくれてねーのかよ……。



「だーかーらー、高野はただの友達。友達とは、キスなんかしないんだっつーの。北大路は、俺にとって友達以上で……特別の好き、っていうか。意味わかる?」


「うーん……友達以上に好きって何? 親友枠は高野くんとして、超友達とか極友達とか、まだ上のランクがあるの?」



 もおおおおお! こいつはぁぁぁぁ……!!



「恋人だろ、ボケ!」



 そう怒鳴り、俺は北大路の綺麗な顔面に必殺技の頭突きをかました。



 ――――これが俺と北大路の想いが通じ合った、記念の瞬間となった。



 思い返してみると、コントかよ……って突っ込み入れたくなるよな。俺の方は、照れ隠しもあったってことで許されていいと思うんだ。けど北大路の鈍さは、ひどすぎだよな? あんなにアホなんじゃ、頭突きされても文句言えないだろう。


 しかもこの後、北大路の奴、腰抜かしちゃってさ……『恋人』なんて単語、思い付きもしなかったらしくて、衝撃を受けたのと感激したのとで、冗談抜きで立てなくなったんだ。


 仕方ないから、俺が肩を貸して家まで送ってやったよ。北大路はごめんねごめんねと繰り返しながらも、ミツキちゃんの上書きができたと喜んでた。



 北大路って、本当に変な奴だ。


 男女問わず目を引くイケメンで、頭も良くて、何でもそつなくこなせて、友達も恋人も選び放題なのに、こんなおデブがいいなんて。嬉しいけど、奴の趣味の悪さがいろいろと心配になるよ。


 嬉しいけど……ああ、くそ! やっぱりすごく嬉しい! とてつもなく嬉しいです!!

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