言葉で伝えられないなら実行してみせる!?


 確かに、北大路きたおおじとの付き合いは、大食いから始まった。


 仲良くしてる時だって、あれ食べようこれ食べようで食べ物尽くしだったもんな。俺イコール食べ物って認識になっても、おかしくはない。


 でもさぁ、食べ物として好きってあんまりじゃね? 俺のドキドキ返してって苦情も言いたくなるよ……。



「お前なー、友達を食べ物に例えるってどうなんだよ? 俺は豚肉で、高野たかのはゴボウみたいな? 北大路は何だろ、高級スイーツ? よくわかんねーけどさ、ウチのクラスの女子にだけはそんな言い方するのはやめとけよ。あいつら、敵に回すと怖えぞ」



 すっかり緊張感をなくした俺は、うんざりした口調で北大路を諭した。



「食べ物みたいなのは、みなみくんだけだよ。それに人を食べ物に例えてるんじゃなくて……ああもう、説明しにくいな。いいや、やってみせる。南くん、こっち向いて」



 ブランコから降りた北大路が、俺の隣に立つ。言われた通りに顔を上げると、北大路の綺麗な顔が近付いてきて――くちびるに、柔らかな感触が走った。走っただけじゃない。しっかりと押し当てられて、それも一度二度じゃなくて、何回も繰り返されて。


 何が起こっているのか、全く理解できず、俺は北大路の背後に広がる澱んだ空をぼんやり眺めていた。


 あれ……俺、もしかしなくてもキスされてんじゃね? と気が付いたのは、北大路がくちびるを離して、上から覆い被さるようにぎゅっと抱き締めてきた時だった。



「ね、わかった? 食べ物みたいってこういう意味。俺、こうやって南くんを食べたいってずっと思ってた。食べたいっていうのは比喩で、本当にムシャムシャ食べるんじゃなくて、こうやって全身で南くんを触って味わいたいんだ。そういう好きなんだけど、伝わったかな」



 糖度マックス百億パーセント甘い声で囁かれると、やっと飛んでいた俺の魂が戻ってきた。



「食べっ……食べ食べ食べたたたた……!?」


「うん、食べた。まだ足りない。もっと南くんを食べたい」



 言葉にならない俺の声にとんちんかんな返事をして、北大路がまたキスをする。


 北大路の向こう、見上げていた空から、白いものが降ってくる。今年初めての雪だ。大粒の白いそれは、俺の目の中に落ちて、ひんやりと広がる。その刺激に後押しされて、俺は瞼を閉じた。



「……俺の好きって、おかしい? 南くん、イヤじゃない?」



 二度目……といっていいのか、何回したのかわからないキスを終えると、北大路はまた俺を抱き締めて、そっと尋ねてきた。



「イヤ、じゃないよ。俺も、北大路が……その、好き、だし」



 気恥ずかしさを堪えて、俺は素直に答えた。



「俺はこんなことしたいと思うの、南くんにだけだ。こんな気持ちになるの、南くんだけだし、南くんが初めてなんだ。南くん以外いらない。南くんを独り占めしたい。俺だけ見ててほしい」



 北大路の腕に、力がこもる。北大路の温もりと香りと吐息を全身に感じても、まだ実感が湧かなかった。


 北大路が同じ気持ちでいてくれたなんて、とても信じられなくて、頭が真っ白になるほど嬉しくて、言葉が出ない。



 すぐに俺も同じだと答えたら良かったのに、しかししばしの感激に浸ってしまったのがいけなかったようだ。



「でも、南くんの好きと俺の好きは、違うんだよね。だって南くんはいろんな人が好きで、いろんな人と仲良くしてる。南くんは、他の人ともこんなことしたりこんな気持ちになったりしてるんだよね? でも、俺はそんなのイヤだ。天野あまのさんにも高野くんにも、南くんが好きって思うのはイヤだ」



 抱き締めるというより締め上げるといった力加減に息が詰まりそうになりながら、俺は北大路が盛大な勘違いをしているとやっと理解した。


 なるほど……こいつ、好きの区別がついてねーんだ。


 俺が下手に誤魔化そうとしたせいだな……ああ、面倒なことになってしまった。



 しかしミツキちゃんはともかく、何故ここで高野の名前が出てくる?



「いや、俺は確かに皆と仲良くしてるけどさ、それとこれとは違ってだな……てか何で高野? あいつはただの親友だぞ?」



 すると北大路は俺から体を離し、人が変わったように険しい目を向けてきた。



「高野くんは、南くんの一番の仲良しじゃん。南くん、高野くんのことも好きなんだよね? だから高野くんにも、こういうことされてもいいんだよね?」


「高野とキスなんかできるか、気持ち悪い。最悪の罰ゲーム、もしくは拷問じゃねーか。お前こそ、高野と仲良くなりたいっつってたじゃん。だったら北大路も、高野ともキスできるのか?」


「はあ? それこそありえないよ。俺、南くん以外いらないって言ったよね? ちゃんと聞いてた? それに俺、高野くんなんか大っ嫌いだし」



 おい……これまたトンデモ発言が飛び出したぞ!?

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