友情よりも大事なものがある!


みなみー、カラオケ行かね? マナちゃん、今日女子会らしくてさー」


「俺らも男子会しよーってことで。いつもみたいにアニソン歌いまくろーぜ!」


「俺、練習しときたい歌あるんだよな。来週、清女の子達とカラオケ行くからさー」



 放課後、帰ろうとした俺を呼び止め、高野たかの坂井さかい上尾かみおが声をかけてきた。この三人はどいつもこいつもリア充という奴で、なかなか遊ぶ時間が合わない。


 今日は久々にそれぞれの予定が空いて珍しく合流できることになったようだけれど、俺は苦笑いしてお断りさせていただいた。



「悪い、ちょっと行かなきゃならないとこあるんだ」


「あ、そういや木曜日か」



 親友の高野には、すぐに俺の目的がわかったらしい。



「何よ、木曜って。南、バイトでもしてんの?」


「もしや彼女か!? 南、このやろ、お前いつの間に!」



 先月彼女と別れたばかりだという上尾が、俺の首に腕を回して締め上げようとしてくる。



「いてて、そんなんじゃないって! お惣菜屋に行くんだよ!」


「木曜日の唐揚げにハマってんだってさ。他の曜日と味がちょっと違うらしい」



 高野が説明すると、坂井が吹き出した。



「南、お前、唐揚げマイスターかよ! 惣菜屋の味の違いまで熟知してるとは恐れ入ったわ」


「唐揚げテイスティングのバイトじゃ仕方ねーな……今日のところは見逃してやるぜ」



 上尾もそう言って腕を解き、俺を解放してくれた。ったく、変な誤解して絡んでくるんだから面倒臭いったらありゃしない。



「じゃ、売り切れる前に行くわ。楽しんできてなー! 上尾はまたフラれろー、バーカバーカ!」


「んだと、このやろー!」



 捨て台詞に反応した上尾の怒声を背に、俺はバッグを持って全速力で昇降口に走っていった。追いかけてきたところで、俺を捕まえるなんてできなかっただろう。デブだけど足はやたら速いのだ。


 昇降口に来ると、そこには俺と同じく帰宅しようとするクラスメイトがいた。北大路きたおおじだ。


 靴を履き替えるという普通の動作も、これだけのイケメンだと様になってしまうからニクイ。



「よ、北大路も今帰り? そういや北大路って、どの辺に住んでんの?」



 お腹のお肉に邪魔されながらもいそいそと俺も靴を履き替えつつ、ついでだから話しかけてみた。



来名ぐるめ町……」


「へー、そうなんだ。俺ん家は多杭おおぐい町なんだけどさ、今日はそっち方面に用事あるんだよ。せっかくだから一緒に帰らね? 俺、徒歩だけど北大路は」

「ごめん……俺、自転車だし急いでるから……」



 いつもに増して暗い表情と声で俺の言葉を遮ると、北大路はさっさと行ってしまった。


 うーん、ちょっと馴れ馴れしくしすぎてしまったか? 確かに仲良くもないのに家の場所を聞くのは、やりすぎだったかもしれない。


 それにしても来名町とは、何たる偶然。俺が通っているお惣菜屋があるところじゃないか。


 ……と、ここで俺は大切なことを思い出した。早く行かなきゃ! 美味なる唐揚げが俺を待っているんだ!


 昼飯を全消費する勢いで、俺は駆け出した。そのうち北大路にも、あの店のことを教えてやろう。まだこっちに来て間もないから、きっとまだ自分の家の近所にあんな美味い惣菜を格安で売っている店があるとは知らないはずだ。


 仲良くなれるきっかけになるかはさておき、一度行ってみてほしい。超がつくイケメンとはいえ、北大路だって人間だし、俺と同じ食べ盛りの男子高校生。美味いものを腹いっぱい食べたいって願望は、少なからずあると思うんだよな。

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