第202話 激

「おい聞いたか?ヒロユキ様が金峯山寺に向うそうだ。」

「お前知らないのか!金峯山寺に行くのは役小角様の呪法を得る為に必要な事らしい。」

「なんと!たしかに前鬼様をお呼び出来る御方だ、役小角様の呪法を授かってもおかしくないだろう。」

修験者達の中で噂は広がっていく、そしてその歴史的場面に立ち会いたい、むしろ自分達のチカラで成し遂げたいと思う修験者達が全国から早くは京にいるヒロユキの下に、もしくは金峯山寺を目指して歩を進めていた。

その流れをとめることは各地の大名も出来ない事であった。


実質大和を統治しているような状態の興福寺はヒロユキの進軍に脅威を覚えていた。

「くそっ、修験者の奴らめ大和をなんだと思っている!」

興福寺を管理する、大乗院嵩大は荒れていた、松永久秀が台頭してきて大和の支配が揺らぐ中、更に土御門が南下してくる、その報告に苛立ちを隠せない。


「春日大社に連絡しろ、戦の支度だ!

大和は我等の土地だ、余所者を大和にいれる訳にはいかない!

あと九条家に連絡を入れろ、朝廷の命で止めるのだ!」

嵩大は僧兵、宗徒に激を飛ばし、軍を集める。

その一方で門跡寺院の強みである血筋を利用し戦の回避を模索する。


興福寺はこれまでも摂関家に連なる血筋を利用し、大和を統治する大義名分を手にしていた、そして朝廷を始め鎌倉幕府、足利幕府も興福寺との争いを望まずこれまで黙認しているような状況であった、寺院でありながら国主といった通常有り得ない統治を当然かのように享受してきたのだ、

今更奪われる訳にはいかないとあらゆる手段を用いて土御門の進軍を阻もうとしていた。


だが、朝廷から返ってきた返事は・・・

『土御門家は尊王の家である。

土御門家が必要というなら協力するように。』

興福寺からの救援要請に協力しろとまで言ってくる有り様であった。


「くそっ!これだから朝廷なんぞ役に立たない!

こうなったからには戦をして食い止めるのみ!

広く法相宗の危機であることを天下に広めろ!修験者共に釈迦如来様の偉大さをわからせるのだ!」

嵩大の激に法相宗の者達も集まり始める、奇しくも宗教戦争となる雰囲気を醸し出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る