第203話 事情説明
俺は進軍を始める前に一度参内して大和攻めの報告をしていた。
「修理大夫殿、大和に攻め入る準備をしていると聞いたがどういうつもりでしょうか?」
興福寺から知らせを受けた九条稙通が参内早々質問してくる。
「攻め入る?私は金峯山寺に向かう準備をしているのですが?」
「白々しい事を、信長の先駆と成り下がり大和を手中に収めるつもりであろう!」
「今回の一件、信長殿は関係ありません。
全て私個人の話なのです。
・・・とはいえ、皆さんは納得なされないでしょう。」
「当たり前だ!!」
「九条殿、お言葉が過ぎますぞ。」
周りの公家は怒る稙通をなだめるが一度怒りが出た稙通を鎮めるには足りなかった。
「そこで提案がございます。 私は何故今朝廷が困窮しているかを考えました。
それは各地の荘園を失った事が始まりでしょう。」
「何を今更!わかりきった事を言うな!
そう思うならお前の領土を荘園として明け渡せば良かろう!」
「それが現実的では無いと皆さんは理解してますよね?」
稙通とて怒りで言葉を発したが今更朝廷に領土を明け渡す武士がいない事は明白である。
「そこで私としての提案です、大和の国を朝廷の天領とし、そこから上がる物を朝廷の資金源とするのは如何でしょう?」
「なっ!」
「今、兵権を朝廷が持てば争いを招き、いらぬ厄災を招くおそれがあります、ですが国の運営に必要な分を除き、国に入る税を朝廷に納めれば、幾ばくかの助けになるのではないかと。」
「つまり統治は修理大夫殿が行い、税は我等、朝廷が受けると?」
「はい、私が統治いたしましょう、まあその際天領という事を知らしめていただければ余分な防備を減らす事ができ、朝廷に納める物も増えるかと思いますが。」
「・・・悪くない事ではある、だが修理大夫殿はそれでいいのか?」
「私としては攻め取るつもりの無い土地にございます、ただ、本国からすれば飛び地になる故、防備の方に些か自信がございません、朝廷の方から一言いただければ末永く統治出来るかと。」
大和一国から上がる収益である、荘園を失っている朝廷としては喉から手が出る程欲しい物であった。
「修理大夫よ、そなたの益になる事が無いのではないか?」
帝からの思わぬ声がけに俺も少し戸惑うのだが・・・
「自身の益を考えては臣としての勤めは出来ませぬ。
朝廷が困窮する今を打破する為にも此度の提案の御検討をお願い致します。」
「日ノ本にお主程我等朝廷を思う者はおるまい、九条よ、修理大夫は私欲で事を起こす者ではない、お主にも事情があるやも知れぬが収めてくれぬか?」
「帝のお言葉ならこの九条稙通否はございません。」
「ならば修理大夫よ、存分に事を成し遂げるが良い。」
「はっ!」
俺は朝廷に事情説明を終え、砦に戻るのであった。
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